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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第五章 アルトリア王国編
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60話 禁断の書庫 - 父への手がかり

静寂に包まれた古い聖域。

ひんやりとした石の床に、長年積み重ねられた祈りの熱が微かに残っているようだった。

アリアはゆっくりと祭壇に近づき、そっと手を触れた。


初代聖女キク。

遠い東の島国、「太陽国(たいようのくに)」の皇女であり、巫女の血を引く一族の出身。

この地に渡り、人々に温かい光を灯してきた。

聖女サクラ、そしてアリアの母ユリ。

彼女たちの祈りの残滓が、アリアの内に眠る力と共鳴し、じんわりと勇気が湧き上がってくるのを感じた。

古文書には、初代聖女キクが故郷で培った神秘的な力と、この地で新たな生活を築いたことが記されている。


(オーウェンの研究ノートより)

妻・ユリの語る故郷の古い言い伝えには、遠い異世界からこの地に渡ったという高貴な血筋の女性の話がある。

彼女の名前はキク。

東の海に浮かぶ島国、「太陽国(たいようのくに)」。

古来より独自の文化をもち、太陽神である天照大神(アマテラスオオミカミという女神を祖神とする皇帝がおさめる国。

直系皇女は巫女の力を持って、代々"斎"の役目を担う。

初代聖女キクは、その皇女であり、強大な霊力を持っていたと伝え聞く。

この地に渡った経緯は定かではないが、ユリの先祖と結ばれ、この地に根を下ろしたという。ユリは、その血が娘アリアにも流れていると信じている。時折見せる不思議な力は、もしかするとその血脈によるものなのかもしれない。


私も、古代魔法の研究を進める中で、異世界との繋がりを示唆する記述をいくつか目にしている。

特に、この世界とは異なる文字や文化を持つ地域からの魔法具や文献が見つかることがある。

それらの中には、「太陽国(たいようのくに)」のものと思われる意匠や、キクの故郷の言葉に似た響きを持つ呪文も存在する。

過去にも、我々の世界とは異なる場所から来た人々がいたのだろうか。

もしそうならば、初代聖女キクがこの地に辿り着いた背景、そして彼女が持っていた力についてさらに深く探求する必要があるだろう。


(アリアの回想と思考)

太陽国(たいようのくに)」…初代聖女キクの故郷。母ユリから聞いた話と、時折流れ込んでくる映像のような記憶。

桜並木、祭りの喧騒、懐かしいような、でもどこか他人事のような感覚。

これが、キクの故郷の記憶の一部なのだろうか。


そして、私にはもう一つの、もっと鮮明な記憶がある。

気がつけばこの世界の20歳のアリアとして存在しているけれど、その20年間の記憶は、まるで薄いヴェールがかかったように曖昧だ。友人との約束、初めて恋をした日のドキドキ、子供の頃の些細な出来事。思い出そうとしても、ぼやけて掴みどころがない。


その代わりに、鮮明に思い出せるのは、現代日本で生きてきたアラフォーの私の記憶。

編集者として週末占い師として慌ただしい毎日、慣れたはずの部屋の風景、友人たちの顔。そして、時折ふと蘇る、中世ヨーロッパの宮廷で人々を占っていた記憶。

豪華な衣装、王族たちの憂いを帯びた眼差し。


まるで、パズルのピースが欠けたように、この世界での私の記憶は途切れ途切れだ。

でも、ふとした瞬間に、以前のアリアが感じたであろう感情や、見たであろう光景が流れ込んでくる。

ああ、この時、彼女は悲しかったんだな、とか、この景色を綺麗だと思ったんだな、とか。

そうやって、私は私自身の20年間の記憶を、過去の私の断片的な記憶で補完している。


初代聖女キクもまた、遠い異世界から来たという。私の中に流れるその血は、私に二つの異なる過去の記憶をもたらしたのだろうか。そして、この曖昧な「私」という存在は、一体どこへ向かうのだろう?


「アリア様。」


静かに声をかけられ、アリアは瞼を開けた。アメリア王妃が、柔らかな眼差しで見守っていた。


「少し、お話がありまして。」


王妃に導かれ、アリアは王宮の奥深くへと進んだ。案内されたのは、重厚な扉の前に立つ、ひっそりとした空間だった。


「ここが、王家に伝わる禁断の書庫です。」


王妃の声は、わずかに緊張を帯びているようだった。


禁断の書庫。

その言葉の響きに、アリアは胸が高鳴るのを感じた。

王妃は続ける。


「ここには、古代の魔法や歴史に関する重要な記録が眠っています。そして…もしかしたら、アリア様の父上、オーウェン様がこの国に残されたかもしれない、個人的な記録もあるかもしれません。」


