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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第四章 王宮編 Ⅱ
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41話 囚われた心 - ユリウスとの交錯

アリアの胸には、鉛のように重い感情が渦巻いていた。

幼い頃から怨念に囚われ、ずっと苦しみ続けているユリウスのことを思うと、胸が締め付けられるような痛みが走り、いてもたってもいられなかった。

初めて彼と出会った時から、その瞳の奥に宿る拭いきれない悲しみと、時折見せる耐え難い苦悶の表情が、アリアの心を深く捉えていた。


(ユリウス様…今、どんなに苦しんでいらっしゃるのだろう…)


眠れぬ夜を過ごしたアリアの目は、うっすらと赤みを帯びていた。王宮で目撃した不穏な動き、そしてレオンから聞かされたユリウスの悪化していく状況。それらは全て、彼女の心を焦らせ、突き動かしていた。

せめて定期的に作っている癒やしの効果を込めたお菓子を届けたいと思っても、今のユリウスは側近以外の接触を拒んでいるという。


「アリア様、少しは休まれましたか?」


朝食の席で、エリオットが心配そうに声をかけてきた。彼の優しい眼差しが、アリアの張り詰めた心を少しだけ和らげる。


「ありがとう、エリオット。でも…どうしても、ユリウス様のことが頭から離れなくて」


アリアは、手に持ったカップを握りしめた。温かいはずの陶器が、今は冷たく感じられた。


「私も心配です。何か、私たちにできることはないでしょうか」


エリオットの声には、真剣な響きがあった。アリアは、彼の言葉に勇気づけられるのを感じた。


「ええ…私にしかできないことがあるかもしれない。危険な試みだけど…ユリウス様の精神世界に、入ってみようと思うの」


アリアの言葉に、エリオットは息を呑んだ。


「精神世界に…ですか?それは、あまりにも危険すぎます!」


彼の声には、強い反対の色が滲んでいた。アリアも、その危険性は十分に承知していた。

しかし、このまま何もせずに、ユリウスが怨念に完全に飲み込まれてしまうのを見ていることなど、彼女にはできなかった。


「分かってる。でも、このままじゃ…ユリウス様は…」


アリアは言葉を詰まらせた。彼女の瞳には、決意と、ほんの少しの不安が入り混じっていた。


その日の午後、アリアは誰にも邪魔されない静かな場所を選び、深く瞑想に入った。

意識を集中させ、ユリウスの魂の波動を探る。いつもわずかに感じられる、 痛ましい ながらも 清らかな 光が、今日は特に弱く感じられた。


アリアが強く彼の名を心の中で呼びかけると、その光は徐々に大きくなり、彼女の意識を引き込むように、渦を巻き始めた。

気が付くと、アリアは暗く淀んだ世界に立っていた。足元には黒い液体が流れ、重苦しい空気が肺を締め付ける。遠くからは、苦悶の叫びのような音が聞こえてくる。これが、ユリウスの精神世界なのだろうか。あまりの陰鬱さに、アリアは息を呑んだ。


以前、微かに垣間見た時よりも、深く、深く怨念の色に染まっているように感じられた。


「ユリウス様…!ユリウス様、聞こえますか!」


アリアは、響かないと知りながらも、必死に彼の名を呼んだ。その声に応えるように、遠くの闇の中から、微かな光が揺らめきながら近づいてきた。


光の中心には、苦痛に歪んだ表情のユリウスがいた。彼の瞳は濁り、全身を黒い鎖のようなものが絡みついている。

それでも、アリアの姿を捉えると、彼の瞳に一瞬、かすかな光が宿った。


「ア…リア…様…!」


掠れた声は、今にも消え入りそうだった。アリアは、彼の変わり果てた姿に胸が張り裂けそうになった。彼の面影は歪み、ただ苦悶の色が 濃く 刻まれていた。


「ユリウス様!私です、アリアです!大丈夫、私があなたを助けに来ました!」


アリアは、ユリウスに手を伸ばそうとしたが、彼の周りの黒い鎖がそれを阻むように、強く輝いた。


「来るな…!ここは…危険だ…!早く…逃げて…!」


ユリウスの声は、苦痛と焦燥に満ちていた。それでも、彼の言葉の端々には、アリアを案じる優しさが残っていた。ほんの僅かに見せてくれた 静けさ の面影が、今は見る影もない。


