69話 絆の深まり - 未来への誓いと帰還の決意
深々と茂る緑が陽光を細かく刻み、地面に模様を落としていた。木漏れ日の下で、アリアは静かに呼吸を整える。
隣ではエリオットが熱心に木剣を振るっている。彼の一挙手一投足には、もはや迷いはなかった。
少し離れた場所では、マコトが静かに佇み、二人を見守っている。
濃密な旅と修行の日々を通して、アリアの胸には確かな自信が芽生えていた。
当初は戸惑うばかりだった怨念の浄化も、マコトの指導とエリオットの励ましのおかげで、少しずつ、着実に身についてきた。指先から溢れる清らかな光は、以前よりも強く、温かい。
ふと、アリアは空を見上げた。
どこまでも続く青空。その下には、今も苦しむ人々がいる。
世界に蔓延する怨念を浄化する──それが、自分に課せられた使命。
最初は重く感じたその言葉も、今では胸の内で熱い決意となって燃えている。
「アリア、少し休んだ方がいい」
マコトの静かな声が、森に響く。振り返ると、彼の瞳にはいつもの厳しさの中に、わずかな柔らかさが宿っているように見えた。
「大丈夫です、マコト様。もう少し頑張れます」
アリアは微笑みながら答えた。
自然と「様」を付けて呼ぶようになったのは、師弟の関係を超えた、深い敬意と信頼の証だった。
夜、焚き火を囲んで三人は静かに語り合った。
エリオットはその日の出来事を楽しげに話し、アリアは浄化の中で感じた微かな変化を真剣に伝える。
マコトは二人の話に耳を傾け、時折、的確な助言を与えた。
「アリアの清らかな心は、怨念を打ち払う強い光となるだろう」
ふいに、マコトがそう言った。
その言葉は、静かでありながら、アリアの心に深く染み渡った。
師として、そして一人の人間としての、温かな言葉だった。
旅の終わりが近づいていた。
三人は、アルトリア王国での出来事をウィステリア王国に報告するため、一度王都セントラルに戻ることを決めた。
マコトから語られた過去の事件の真相も、彼らにとって無視できない問題だった。
「セントラルへ戻るのか……」
エリオットが感慨深げに呟く。
この旅でアリアと数々の困難を乗り越え、マコトから多くを学んだ日々は、彼にとってかけがえのない時間となった。
「うん。またセントラルで、私たちにできることを探そう」
アリアは力強く頷いた。
セントラルは、彼女にとって安らぎの場所であり、再び使命に向き合うための拠点。そして何よりも、マコトとエリオットという大切な仲間がいる場所だった。
ウィステリア王国へ向かう道中、三人の間には、言葉がなくとも深い信頼感が漂っていた。
アルトリア王国での出来事は、彼らの絆をさらに強く結びつけていた。
王都セントラルが近づくにつれ、街の喧騒が耳に届き始めた。
見慣れた景色が、どこか温かみを帯びて、アリアを迎え入れてくれるように感じられる。
セントラルの門をくぐると、活気ある人々の笑顔が飛び込んできた。
この街の日常の光景は、アリアにとって心から安らげるものだった。
三人はそのまま王宮へと向かった。
重厚な扉を開くと、見慣れた謁見の間が広がっている。
玉座には威厳ある王の姿があり、その隣には心配そうな面持ちの王妃が座っていた。
二人の視線は、アリアとエリオットの後ろに立つ、見慣れないマコトに注がれる。
「アリア、無事に戻ったか。そして、その方は……?」
王の声には安堵の色が滲んでいたが、わずかな警戒も含まれていた。
王妃もまた、慎重な眼差しをマコトに向けている。
「陛下、王妃様。こちらはマコト様と申します。私とエリオットの修行を見てくださり、アルトリア王国での一件でも助けていただきました」
アリアはマコトを紹介した。その声には、揺るぎない信頼と敬意が込められている。
エリオットも軽く頭を下げ、マコトへの敬意を示した。
マコトは王族の夫妻の視線を静かに受け止め、深々と一礼した。
「マコトと申します。この度は、アリア様とエリオット様のお役に立てたのであれば幸いです」
彼の落ち着いた声と誠実な眼差しは、自然と信頼を引き寄せるものだった。
アリアは、アルトリア王国で起こった出来事を一つひとつ丁寧に報告した。
怨念の存在、巫女との出会い、そしてマコトから聞かされた過去の事件の真相──。
彼女の語る言葉には、もはや以前のような迷いはなかった。
地に足の着いた確かな語り口だった。
マコトも必要に応じて簡潔に補足説明を加える。
王と王妃は真剣に耳を傾け、とくにマコトが語る過去の真実には、隠しきれない驚きを見せた。
初対面のマコトの言葉には重みがあり、二人は次第に彼の存在の大きさを実感していった。
報告を終え、アリアは深々と頭を下げる。
「今回の件で、私は改めて自分の使命の重さを痛感しました。世界に蔓延る怨念を浄化するため、私はもっと強くならなければなりません。そして、マコト様とエリオットと共に、この使命を必ず果たしてみせます」
その声には、揺るがぬ決意と、仲間への深い信頼が込められていた。
王はしばらくマコトの瞳を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「マコト殿、アリアとエリオットを助けてくださり、感謝いたします。あなたの話を聞くに、只者ではないとお見受けしました。今後とも、二人を導いていただければ幸いです」
その言葉には警戒の色は消え、マコトへの敬意と期待が込められていた。
王妃も、柔らかな笑みでマコトに頷いた。
王宮を後にした三人は、セントラルの街を見下ろす丘に立った。
夕焼けが街を温かなオレンジ色に染めている。
「王様と王妃様も、マコト様を認めてくださったみたいですね」
アリアはほっとした表情で言った。
「ああ。お前たちの確かな決意が伝わったのだろう」
マコトも穏やかな声で答えた。
「セントラルに、戻ってきたんだな」
エリオットが、しみじみと呟く。
この街には、自分たちの居場所がある。共に過ごし、成長してきた仲間たちがいる。そして、これからも共に歩む道がある。
三人の間には、温かな静寂が流れていた。
その心の奥には、未来への揺るぎない誓いが宿っていた。
共に手を取り合い、この街を、そして世界を守り抜く──。
彼らの絆は、夕焼け空よりも深く、温かい光となって、未来を照らしていくだろう。
ーーー70話へつづく
〈登場人物〉
アリア:怨念を浄化する使命を持つ少女。旅と修行を経て成長し、決意を新たにする。
マコト:アリアとエリオットの師。過去の事件の真相を知る。
エリオット:元王宮書記官。アリアと共に旅をし、絆を深める。
ウィステリア王:セントラルの王。アリアの報告を受ける。
ウィステリア王妃:セントラルの王妃。アリアを案じる。
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。
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