父の手がかり。

その言葉が、アリアの心を強く揺さぶった。なぜ父はこの国で研究を続け、母と出会い、そして幼いエレノアをウィステリア王国の女官長に託したのか。

その真相を知りたいという渇望が、アリアの胸の中で燃え上がった。


重い扉がゆっくりと開かれる。

埃の匂いと、古い紙の香りが静かに漂ってきた。

薄暗い書庫の中には、天井まで届くほどの書架が並び、無数の書物が眠っている。

アリアは、その光景に息を呑んだ。


「ここには、長い年月の中で、様々な知識が集積されてきました。」


王妃は静かに言った。


「危険な古代魔法に関する記述も含まれているため、普段は限られた者しか立ち入ることはできません。ですが、アリア様には、入る資格があると思います。」


アリアは、王妃の言葉に深く頷いた。

この禁断の書庫こそが、父への手がかりを見つけるための、重要な場所なのかもしれない。

彼女は、並ぶ書架を一つ一つ見つめ、父が残したかもしれない痕跡を探し始めた。


数えきれないほどの書物の中で、アリアは時間を忘れてページを繰った。

古代文字で書かれた魔法の書、歴史の深淵を語る古文書。

その一つ一つに、この世界の息吹が感じられるようだった。

時折、母ユリが語っていた古い言い伝えと似た記述を見つけ、胸が熱くなることもあった。


疲労が押し寄せる中で、ふと、一冊の装丁がアリアの目を引いた。

簡素ながらも、どこか見覚えのある紋様が刻まれている。手に取ると、革の手触りがしっとりと馴染んだ。

中を開くと、見慣れない文字の中に、時折、母ユリが書き残した文字に似た筆跡が見られた。


心臓がドキドキと高鳴る。

これは、父の記録かもしれない。

アリアは、一文字ずつ、注意深く文字を追った。

それは、研究ノートのようなものだった。古代魔法に関する考察、実験の記録、そして時折、愛しい妻ユリへの想いが綴られている。


ページを読み進めるうちに、アリアは父がエレノアの両親、セオドアとエレナと共に、危険な古代魔法の研究に深く関わっていたことを知る。

そして、その研究が、彼らにとってどれほど危険なものであったのかも。

父の焦燥感や、未来への不安が、ページから痛いほど伝わってきた。


そして、ページの終わり近くに、アリアは見覚えのある名前を見つけた。

「ユリ…」

それは、母の名前だった。

父は、研究の中で出会ったユリの優しさと強さに惹かれ、深く愛していた。

しかし、同時に、彼女の身を案じる言葉も綴られていた。


さらに読み進めると、父は、母ユリが見たという予知夢についても触れていた。

幼いアリアが、この世界の未来を左右する力を持つこと。

そして、その力を守り、育むために、安全な場所へ移る必要があるということ。

父は、苦悩しながらも、ユリの決断を尊重し、アリアをウィステリア王国へ送り出すことを決意したのだ。


ページの終わりには、父の憂慮が滲んでいた。

古代魔法を巡る陰謀の影。

セオドアとエレナの研究が、危険な勢力に目をつけられている可能性。

そして、愛する娘と妻を守ることができないかもしれないという、深い絶望感。


アリアは、父の残した言葉を一つ一つ噛み締めながら、涙が止まらなかった。

父は、遠い故郷を離れ、この地で愛する人と出会い、娘の未来のために苦悩し、そして、陰謀の影に怯えながら生きていたのだ。


禁断の書庫の静寂の中、アリアは父の温かい想いと、深い憂慮に触れた。

それは、これまで知ることのなかった父の真実の姿だった。

そして、初代聖女キクから続く、異国の血と巫女の力が、自分の中に確かに流れていることを改めて感じた。


この手がかりを胸に、アリアは、父が辿った運命の真相、そして母ユリが守り抜こうとした未来へと、さらに深く足を踏み入れていくことを決意した。


今、彼女の手の中にあるこの日記が、その最初の糸口となるだろう。




ーーー61話へつづく


〈登場人物〉

* アリア: 古の聖女の血を引く主人公。二つの前世の記憶を持つ。父の手がかりを探す。

* キク(菊子): アリアの曽祖母。異世界からの聖女。故人。

* サクラ(桜子): アリアの祖母。キクの意志を継いだ聖女。アルトリア王国王宮で暮らしている。

* 百合: アリアの母。予知夢を見た。故人。

* アメリア王妃:アルトリア王国の王妃。オーウェンと血縁関係にある。禁断の書庫の存在を明かす。

* オーウェン: アリアの父。故人。古代魔法の研究者。

* セオドア: エレノアの父。古代魔法の研究者。故人。

* エレナ: エレノアの母。古代魔法の研究者。故人。

* エレノア: アリアの仲間。ウィステリア王国の魔術師団長。

* マーガレット夫人: オーウェンの義理の姉。百合やオーウェンと親交があった。

* ヴィクトル: オーウェンの兄。アルベール家先代当主。

* リリア: 幽霊屋敷の幽霊。オルゴールを持つ。

✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


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✪読んでくださり、ありがとうございます。

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