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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第五章 アルトリア王国編
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64話 浄化の光 - 黒幕の影

アリアは、静かな決意を込めて祭壇へと歩み寄った。

その小さな身体からは、大地の記憶を呼び覚ますかのような魔力が、静かに、しかし確かな意志を帯びて立ち上っていく。

エリオットはその様子を驚きと畏敬の眼差しで見守っていた。


フードの中、イリスの気配もまた、集中した清らかな光を発しているのが感じられた。


「……古代魔法……」


エリオットが思わず呟いたその瞬間――


祭壇の奥から、黒い影がうねるように立ち上り、アリアたちに襲いかかってきた。

その異様な力は、かつてセリシアの意識を深く侵食し、彼女を意志とは裏腹の行動へと駆り立てていたものだ。


「アリア様!」


エリオットは素早く結界を展開し、青白い光の壁が黒い影をかろうじて押し留める。

だが、影の圧力は凄まじく、結界は軋みを上げて歪んでいった。


「私がやります」


アリアは静かに言い、両手の前に魔力を集中させる。黄金色の光が、ゆっくりと球体を成しはじめた。


「心よ、光となれ……」


その声と共に光は膨らみ、やがてエリオットの結界越しに黒い影を包み込んでいく。

黒い影は悲鳴のような震動を放ち、なおも抵抗を試みるが、黄金の光に触れるたびにその輪郭を失い、やがて完全に溶けて消えた。


セリシアを拘束していた黒い触手もまた、淡く煌めく光に触れた瞬間に消滅する。

黒い霧が晴れると同時に、セリシアは鎖から解放され、力なく祭壇の上に崩れ落ちた。


静寂が戻る。

そこに残されたのは、穏やかに揺れる黄金色の光だけだった。


アリアはゆっくりと力を解き、肩で息をついた。

エリオットも結界を解除し、額の汗を拭いながら深く息を吐く。


「古代魔法……恐るべき力ですね」


安堵の中に、わずかな畏れを滲ませた声で、エリオットが言った。


アリアは頷き、セリシアのそばに膝をついた。

彼女はかすかに目を開ける。青い瞳に、もはやあの濁りはなかった。


「……アリア……?」


その声は掠れていたが、正気が戻っているのがわかった。


「大丈夫?」


アリアが問いかけると、セリシアはゆっくりと頷き、混乱した様子で周囲を見渡す。


「私……一体……?」


アリアは静かに語り始めた。

怨念に操られていたこと、そして、自分の意志ではなかった行動を取っていたこと――。


「冷たい……声が聞こえていたの……深い闇の中から……抗えなかった……」


セリシアは途切れがちな声で、記憶の断片を語る。

誰かに操られていた。だがその正体は、思い出せない。ただ、おぞましい感触だけが残っていた。


それを聞いて、アリアは力強く頷いた。

セリシアは被害者だ。その背後には、より深い闇――黒幕の存在がある。


アリアは立ち上がり、エリオットの方を向いた。


「やはり……背後に黒幕がいるわ」


エリオットもまた、真剣な面持ちで頷いた。


「今回の怨念、連続する事件……すべて、ひとつの陰謀の一端かもしれません」


二人の間に、短く重たい沈黙が落ちる。


「彼女をすぐにウィステリアに連れ帰るより、しばらくはアルトリアで静養させた方が良さそうね」


アリアは、そっとセリシアに視線を向けながら続けた。


「アメリア王妃様に相談して、保護をお願いしましょう。もし何か情報が入ったら、私たちに連絡を取っていただけるかもしれません」


「それが最善でしょう」


エリオットは深く頷いた。


「王妃様ならば、セリシア様の力にも、心にも寄り添ってくださるはずです」


二人は顔を見合わせ、頷き合った。


セリシアの一件は、ようやく終わった。

だがその背後には、まだ姿を現さぬ闇が潜んでいる。


これは終わりではない。

――すべては、これから始まるのだ。


アリアの瞳は、かつてよりもさらに深く、暗い未来を見据えていた。

フードの中のイリスもまた、その決意に呼応するように、静かに光を増していた。




ーーー65話へつづく


〈登場人物〉

* アリア: 主人公。聖女と古代王族の力を持つ少女。

* イリス: アリアのローブのフードに潜む清らかな光を放つスライム。

* エリオット: 魔法使い。アリアと行動を共にする。

* セリシア: 怨念に囚われた女性。解放を願い、アリアに協力する。

✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✦✦✦✦✦✦✦✦


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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