61話 禁断の書庫 - 父の日記と託された使命
埃の匂いが染みついた古い革表紙の日記を、アリアはそっと抱きしめた。
これは父・オーウェンがこの国で生きた証。
その重みが、彼女の胸に深く沁み込むようだった。
昨晩から読み始めた父の言葉は、ページをめくるごとに、これまで知らなかった父の苦悩と愛情を鮮やかに映し出していた。
日記の中で父は、エレノアの両親――セオドアとエレナの死を深く悼んでいた。
当初は事故として処理されたその死に、父は早い段階から疑問を抱いていたようだ。
研究者としての鋭い洞察力、そして親しい友人としての情が、父を真相へと突き動かしたのだろう。
日記には、事故現場に残されたわずかな不審点や、関係者たちの不可解な言動、そして父自身が行った極秘の調査の記録が、克明に綴られていた。
調査が進むにつれ、父はある確信に至った。セオドアとエレナの死は決して偶然ではなく、古代魔法を巡る深い陰謀の一端だったのだ。
日記には、その陰謀に関わるであろう強大な人物たちの名前や、彼らの隠された動きが慎重に記されていた。
父は研究の過程で、自身も危険に晒されていることを悟っていたのだろう。
ページの端々からは、隠しきれない焦燥や不安が滲み出ていた。
王国の未来を案じる思いも、日記の中で大きく取り上げられていた。
古代魔法の誤った使用は、この世界に破滅をもたらしかねない―― 父は、誰よりもその危険性を理解していた。
だからこそ、聖女の血を引くアリアに、かすかな希望を託したのだ。
「もし、娘であるアリアがこの力を正しく使い、この世界を守ってくれるなら…」
そんな願いが、繰り返しページに記されていた。
また、エレノアの両親が父と共に、古代魔法の核心に迫る研究を行っていたことも、日記の記述から明らかになった。
三人は、古代魔法の起源、その本質、そして制御方法について、共同で深く研究を進めていたようだ。
ページには、専門的な用語や複雑な理論が入り混じり、研究の深さが伝わってきた。
しかし、その研究が陰謀の核心に触れようとした時、悲劇が起きたのだ。
日記の最後のページには、インクが滲み、途切れたメッセージが残されていた。
「もし、この日記を娘のアリアが読む日が来たなら、どうか、この力を正しく使い、この世界を守ってほしい。そして、エレノアを…」
最後の一言は、そこで途絶えていた。
だが、その短い言葉には、父の深い想いが込められていた。
父は、研究仲間であり親友でもあったセオドアとエレナ、そしてその娘エレノアの未来を強く案じていたのだ。
アリアは、日記を静かに胸に抱いた。
かすかに残るインクの香りが、遠い日の父のぬくもりを思い起こさせる。
陰謀の現実、王国の行く末への不安、そしてアリアに託された希望と使命――それらすべてが、アリアの心に深く刻まれた。
自身の中に宿る古代王族の力、そして聖女の血を引く者としての重い責務。
父の日記を通して、アリアはその二重の宿命を改めて受け止めた。
エレノアの未来、そしてこの世界の平和を守ること――それこそが、父が自分に託した最後の願い。
アリアは、そう確かに悟ったのだった。
禁断の書庫の静寂の中、アリアの心に、強く揺るぎない決意の光が灯った。
ーーー62話へつづく
〈登場人物〉
* アリア: 古の聖女の血を引く主人公。父の日記から託された使命を理解する。
* オーウェン: アリアの父。故人。日記を通してアリアにメッセージを残す。
* セオドア: エレノアの父。故人。古代魔法の研究者。
* エレナ: エレノアの母。故人。古代魔法の研究者。
* エレノア: アリアの仲間。ウィステリア王国の魔術師団長。父の遺志にある彼女の存在が示唆される。
* アメリア王妃: アルトリウム王国の王妃。アリアに禁断の書庫への入室を許可する。
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。
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