「逃げません!あなたを置いて、私一人で逃げるなんてできません!」


アリアは、強い口調で言い返した。彼女の言葉に、ユリウスの瞳がわずかに揺れた。


「兄…さんが…ルシウス兄さんが…危ない…!あいつら…何か…企んでいる…!」


怨念に蝕まれながらも、ユリウスは必死に言葉を紡ごうとしていた。彼の意識は、怨念の奔流の中で、かろうじて繋ぎ止められているようだった。


「合言葉…黒い…百合…秘密の…地下…儀式…増幅…!」


断片的な言葉は、まるで壊れた 電報 のように、途切れ途切れにアリアの耳に届いた。

それでも、彼女はユリウスが伝えようとしている情報の重さを感じ取った。それは、彼が操られている間に垣間見た陰謀の断片的な記憶なのだろう。


「合言葉は、黒い百合…秘密の地下…怨念を増幅させる儀式…ユリウス様、もっと詳しく教えてください!一体、誰がそんなことを…!」


アリアは、必死に問いかけた。しかし、ユリウスの意識は再び混濁し始め、彼の瞳から光が失われていく。


「ぐ…うっ…やめろ…!離せ…!」


彼は苦悶の声を上げ、全身を黒い鎖が強く締め付ける。アリアは、彼に触れることすらできず、ただ見ていることしかできなかった。彼の苦しみは、 直接 アリアの心にも伝わり、胸が張り裂けそうだった。


「アリア様…!早く…!」


ユリウスの声は、遠ざかっていく。彼の魂は、再び深い闇へと引きずり込まれていくようだった。


「ユリウス様!待ってください!まだ話は終わっていません!」


アリアは必死に手を伸ばしたが、彼女の意識は、現実世界へと引き戻され始めた。


ハッと息を吐き出し、アリアは瞑想から覚めた。額には冷たい汗が滲んでいる。ユリウスの精神世界での出来事は、まるで悪夢のように、彼女の心に深く刻まれていた。


(黒い百合…秘密の地下…怨念の増幅…ルシウス兄上が危ない…)


ユリウスが命がけで伝えようとした言葉が、アリアの頭の中で何度も繰り返された。それは、王都を覆う陰謀の核心に迫るための、重要な手がかりに違いない。

そして、幼い頃からずっと苦しんでいるユリウスは、操られながらも、兄ルシウスのことを深く案じていた。


(ルシウス兄上が危ない…?一体、何が…?)


その言葉が、アリアの胸に突き刺さった。一体、何がルシウスに迫っているというのだろうか。

ユリウスの苦しみ、そして彼が伝えようとした情報の重さを感じたアリアは、彼を救うためには、単に怨念を浄化するだけでなく、その根源にある陰謀を完全に阻止する必要があることを改めて確信した。


「エリオット…!」


アリアは、すぐにエリオットを探しに行った。


ユリウスから得られた断片的な情報を彼に伝え、共にこの陰謀を暴き、ユリウスを救い出すための戦いが、今まさに始まろうとしていた。

彼女の瞳には、強い決意の光が宿っていた。




ーーー42話へつづく


〈登場人物〉


* アリア: 主人公の占い師。怨念に囚われたユリウス様を救いたいと強く願い、彼の精神世界に潜入する。


* ユリウス: 幼少期から怨念に操られている青年。精神世界でアリアと出会い、操られながらも陰謀に関する断片的な情報を伝えようとする。兄ルシウスを案じている。


* エリオット: アリアの仲間。アリアの行動を心配しながらも、彼女を支える。



✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


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✪読んでくださり、ありがとうございます。

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