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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十一章 忘れられたまま、愛されていた
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319話 祈りの残響 - 第三の鍵の手前で

阪神・淡路大震災から31年目の1月17日。

黙祷。


陽が傾きはじめた頃、一行はその場所に辿り着いた。

森が、不自然なほど途切れている。

木々は途中から一切生えず、地面だけが、ぽっかりと開けていた。


「……ここ、だな」


人化したモルンが低く呟く。

風は吹いているのに、音がしない。

葉擦れも、鳥の声も、すべてが一歩手前で止まっているようだった。


そこにあったのは、太陽神殿跡。

神殿と呼ぶには、あまりにも朽ちている。

壁は崩れ、柱は途中で折れ、屋根はもう形を留めていない。


けれど——

中心に残された一角だけは、異様なほど静かだった。


「……祈りの碑」


シュウが目を細める。

石碑は、風雨に晒されながらも、文字だけが消えていない。


古い巫女文字。

祈りを刻むための、特別な書式。

アリアは、足を踏み出した瞬間、息を止めた。


(……あ)


理由は分からない。

ただ、胸の奥が、ひどく痛んだ。


懐かしい。

苦しい。

それなのに、逃げたくない。

足が、勝手に前へ出る。


「アリア?」


誰かの声が聞こえた気がした。

でも、振り返れなかった。


石碑の前に立った、その瞬間。

——涙が、落ちた。


拭おうとするより早く、ぽたり、と石の上に雫が弾く。


「……?」


アリア自身が、一番驚いていた。

悲しいわけじゃない。

辛い記憶を、思い出したわけでもない。

それなのに、涙だけが止まらない。


(……なんで)


石碑に、そっと触れる。

冷たいはずの石が、ほんのり温かい。

その感触に、胸の奥が、きゅう、と締めつけられた。


——祈っていた。

——ここで、誰かが。

名も残らないほど昔に。

それでも確かに、“誰かを守るために”。


「……アリア」


後ろから、マコトの声。

彼もまた、胸元を押さえていた。

顔色は変わらないが、その視線は、石碑から離れない。


(……同じだ)


アリアは、直感的にそう思った。

これは、自分だけの反応じゃない。

血か、記憶か、それとも——もっと深い何か。


エリオットは周囲を警戒しながらも、どこか落ち着かない様子で視線を巡らせている。

ユリウスは剣に手をかけたまま、動かない。

誰もが、何かに触れてしまった感覚だけを抱えていた。


その時。


「……やっぱり、ここだったニャ」


静かな声が、空気を切った。

月読猫が、崩れた柱の上に座っている。

尻尾を揺らし、金色の瞳で一行を見下ろしていた。


「第三の鍵。

 開く場所じゃなく、“思い出す場所”」


アリアは、ゆっくりと顔を上げる。


「……ここに、何があるの?」


月読猫は、少しだけ目を細めた。


「記憶の核。

 巫女の血が、逃げずに向き合うための場所ニャ」


誰も、すぐには言葉を発せなかった。

重い。

だが、拒絶感はない。


「ここを越えたら——」


月読猫は、言葉を切る。


「戻れない、というより……

 “知らなかったまま”ではいられなくなるニャ」


風が、わずかに吹いた。

崩れた神殿の奥、さらに奥。

暗闇の中で、何かが静かに待っている気配がする。


アリアは、胸に手を当て、深く息を吸った。

涙は、もう止まっていた。


「……行こう」


それは、決意というより、自然な選択だった。

仲間たちは何も言わず、頷く。


こうして一行は、第三の鍵の前に立った。


まだ、扉は開かれていない。

だが、もう——引き返す理由も、なかった。




ーーー次章「記憶の核」編へつづく


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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