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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第五章 アルトリア王国編
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52話 危険な接触と森の異変 - 虹色の出会い

次の街の、薄暗い路地裏。

指定された朽ちかけた建物の前で、アリアは息を潜めて周囲を警戒していた。

エリオットは背後の影に目を光らせている。

レオンが特に警戒する情報屋。

両親の事故の真相に近づくための、重要な手がかりを握っているはずだった。


「本当に、ここにいるのかしら」


アリアの囁きは、乾いた風にかき消されそうだった。

約束の時刻は過ぎている。

嫌な予感が、胸の奥でじわりと広がっていく。


建物の軋む扉を、エリオットがそっと押した。

中には、淀んだ空気が重く漂っている。

足元には、乾いた血痕が黒ずんで残っていた。

そして、見慣れない粗末な服を着た男が、力なく倒れている。

使いの者だろうか。


「争った跡があります」


エリオットが低い声で言った。

周囲を注意深く観察している。

アリアも、空気中に漂うかすかな臭いを嗅ぎ取った。

それは、鉄錆の臭いとは違う、もっと生臭く、本能的な警戒心を煽るものだった。


「魔物の臭いだわ」


二人は顔を見合わせた。

情報屋との接触は、危険な罠だったのかもしれない。


警戒しながら、二人は建物の裏手へと足を向けた。

そこから続く森の奥へと、足跡が途切れ途切れに残っている。

慎重に木々の間を進むうち、低い唸り声が聞こえてきた。緊迫感が、二人の間に走る。


音のする方へ駆けつけると、月明かりがまだらに差し込む森の中で、異様な光景が繰り広げられていた。

巨大な牙を剥き出しにした、黒い狼のような魔物が、地面に伏せた虹色の物体を威嚇している。その物体は、プルプルと震え、まるで恐怖で縮こまっているようだった。

スライムだ。

それも、見たことのない、虹色に輝くスライム。


「あれは……!」

そう呟いた瞬間、アリアの胸の奥が、理由もなく、きゅっと締めつけられた。


アリアは、とっさに前に出た。

エリオットも魔物に向き合い、両手に魔力を集中させる。


「アリア様、お下がりください!」


エリオットは低い声で警告し、詠唱を始めた。


「《エアリアルブレイド》!」


透明な刃が幾重にも重なり、魔物に向かって飛んでいく。

魔物は素早い動きでそれを避けようとするが、いくつかは掠り、黒い毛皮に傷をつける。

魔物は怒りの唸り声を上げ、エリオットに飛びかかった。


エリオットは身をかわし、さらに魔法を繰り出す。


「《サンダーランス》!」


青白い光の槍が魔物を貫き、激しい痙攣と共に、魔物は地面に倒れた。

しかし、まだ完全に動きを止めていない。


「まだだ!」


エリオットが次の魔法を構えようとしたその時、アリアは意を決して前に踏み出した。

彼女にできることは少ない。

しかし、この状況を打破しなければ。


「《浄化の光》!」


アリアは両手を魔物に向かって掲げ、これまで感じたことのない強い光を放出した。それは、温かく、そしてあらゆる穢れを洗い流すような純粋な光。

光を浴びた魔物は、苦悶の叫びを上げ、黒い靄となって急速に消滅していった。


静寂が森に戻る。

アリアは息を吐き、わずかに震える手で胸を押さえた。

エリオットは驚いた表情でアリアを見つめている。


地面に倒れた虹色のスライムは、ゆっくりと顔を上げた。

キラキラとした大きな瞳が、アリアをじっと見つめている。

警戒の色はない。

むしろ、好奇心のような光が宿っている。


スライムは、恐る恐る――けれど迷いなく、アリアの足元へ近づき、ぷるんと体を擦り寄せた。

まるで、ずっとそこに戻りたかったかのように。

その感触は、冷たくて不思議だった。

まるで、柔らかいゼリーのようだ。


「一緒に来る?」


アリアが屈みこんで問いかけると、スライムは全身を震わせ、ぴょんぴょんと跳ね上がった。嬉しさを表現しているようだ。


「まさか、このような力をお持ちだとは……」


エリオットは呟き、アリアの新たな力に驚きを隠せない。


「アリア様、いかがいたしましょうか?」


エリオットが尋ねた。

アリアはスライムを優しい眼差しで見つめ返した。


「放っておけないわ。それに……なんだか、気になるの」


この森の異変、そしてこの不思議なスライム。

何か、繋がっているのかもしれない。アリアはそう感じた。


「一緒に旅をするなら、名前があると良いわね」


アリアは、虹色に輝くスライムを見つめた。光の加減で、その体は様々な色に変化する。


「虹色のスライムだから、虹の女神様のお名前をいただいて、『イリス』はどうかしら?」


アリアがそう問いかけると、イリスは、ポヨン、と一度だけ跳ね、

それから、何かを思い出そうとするみたいに、静かに震えた。

まるで、その名前を気に入ったみたいだ。


「じゃあ、今日からあなたは『イリス』ね」


アリアはそっとイリスに触れた。

冷たい感触が、手のひらに心地よい。

イリスは嬉しそうに、アリアの足元を離れない。


「まさか、旅の仲間が増えるとは思いもよりませんでした」


エリオットは苦笑しながらも、その光景を温かい目で見守っていた。

危険な接触は失敗に終わったが、思いがけない出会いと、アリアの初めての攻撃魔法の発現があった。


しかし、情報屋の失踪、そして魔物の出現。森の静けさの裏に隠された危険な影は、依然として二人を包み込んでいる。


イリスとの出会いは、この旅に一体どんな意味をもたらすのだろうか。


アリアは、小さな虹色の仲間を抱え、再び険しい道のりへと踏み出した。

森の奥深くで感じた、かすかな魔物の臭いが、まだ彼女の鼻に残っていた。




ーーー53話へつづく

〈登場人物〉


* アリア: アルトリア王国を目指す市井の占い師の少女。治癒魔法と浄化の光を使う。

* エリオット: 元王宮書記官の貴族で魔法使い。風と雷の魔法を使う。

* 使いの者: 情報屋の使い。血痕を残して倒れている。

* 黒狼のような魔物: 虹色のスライムを襲っていた魔物。

* 虹色のスライム(イリス): アリアに助けられ、共に旅をすることになる不思議なスライム。

* 情報屋: レオンが警戒する人物。レオンの両親の事故に関する核心的な情報を握っている可能性があった(直接登場はしない)。

* レオン: アリアとエリオットに情報屋を紹介した人物(直接登場はしない)。


✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✦✦✦✦✦✦✦✦


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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