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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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72話 動き出す影 - 繋がり始めた過去、一つの陰謀

古びた木箱の中で、静かに佇むオルゴール。アリアがそれをエレノアの前に差し出すと、エレノアの視線は、その表面に刻まれた見慣れない紋章に吸い寄せられた。


「この紋章は……」


エレノアの言葉は、途中で途切れた。その瞬間、堰を切ったように、鮮烈な映像が彼女の脳内を駆け巡る。陽光が降り注ぐ緑の庭。楽しげな笑い声をあげる二人の少女。一人は、今の自分と同じくらいの歳だろうか。そして、もう一人の少女が手に持つオルゴール。それは、まさしく目の前にあるものと同じ紋章を誇らしげに輝かせている。二人は、互いのオルゴールを交換し、満面の笑みで見つめ合っていた。


それは、遠い日の記憶。王宮の研究者だった両親と暮らしていた幼いエレノアが、父の仕事で王宮を訪れた商人の娘、リリアと出会い、友情を育んだかけがえのない時間。エレノアの両親は、二人の純粋な友情を喜び、その証として、特別なオルゴールを贈ってくれたのだ。二つのオルゴールには、同じ紋章が刻まれていた。


目の前のオルゴールと、突如として蘇った鮮やかな記憶の断片。エレノアは、交互にそれらを見つめ、言葉を失った。


アリアは、エレノアの揺れる瞳を注意深く見守りながら、そっと問いかけた。


「このオルゴールに、何か心当たりがありますか?」


エレノアは、ゆっくりと、しかし確かに頷いた。


「これは……リリアとの……大切な思い出の品です」


声は微かに震えていた。そして、その紋章に見覚えがあることに、改めて気づく。それは、両親の遺品にも刻まれていた、アルトリウム王国の紋章。幼い頃は特に意識していなかったその紋様が、今、重い意味を持ってエレノアの心に迫ってきた。


アリアは、エレノアの言葉を聞きながら、胸の奥で確信を深めていた。この紋章こそが、これまで断片的にしか見えていなかった悲劇を繋ぐ、重要な手がかりになるのではないか。そして、その先に潜む黒幕へと辿り着くための、細いけれど確かな糸口となるかもしれない。


エレノアにとって、その紋章は単なる美しい装飾ではない。それは、今はもういない親友との、純粋で温かい思い出の象徴。同時に、二人の人生を狂わせたかもしれない、深く暗い陰謀の核心に繋がる可能性を秘めている。光と闇。対照的な二つが、一つの紋章の中で交差しようとしていた。


「リリア様と……お知り合いだったのですね」


アリアは、エレノアの悲しげな表情に寄り添うように、静かに言った。


エレノアは、瞳に薄い涙の膜を張りながら、ゆっくりと頷いた。


「ええ……幼い頃、よく一緒に遊んでいました。大切な、大切な友達でした」


蘇った記憶の中のリリアは、いつも明るく、太陽のような笑顔を浮かべていた。二人で庭を駆け回ったり、秘密の言葉を教え合ったり。オルゴールを交換した時の、あの喜びに満ちた表情が、エレノアの胸を締め付ける。


「ご両親様も、リリア様とご家族のことをご存知だったのですね」


アリアは、さらに問いかけた。


エレノアは、少し考えてから答えた。


「はい。父の仕事の関係で、リリアさんのご家族が王宮にいらっしゃることが何度かありました。両親も、リリアさんのことをとても可愛がってくれて……このオルゴールは、両親が私たち二人に贈ってくれたものなんです」


アリアは、オルゴールの紋章を注意深く見つめた。アルトリウム王国の紋章。なぜ、リリアのオルゴールに、そしてエレノアの両親の遺品に、同じ紋章が刻まれているのか。偶然ではない。


「エレノア様」


アリアは、真剣な眼差しでエレノアを見つめた。


「この紋章について、何か特別なことをご存じですか?例えば、ご両親がこの紋章について何か話されていたとか……」


エレノアは、眉をひそめ、記憶の奥底を探るように目を閉じた。

両親の優しい声、研究室に積まれた多くの書物、時折聞こえてくる な古い言葉の響き……。しかし、紋章に関する具体的な記憶は、なかなか見つからない。


「……思い出せないんです」


エレノアは、苦しそうに首を振った。


「ただ……この紋章を見ると、胸が締め付けられるような、不思議な感覚に襲われます」


それは、失われた大切な何かを思い出そうとしている、心の叫びなのかもしれない。

アリアは、エレノアの繊細な心に耳を傾けた。


「この紋章が、アルトリウム王国のものだと、今、改めて気づきました」


エレノアは、少し不安げな声で言った。


「なぜ、リリアのオルゴールに……」


アリアは、エレノアの手をそっと握った。


「まだ、全ては謎に包まれています。でも、この紋章が、過去の出来事を解き明かす鍵になるかもしれません」


エレノアは、アリアの温かさに、わずかに安堵の表情を浮かべた。しかし、その瞳の奥には、新たな疑問と不安が渦巻いている。リリアとの純粋な友情の象徴であったはずのオルゴールが、今や、不確かな影を帯び始めたのだ。


「アリアさん」


エレノアは、断固とした声で言った。


「私は、真実を知りたい。リリアに何があったのか。そして、私の両親に……一体何があったのか」


その言葉には、失われた記憶を取り戻し、隠された真実を暴き出そうとする、強い意志が宿っていた。アリアは、エレノアの固い決意をしっかりと受け止めた。


「ええ、エレノア様。私も、必ず真実を見つけ出します。この紋章が示す意味を、一緒に解き明かしましょう」


二人の間には、静かだが固い決意が共有された。過去と現在が交錯する中で、一つの紋章が、隠された陰謀の存在を静かに告げている。


繋がり始めた過去の記憶は、かすかながらも、確実に隠された真実へと導く光となるだろう。



72話:終わり



〈登場人物〉

* アリア:主人公。オルゴールを通してエレノアの記憶の断片を引き出す。

* エレノア:王宮魔術師団長。オルゴールの紋章を見たことで幼い頃の記憶を取り戻し始める。

* リリア:商人一家の娘。エレノアの幼馴染で、同じ紋章のオルゴールを持っていた少女(回想)。

✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


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✪読んでくださり、ありがとうございます。

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