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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第三章 ミストラル村編
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32話 過去との対話 - 妹の記憶

アリアは祭壇に手を合わせ、祈りを捧げた。

周囲には柔らかな光が舞い、囚われた魂たちを照らし出す。

アリアの瞳には、幾つもの半透明な光の像が映っていた。


その中に、ひときわ弱く、しかしどこか懐かしい温かみを帯びた、小さな光の塊を見つけた。

それが、ミアの魂だった。

輪郭はまだ曖昧だが、幼い頃によく見せた、少しはにかんだような笑顔が、ぼんやりと浮かんでいるように見えた。


「…どうか、安らかに…」


アリアの祈りが響く中、エリオットの胸に温かい感覚が広がった。それは、幼い頃、ミアがそっと手を握ってくれた時の、あの優しい感触によく似ていた。


「…お兄ちゃん…?」


懐かしい声が、エリオットの心に直接語りかけてきた。それは、もう二度と聞けないと思っていた、愛しい妹の声。


「ミア…!ミアなのか!」


エリオットが辺りを見回すと、アリアが祭壇の傍らを見つめていた。そこには、ぼんやりとした幼い少女の姿が見える。ミアだ。

半透明の体は、アリアの光に照らされ、微かに輝いている。その小さな手は、何かを掴もうとするように、虚空を彷徨っているようにも見えた。


「うん…私だよ…。聞こえる…?」


ミアの声は弱々しいが、確かに妹の声だ。アリアはミアに優しく微笑んだ。


「あなたの想いを、お兄さんに伝えてあげてください」


ミアはエリオットを見つめた。その瞳は、生前の無邪気さを残しつつも、深い悲しみの色を宿している。


「お兄ちゃん…あのね、ここで、すごく怖いことがたくさんあったの。酷い実験とか…たくさんの人が苦しんで…」


ミアの小さな肩が、微かに震えた。


エリオットは息を詰まらせた。


「ミア…お前も…」


ミアは悲しそうに頷いた。


「うん…。痛くて、苦しくて…もう、何もわからなくなっちゃった…」


その言葉には、子供らしい無力さと、拭いきれない恐怖が滲んでいた。


「許せない…!そんなことをした奴ら…!」


エリオットの拳が激しく震えた。脳裏には、研究日誌に記されていた非人道的な実験の数々が蘇り、怒りの炎が再び燃え上がろうとしていた。


ミアは首を横に振った。


「でもね、お兄ちゃん…ここにいるみんなも、すごく苦しいんだ。怖い思いをしたまま、ずっとここに閉じ込められてて…」


ミアは周囲の、黒い影のように蠢く無数の魂を悲しそうに見つめた。


「憎しみとか、怒りとかもあるけど…本当は、助けてほしいんだと思う…」


その言葉には、犠牲者たちへの深い共感が込められていた。


「助けて…?」


エリオットは戸惑った。


「あんなことをした奴らを…どうやって…」


「復讐しても、誰も幸せにならないよ…」


ミアは悲しそうな瞳でエリオットを見つめた。


「お兄ちゃんは優しいから…わかるでしょ?お願い…みんなを、この苦しみから解放してあげて…。私も…みんなと一緒に、安らかに眠りたいの…」


ミアの小さな体は、光を失いかけ、より一層儚く見えた。

エリオットは言葉を失った。

ミアの優しい言葉が、彼の復讐心を激しく揺さぶる。


「解放…か。そんなことができるのか?あんな酷いことをした者たちを、ただ許せと…?」


彼の心の中では、長年抱き続けた憎悪と、今、目の前にいる妹の切なる願いが、激しくぶつかり合っていた。


(ミア…お前は、本当にそう願っているのか?あいつらを許して、お前の苦しみが癒えるのか?でも…お前の優しい瞳は、嘘をついているようには見えない…)


「でも…!お前を…こんな目に合わせた奴らを、許せるわけがない!」


エリオットは絞り出すように叫んだ。


「憎しみは、何も生まないよ…」


ミアは弱々しく微笑んだ。


「お兄ちゃんは、きっと、正しい道を選んでくれるって、信じてる…」


ミアの体が、まるで薄いヴェールのように、徐々に透明になっていく。その小さな手は、エリオットに何かを託すように、そっと伸ばされた。


「ミア…!待って!」


エリオットは手を伸ばしたが、掴んだのは冷たい空気だけだった。


「ありがとう…お兄ちゃん…私のこと…忘れないでね…」


それが、エリオットが聞いた、ミアの最後の言葉だった。

温かい感覚が消え、ミアの姿も完全に消え去った。

しかし、その消え際に、ミアの魂があった場所には、微かに光る、小さな種のようなものが残ったように見えた。


エリオットは膝から崩れ落ち、嗚咽を漏らしながら涙が溢れた。


アリアは静かにエリオットの肩に手を置いた。


「ミアさんの願い…届きましたね」


彼女は、ミアが消えた場所に残った微かな光を見つめていた。


(あれは…?ただの光の残滓ではないような…)


エリオットは顔を上げ、涙で濡れた瞳でアリアを見つめた。


「…はい…。ミアは…復讐を望んでいない…みんなを…解放してほしいと…」


妹の優しい言葉は、エリオットの心に深く刻まれた。

だが、長年抱き続けてきた復讐の念は、そう簡単に消えるものではない。


今もこの地下に留まり、苦しみ続ける無数の魂たち。

ミアの願いを叶えるためには、一体どうすればいいのか?


そして、今、確かに感じたミアの温もり、最後に見た小さな光の種は、この暗闇に差し込む一筋の希望となるのだろうか。


エリオットの瞳には、新たな決意と共に、拭いきれない葛藤の色が宿っていた。


アリアは、エリオットの隣で静かに立ち上がった。

彼女の胸にも、かすかな希望の光と、まだ解き明かされていない謎への探求心が灯っていた。


二人の、そしてこの村を覆う呪いの運命は、これからどのような道を辿るのか――。



32話:終わり

〈登場人物〉


* アリア: 浄化の儀式でミアの魂を一時的に出現させる。


* エリオット: 妹ミアの魂と対話し、復讐心と解放への願いの間で葛藤する。


* ミアの魂: エリオットに過去の悲劇と解放への願いを伝える。


✦✦✦✦✦


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✦✦✦✦✦✦✦✦


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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