70話 帰還と報告 - 王国への帰還、そして語られる真実
長い旅路の果て、アリア、エリオット、そして見慣れない顔ぶれの二人が、ウィステリア王国の王都へと足を踏み入れた。アリアの深く被ったローブのフードの奥から、虹色の光が漏れ出す。それは、彼女の新たな仲間、虹色のスライムのイリスだった。
まず向かうは王宮。重厚な扉の向こうには、見慣れた威厳のある国王と、優しい眼差しの王妃が待っている。アリアは、アルトリア王国でのアメリア王妃との協力、そこで起こった異様な出来事、そして必死に行った怨念の浄化について、言葉を選びながら丁寧に報告した。傍らには、魔法使いのエリオットが控え、必要に応じて補足説明を加える。
「今回のアルトリア王国での一件では、アメリア王妃と協力し、なんとか事態の収拾を図ることができました」
報告の途中、アリアの肩でプルプルと震える虹色のスライム、イリスに王と王妃の視線が注がれる。
「こちらは、私の新たな仲間です。イリスと申します」
アリアはそう紹介すると、共に控えていた屈強な体躯の男に目を向けた。
「そして、陛下、王妃様。この方は、ミストラル村で出会い、共に旅をしてきた武術の達人である師匠です。初めてお会いした時から、不思議なご縁を感じております」
国王と王妃は、その言葉に微かな感情の揺らぎを感じ取り、興味深そうに二人を見つめた。珍しい魔物の存在もさることながら、アリアの言葉の端々に、これまでとは違う温かい感情が宿っているように感じられたからだ。
「イリスは、私の力の一部のような存在で、共に旅をしてきました」
アリアはイリスについて説明を続けた。そして、アルトリア王国で得たエレノアの両親の事故に関する新たな情報、そしてその背後に陰謀の影があった可能性についても、慎重に言葉を選びながら伝えた。リリア一家の悲劇、そしてレオンの両親の事故についても、現在までに判明している事実を報告した。
師匠は、アリアの報告の間、静かに耳を傾けていた。時折、王や王妃から異常な現象に関する質問が飛ぶと、長年の経験に基づいた鋭い視点から、簡潔ながらも核心を突く意見を述べた。国王は、師匠の落ち着いた物腰と、時折見せる深い洞察力に、密かに感嘆の念を抱いた。
報告が一通り終わると、国王は少し身を乗り出し、マコトに向かって真剣な眼差しを向けた。
「マコト殿。先ほどのお話ぶりから、並々ならぬ武術の腕前とお見受けいたしました。つきましては、王都にご滞在の間、もしご迷惑でなければ、王宮騎士団あるいは王宮魔術師団の者たちに、可能な範囲で武術のご指導をお願いできませんでしょうか?」
国王の思いがけない申し出に、アリアとエリオットは少し驚きの表情を浮かべた。王国の精鋭である騎士団や魔術師団に、旅の途中で出会ったばかりの人物が稽古をつけるというのは、異例の提案だったからだ。
マコトは国王の言葉を静かに聞き終えると、落ち着いた声で答えた。
「陛下のご要望、承知いたしました。微力ながら、お役に立てるのであれば光栄に存じます」
国王の顔には、はっきりと安堵と期待の色が浮かんだ。
「ありがとうございます、マコト殿。期間や方法については、後日改めて詳しくご相談させてください」
王宮での報告を終え、アリアは師匠を連れて街へと戻った。最初に二人が向かったのは、王宮近くの静かな一画に佇む、由緒ありそうな邸宅だった。重厚な石造りの門をくぐると、広々とした庭園が広がり、手入れの行き届いた植栽が美しい。
「こちらが、叙爵と共に王様から下賜された私の邸宅です」
アリアがそう言うと、師匠は堂々たる佇まいの屋敷を見上げ、威厳ある門構えや、歴史を感じさせる建物の風格に、深く感銘を受けた様子だった。イリスは、アリアの肩から飛び降り、虹色の軌跡を描きながら庭をゆっくりと漂っていた。
邸宅内を簡単に案内した後、アリアは再び師匠を連れて街へと繰り出した。賑やかな通りを進み、様々な店が軒を連ねる一角に、簡素な天幕と使い込まれた水晶玉が置かれた小さな露店が現れた。
「そして、こちらが私の占い処です」
アリアがそう言うと、近くの店の店主である親しみやすい笑顔のエリーと、少し不器用ながらも誠実な青年マルコが、心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「アリア、おかえり!無事でよかった!」
エリーが温かい声でアリアに抱きついた。マルコも、ほっとした表情で小さく頷いた。
「師匠、こちらはエリーさんとマルコさんです。いつも私のことを気にかけてくれる、大切な人たちです」
アリアが二人を紹介すると、師匠は落ち着いた様子で頷き、軽く頭を下げた。エリーとマルコも、少し緊張しながらも、親しみのこもった態度で挨拶を返した。イリスは、興味深そうに露店の周りを漂っている。
その日の夕方、アリアはレオンとエリオットを邸宅に招き、夕食の席を設けた。大商会の会長であるレオンは、豪華な食材を手土産に現れ、居心地の良い食堂は温かい笑顔と楽しい会話で満ちた。
「師匠、こちらが王都でも指折りの腕利きだと評判の武器屋です」
レオンは師匠に、温かい笑顔でそう紹介した。師匠は、興味深そうにレオンの言葉に耳を傾けている。
「もし情報収集が必要になったら、この裏通りの店を慎重に訪ねてみるといいかもしれません。表には出てこないような情報も、そこなら手に入る可能性があります」
エリオットは、慎重な面持ちで、師匠に小さなメモを渡した。そこには、店の名前と場所が書かれていた。師匠は、新たな情報源となりうるその店に、強い興味を示した。イリスは、食卓の周りを虹色の光を散らしながら動き回り、時折、料理に興味を示すような仕草を見せて一同を和ませた。
温かい光が満ちる邸宅で、アリアはかけがえのない仲間たちと共に、穏やかな夕べのひとときを過ごしていた。王宮での思いがけない展開に、少しの不安を覚えながらも、彼女の心は温かな安堵感に包まれていた。故郷とは違うけれど、この堂々たる邸宅は、彼女にとって温かい光が灯る、大切な「家」となっていた。そして、共に困難を乗り越えてきた仲間たちとの絆は、夕べの柔らかな光のように、彼女の心を優しく照らし続けていた。
アルトリア王国で感じた陰謀の影は、王都に戻っても、なお小さな不安を残していた。
70話:終わり
〈登場人物〉
アリア:王都に戻った占い師。イリスという魔物を新たな仲間に加えた。
師匠:ミストラル村でアリアと出会った武術の達人。王都を初めて訪れる。
イリス:アリアの新たな仲間である、虹色のスライム。
ウィステリア王:王国の主。アリアの報告を受ける。
ウィステリア王妃:国王と共にアリアの報告に耳を傾ける。
エリオット:アリアの仲間。魔法使い。アリアと共に旅をしていた。情報収集に協力する。
レオン:アリアの仲間。大商会の
会長。武器屋を紹介する。
エリー:アリアの知り合いの店主。
マルコ:アリアの知り合いの手伝いの青年。
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。
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