56話 王宮内の違和感と古代魔法の残滓 - 虹色の共鳴
アメリア王妃の許可を得て、アリアとエリオットはアルトリア王国内の調査を開始した。まずは王宮内から探索を始める二人。
荘厳な装飾の裏側に隠された古代のシンボルや、建築物の奇妙な特徴に、アリアはかすかな違和感を覚える。
「…何か、おかしい」
アリアは、豪華な装飾の裏側に隠された古代のシンボル、そして、建築物の奇妙な配置に、胸騒ぎを覚えていた。
イリスは、エリオットの警戒をよそに、壁に刻まれた奇妙な紋様や、床に落ちている古い装飾品などを、触手でつついて興味を示している。
その虹色の体は、地下の薄暗い光の中で、ひときわ異彩を放っていた。
王宮の地下深くへと足を踏み入れたアリアは、そこでウィステリア王国でも感じたことのある、微弱ながらも確かに存在する古代魔法の痕跡を発見する。
それは、王宮の建造物そのものに、古代の力が薄く織り込まれているような感覚だった。エリオットもまた、空気中に漂う普通ではないエネルギーの流れを感じ取る。
「…これは」
エリオットは、警戒を強めた。
二人は顔を見合わせ、無言で頷き合った。
この地下には、ただならぬ何かが眠っている。
アリアは、警戒しながらも、ゆっくりと歩を進めた。エリオットは、周囲の魔力の流れに意識を研ぎ澄ませ、警戒しながらアリアの背後を進んだ。
ひんやりとした空気と、石造りの壁から滲み出る湿気が、地下特有の重苦しい雰囲気を醸し出している。
時折、どこからか水の滴る音が静寂を破り、二人の緊張感を高めた。
長い廊下の先には、重厚な鉄の扉が見えてきた。
表面には複雑な紋様が刻まれており、かすかに魔法的な光を放っている。
アリアはその扉に手を触れ、微かに震える指先で紋様をなぞった。
「これは……かなり強力な封印魔法が施されています」
エリオットは、静かに言った。
「力ずくで開けることも可能ですが、内部に何が待ち受けているかわかりません。慎重に進むべきでしょう」
アリアは頷き、集中して扉の封印を観察し始めた。
古代魔法の知識を持つ彼女ならば、この複雑な封印を解くことができるかもしれない。
二人の間には、静かながらも確固たる決意が満ちていた。
この地下に隠された秘密を解き明かすまで、彼らは決して立ち止まらないだろう。
アリアは慎重に封印の魔力を探り、指先から微細な魔力を扉へと流し込んだ。
複雑に絡み合った魔法陣が、彼女の魔力にわずかに反応し、鈍い光を放つ。
それはまるで、眠っていた古代の力が目覚めようとしているかのようだった。
エリオットはアリアの背後で静かに待ちながら、周囲のわずかな変化にも目を光らせている。
壁に刻まれた奇妙な模様、床に散らばる埃のわずかな動き、そして空気中に漂う微細な魔力の流れ。
すべてが、この地下に秘められた歴史を物語っているようだった。
やがて、アリアの額にうっすらと汗が滲み始めた。
封印は想像以上に強力で、彼女の魔力をじわじわと吸い取っていく。
それでも彼女は諦めなかった。古代魔法の知識と、これまで培ってきた魔力制御の技術を総動員し、封印の核心へと迫っていく。
時折、小さな魔法的なスパークが扉の表面で弾け、地下の静寂を微かに揺るがした。
「もう少しです……」
アリアは小さく呟き、さらに集中を高めた。彼女の意識は、複雑な魔法陣の糸を一本一本丁寧に解きほぐしていく。
それはまるで、古代のパズルのピースを、時間をかけて組み合わせていくような作業だった。
そしてついに、彼女の指先から流れ込んだ魔力が、封印の中心にある核に触れた瞬間、重厚な鉄の扉全体が、かすかな音を立てて震えた。
扉に刻まれた紋様が、内側からゆっくりと光を帯び始める。
それは、永い眠りから覚醒した古代の力の証だった。アリアは息を吐き、エリオットの方を振り返った。
「開きます」
重々しい音を立てながら、鉄の扉がゆっくりと内側へと開き始める。
その奥には、暗闇が広がっていた。しかし、微かに漏れ出す魔法の光が、その奥に何かがあることを示唆している。
二人は再び顔を見合わせ、静かに頷き合った。
いよいよ、この地下に隠された秘密が、その姿を現そうとしていた。
扉が開いた奥には、予想以上に広い空間が広がっていた。
微かに光る鉱石が壁面を照らし出し、ぼんやりとした青白い光が空間全体を包んでいる。埃っぽく、どこか古い匂いが鼻をついた。
中央には、一段高くなった祭壇のようなものがあり、その上には黒曜石でできた箱が安置されている。
箱の表面には、扉に刻まれていた紋様とよく似た意匠が施されており、微弱ながらも確かに魔法的なエネルギーを放っているのが感じられた。
アリアとエリオットは、言葉少なくその光景を見つめた。
この場所に漂う雰囲気は、ただの古い遺跡というだけでなく、何か特別な力が宿っていることを示唆していた。
エリオットは周囲を警戒しながらゆっくりと祭壇へと近づき、アリアは箱を注視する。
床には、長い年月を経て堆積したであろう塵が薄く積もっており、二人の足跡が静かに刻まれていく。
イリスは、祭壇の周りを興味深そうに動き回り、時折、その体の一部を箱に押し当てている。
