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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第四章 王宮編 Ⅱ
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46話 魂の解放 - 再生の光

アリアの放った最後の、そして最も優しい光が、まるで羽毛のように、空間に漂う微細な黒い粒子をそっと包み込んだ。

それは、抵抗する間もなく、光の中に静かに溶け込んでいく。

その光景を、アリアは息を詰めて見守っていた。

全身の疲労が限界に達していたけれど、その瞳には、一瞬たりとも見逃すまいとする強い意志が宿っていた。


そして、全てが光に飲み込まれた、その瞬間。


アリアは、確かに感じた。

長きにわたる、重苦しい鎖が断ち切られるような、そんな清々しい感覚を。

まるで、深い眠りについていた魂が、ゆっくりと瞼を開いたかのように。


その時、地下倉庫全体が、柔らかな光に満ち溢れた。

それは、アリアが放った浄化の光の残滓ではなく、もっと清らかで、温かい光。

まるで、祝福の光のように、全てを優しく包み込む光だった。


その光は、地下倉庫からゆっくりと広がり、王宮全体を、そして王都全体を、静かに満ちていった。


王宮の廊下では、正気を取り戻した兵士たちが、互いに顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべていた。彼らの心から、重くのしかかっていた不安や焦燥感が、嘘のように消え去っていくのを感じていた。

市場の喧騒も、どこか以前よりも、和らいだように感じられた。


「……なんだか、急に、すっきりしたな」


「ああ、私もだ。ずっと、何かに追い立てられているような気がしていたんだが……」


街では、人々が空を見上げ、その柔らかな光に目を細めていた。

理由もわからぬまま、心に巣食っていた小さな不安が消え去り、代わりに、穏やかな安堵感が広がっていくのを感じていた。


エリオットは、その光を静かに見つめていた。

彼の心には、温かい記憶が蘇っていた。

それは、妹のミアの笑顔。

彼女の魂は、今回の事件で、怨念に囚われて苦しんでいた。

しかし、アリアの放った、この清らかな光は、きっとミアの魂をも解き放ち、安らかな場所へと導いてくれたのだろう。


(ミア……君も、これでやっと、ゆっくりと休めるんだね)


エリオットは、そっと目を閉じた。彼の心には、寂しさとともに、確かな解放の感覚が広がっていた。

妹の魂は、この浄化の光と共に、穏やかな世界へと還っていったのだ。


エレノアも、その光を静かに見上げていた。彼女の表情には、深い安堵と、そして、新たな希望の光が宿っていた。困難は乗り越えられた。

王都には、再び穏やかな日常が戻り始めるだろう。


ルシウスは、操られていた貴族たちの拘束が一段落したのを確認すると、アリアとエリオット、エレノアに静かに言った。


「私は、ユリウスの様子を見てくる。お前たちはここで少し休んでいろ」



ほどなくして、ルシウスが戻ってきた。

その表情には、わずかながら安堵の色が浮かんでいた。


「アリア、ユリウスの意識が戻ったそうだ。まだ完全に落ち着いているわけではないようだが、君に会いたがっている」


アリアの目には、熱いものが込み上げてきた。


「本当ですか、ルシウス様! すぐに、ユリウス様の元へ参ります!」


疲労困憊の体を引きずり、アリアはルシウスに促されるまま、地下倉庫を後にした。

エリオットとエレノアも、安堵の表情で見送った。


王宮の廊下を、ルシウスと共に足早に進む。アリアの胸には、喜びと、ほんの少しの緊張が入り混じっていた。

兄であるルシウスの表情から、ユリウスがまだ完全に回復していないことが伺えたからだ。


ユリウスの部屋の前で、ルシウスは静かに扉を開けた。


「ユリウス、アリアが来たぞ」


部屋の中は、優しい光で満たされていた。

ベッドに横たわるユリウスは、まだ少し顔色が優れないものの、確かに意識を取り戻している。

その瞳が、ゆっくりとアリアの方を向いた。


「アリア……」


その声は、以前よりも幾分か弱々しかったけれど、確かに、どこか懐かしいような気のする温かい声だった。

ユリウスの言葉は、掠れていたけれど、その声音には、深い自覚と、アリアへの優しい思いやりが溢れていた。


「ユリウス様……!」


アリアは、駆け寄り、ベッドの傍らに膝をついた。

彼の顔を覗き込むと、閉じられていた瞼が、ゆっくりと開かれる。

そこに映った瞳は、濁りのない、穏やかな光を湛えていた。


ユリウスは、ゆっくりと手を伸ばし、アリアの手に触れた。

その指先は、まだ少し冷たかった。


「覚えてるよ。小さな頃、よく一緒に王宮の庭で遊んだね。君はいつも明るくて、向日葵みたいな笑顔だった」


アリアは、その言葉に、驚きで目を見開いた。


(幼馴染……?私が、ユリウス様の幼馴染だったなんて……そんな記憶は……)


ユリウスは常に冷たく、近寄りがたい存在だった。

怨念に蝕まれていたからだと、今は理解できる。

しかし、彼の口から語られた、優しい幼少期の記憶は、アリアには全く覚えのないものだった。


「ごめんなさい、ユリウス様……私は……」


戸惑いを隠せないアリアに、ユリウスは優しく微笑んだ。


「無理に思い出さなくてもいいんだ。でも、こうして君の顔を見ていると、昔の温かい気持ちが蘇ってくるんだ。ありがとう、アリア。君が、私を救ってくれたんだね」


アリアは、彼の言葉に胸が詰まった。

怨念が消え去ったことで、ユリウスは本来の優しい心を取り戻したのだ。

そして、彼の中には、アリアが知らない、過去の温かい記憶が確かに存在している。


しかし、アリア自身はその記憶を持たない。二人の間には、埋められない空白がある。

それでも、ユリウスの優しさは、アリアの心を温かく包み込んだ。


(これが、本来のユリウス様の姿……)


アリアは、静かに頷いた。


「はい、ユリウス様。もう大丈夫です」


しかし、アリアの心には、かすかな懸念も残っていた。

今回の事件の黒幕は、まだ姿を現していない。ユリウスを苦しめ、王都を混乱に陥れた真の敵は、一体誰なのか。

そして、その目的は何だったのか。


それでも、今はただ、この解放の喜びに浸っていたかった。

ユリウスが戻ってきてくれた。王都に、再び平和が訪れようとしている。

それだけで、十分だった。


部屋を満たす柔らかな光は、まるで未来への希望のようだった。

魂が解放され、再び、それぞれの道を歩み始める。


アリアとユリウスの、新たな物語が、今、静かに幕を開けようとしていた。




ーーー47話へつづく


〈登場人物〉


* アリア: 怨念を完全に浄化し、ユリウスを解放する。

* ユリウス: 長い束縛から解放され、正気を取り戻し、幼少期の記憶を思い出す。

* エリオット: 怨念の浄化により、妹ミアの魂が安らかに旅立ったことを感じる。

* ルシウス: 王都に平和が戻り始めたことを確認する。

* エレノア: 浄化の光が王宮全体に満ちるのを見守る。

* 正気を取り戻した人々: 怨念の消滅により、心身の重圧から解放される。


✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✦✦✦✦✦✦✦✦


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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