67話 旅の始まり - 心と技を磨く道
深い森の中で、アリアの聖女の力とイリスの癒しの光を受けた剣士マコトは、徐々にその意識を取り戻していた。彼の瞳に映る、心配そうに見つめるアリアとエリオットの姿に、深い感謝の念が湧き上がる。アリアの肩のあたりでは、七色に輝くイリスが、マコトの様子を静かに見守っていた。
「……助けていただき、ありがとうございます」
掠れた声で礼を述べたマコトに、アリアは安堵の微笑を返した。エリオットもまた、静かに頷いた。
昨夜の出来事を簡単に語り合う中で、アリアはマコトに、二つ前の前世で護身術の師であったベリタスの面影を強く感じていることを伝えた。
マコトはアリアの言葉に注意深く耳を傾け、遠い過去を思い出すかのように、しばらく沈黙した。そして、自身の名を「マコト」と名乗った。
手当てのお礼として、そしてアリアの中に確かに存在するベリタスの温かさを感じ取ったマコトは、二人に剣術と体術の指導を申し出た。
「あなたたちのような純粋な心を持つ者たちが、不正に苦しむ人々を救うために力を願うなら、私も微力ながらその助けになりたい」
と、マコトは静かに語った。
イリスも、その言葉に呼応するように、柔らかな光をマコトにそっと向けた。
こうして、アリアとエリオットは、故郷ウィステリア王国への帰路の途中、マコトという思いがけない師を得ることになったのだ。
日の出と共に始まった厳しい修行は、二人の心身を極限まで追い込んだ。アリアは、呼吸法、体捌き、そして古流の剣術の基礎を、エリオットは精神統一による魔法制御、元素魔法の応用、護身の杖術を、マコトの厳しい指導の下、懸命に学んだ。
マコトは、二人の才能を見抜き、それぞれの特性に合わせた指導を行った。アリアの内に眠る聖女のポテンシャル、そしてエリオットの魔法の才能を、マコトは目覚めさせるように、丁寧に彼らを導いた。
イリスは、アリアの修行を見守りながら、時折、彼女の集中を高めるように、微かな光で彼女を包み込んだ。
旅の道中、素早い魔物との戦闘訓練は、二人の連携と判断力を磨いた。また、貧困に苦しむ村人の姿を目の当たりにする経験は、アリアの心に、聖女としての使命感をより深く刻み込んだ。
「この力は、人々の苦しみを癒すためにこそ使わなければならない」
アリアの決意は、日増しに強くなっていった。
エリオットもまた、魔法の力をそのような苦しみを前にして、もっと人々のために役立てたいと強く感じていた。イリスは、苦しむ人々に寄り添うアリアの純粋な心を感じ取り、悲しげな光を静かに揺らめかせた。
「早くウィステリアに戻って、お父様のノートに書かれていた陰謀に関わる者たちの名を、国王陛下にご報告しなければ」
夜の焚き火を囲みながら、アリアは遠い王都にいる仲間たちのことを考えた。両親や、レオンとエレノアの両親、そしてリリア一家を奪った陰謀の真相を突き止め、必ず制裁を加えたい――その強い願いは、きっと彼らの心にも燃えているだろう。イリスも、アリアの強い決意を感じ取り、力強く輝いた。
「セリシアとユリウス様……二人が操られていたのは、同じ黒幕の仕業なのかもしれない。他にも、同じように苦しんでいる人がいるとしたら……」
アリアの声は、不安を含んでいた。もしそうなら、一刻も早くウィステリア王国に戻り、事態の真相を突き止めなければならない。
マコトもまた、アリアの懸念を察し、
「微力ながら、私が知る限りのことを伝え、あなたたちの助けになりましょう」
と静かに頷いた。
イリスは、アリアの不安な気持ちに寄り添うように、彼女の髪を優しく撫でるように、微かに光を揺らした。
エリオットの杖が、訓練のために前の空気を切り裂く。アリアの木刀も、小さなながらも力強い軌跡を描く。二人の瞳には、故郷への強い想いと、そこで待ち受けるであろう困難に立ち向かう固い決意が宿っていた。そしてそのそばには、静かに、しかし確かな温かさを湛えたマコトの姿があった。イリスは、二人の成長を温かく見守るように、穏やかな光を放っていた。
故郷ウィステリア王国は、もうすぐそこだ。二人は、この旅で得た経験と新たな決意、そして思いがけない温かい導き手を胸に、隠された陰謀の影を打ち払うため、力強い足取りで前へを目指した。
イリスもまた、明るい未来を信じるように、希望に満ちた光を静かに輝かせた。
ーーー68話へつづく
〈登場人物〉
* マコト: アリアとエリオットを助けた剣士。前世はアリアの護身術の師ベリタス。恩義を感じ、二人に武術を教える。
* アリア: 聖女の力を持つ女性。故郷の危機を救うため、マコトから剣術を学ぶ。使命感が強い。
* エリオット: 魔法の才能を持つ少年。アリアと共に故郷を目指し、マコトから魔法制御と杖術を学ぶ。
* イリス: 七色に輝く虹色のスライム。アリアの傍に寄り添い、その成長を静かに見守る。
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。
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