その接触した部分だけ、紋様が微かに強く光るのに、アリアとエリオットは気づいた。
祭壇の前まで来たエリオットは、黒曜石の箱を注意深く観察した。
表面は滑らかで、ひんやりとした感触が指先に伝わる。
特に装飾はなく、ただただ漆黒の箱が、そこに静かに存在していた。
しかし、その内部には、計り知れない古代の力が封じられているような、畏敬の念を起こさせるな気配が感じられた。
アリアはゆっくりと祭壇に近づき、箱の周りを静かに歩き始めた。
彼女の目は、箱の表面に刻まれた紋様を追い、その奥に隠された意味を読み解こうとしていた。
それは、ウィステリア王国の地下で見た紋様と、わずかに異なるようにも見える。
しかし、根底にある古代魔法の流れは、確かに同じものだった。
「この箱の中に……何が入っているのでしょう?」
アリアは静かに呟いた。
その声には、好奇心と、ほんのわずかな警戒の色が混じっていた。
エリオットは無言で箱を見つめ、いつでも行動に移せるよう、意識を研ぎ澄ませていた。この黒曜石の箱こそが、この地下遺跡の、そしてこの王国の秘密を握る鍵なのかもしれない。
アリアは箱の表面に手を伸ばし、ゆっくりと触れた。
ひんやりとした感触と同時に、微細な魔力の波紋が指先から伝わってくる。
それはまるで、古代の心臓が、静かに鼓動しているかのようだった。
彼女は目を閉じ、箱から流れ出す魔力の流れに意識を集中させた。
それは、単なるエネルギーの塊ではなく、古代の知恵や、長い時を超えて蓄積された情報の断片を含んでいるようだった。
「何か感じますか?」
エリオットが静かに問いかけた。
彼はアリアの表情を注意深く観察していた。彼女の顔には、深い集中と、ほんのわずかな苦悶の色が浮かんでいる。
古代魔法との接触は、時に精神的な緊張を強いることがある。
アリアはゆっくりと目を開け、かすかに眉をひそめた。
「これは……ただの保管箱ではありません。何かを封印しているようです。非常に強い力を持つ何かを」
彼女は箱の表面を改めて見つめた。
黒曜石の滑らかな表面には、肉眼では確認できないほどの微細な線が刻まれている。
それは単なる装飾ではなく、複雑な魔法陣の一部なのだろう。
アリアは自身の魔力を共鳴させるように箱へと流し込んだ。
すると、これまで感じられなかった微かな振動が箱全体に広がり始めた。
「封印を解いてみます」
アリアは静かに宣言した。
その言葉には、迷いはなかった。この箱の中に眠るものが何であろうと、彼女はそれと向き合う覚悟を決めていた。
エリオットは無言で頷き、いつでも彼女を守れるように、魔法の準備を始めた。
静寂の中、アリアは再び箱に意識を集中させ、古代魔法の深淵へと飛び込んでいく。
箱の封印が解け始めると、イリスは興奮したように祭壇の周りを飛び跳ね、その虹色の輝きを増していく。
まるで、アリアが解放しようとしている力に呼応しているかのようだ。
アリアは、イリスの行動に一瞬気を取られそうになったが、すぐに意識を箱へと戻した。封印が解けるにつれて、箱から放出される魔力の奔流は激しさを増し、地下の空気を震わせる。
ついに、箱の封印が完全に解かれた。
黒曜石の箱は、内側から強烈な光を放ち、アリアとエリオットを眩い光で包み込んだ。
光が収まると、箱の中央には、虹色に輝く小さな結晶が浮かんでいた。
それは、イリスの体と同じように、様々な色が混ざり合い、絶えず変化している。
アリアは、その結晶に手を伸ばそうとした瞬間、結晶が強く輝き、アリアの体へと吸い込まれていった。
アリアは、突然の出来事に驚き、意識を失いそうになるが、なんとか意識を保つ。
その時、アリアの中に、今まで感じたことのない力が流れ込んでくるのを感じた。
それは、まるで、古代の王族の血が、彼女の中で目覚めたかのような、圧倒的な力だった。
アリアは、その力を感じながら、ゆっくりと立ち上がった。
彼女の瞳は、虹色に輝き、その体からは、微かな虹色の光が漏れ出していた。
イリスは、アリアの周りを嬉しそうに飛び跳ね、その光に触れようと体を伸ばしている。
「…これが、古代の王族の力…」
アリアは、自分の体に起こった変化に、驚きを隠せなかった。
しかし、同時に、この力が、アルトリア王国を覆う怨念を浄化するために必要な力だと確信した。
「エリオット、行きましょう。この力で、この国を救う」
アリアは、その瞳に宿る虹色の光を、アルトリア王国に差し込む一筋の光と信じ、エリオットと共に、再び地上へと歩き出した。
ーーー57話へつづく
〈登場人物〉
* アリア:王家の血を引く少女。古代魔法の知識を持つ。
* エリオット:アリアの護衛。魔法の才能を持つ。
* イリス:虹色のスライム。不思議な力を持つ。
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。
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✪読んでくださり、ありがとうございます。
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