閑話:番外編006 それぞれの違和感
久々の番外編です。
アリア以外のキャラクターの視点の
お話です。
その夜、焚き火の火は穏やかだった。
はぜる音も、揺れる影も、いつもと変わらない。
誰かが声を荒げることもなく、
場は静かに、均衡を保っているように見えた。
――けれど。
それぞれの内側では、
ごく小さな違和感が、同時に芽吹いていた。
*
ルクスは、星を見上げていた。
星霊としての感覚が捉えているのは、
光の強さでも、配置の変化でもない。
結びつきの向き。
本来なら、交わらないはずの線が、
わずかに近づこうとしている。
(……縁、か)
そう名づけるには、まだ早い。
けれど、星々が一斉に、
ひとつの方向を“意識している”ような感覚があった。
視線の先には、アリアがいる。
彼女自身は、何も変わっていない。
けれど、星は確かに、彼女を起点に揺れている。
ルクスは、それ以上考えるのをやめた。
今は、まだ、名を呼ぶ時ではない。
*
シュウは、焚き火のそばで皆を見渡していた。
誰かが明確に不調を訴えているわけではない。
怪我人も、魔力の暴走もない。
それでも。
呼吸の深さ。
魔力の流れの速度。
視線の動きと、沈黙の間。
それらが、ほんの少しずつズレている。
(……個々じゃない)
シュウはそう判断した。
誰かひとりの問題ではない。
場全体が、静かに揺れている。
治癒魔法を使うほどではない。
声をかけるのも、今ではない。
だから彼は、何も言わない。
ただ、異変が「形になる前」を、
逃さないように見ている。
*
プエルは、いつも通りの顔で座っていた。
違和感に気づいていないわけではない。
むしろ、誰よりも強く感じている。
――だからこそ、表に出さない。
ここで口にすれば、
それは“確信”に変わってしまう。
今は、まだ、
知らなかったふりをしていられる段階だ。
プエルは、視線を伏せたまま、
静かに焚き火を見つめ続けた。
*
少し離れた場所で、
マコトとモルンが並んで腰を下ろしていた。
特別な会話はない。
けれど、沈黙が妙に心地いい。
ふとした瞬間、
同時に、同じ方向を見る。
――アリア。
その背を見たとき、
二人の胸に、同じ感覚がよぎった。
(……やっぱり、そうか)
言葉にはしない。
確かめ合う必要もない。
あの頃。
カメリアだった彼女のそばにいた時間。
それを“覚えている”という感覚だけが、
互いの中に、確かに残っている。
マコトは軽く息を吐き、
モルンは小さく肩をすくめた。
どちらも、
まだ語る時ではないと知っている。
*
イリスは、理由もなく、ぽよんと跳ねた。
誰がどう、と考えているわけではない。
ただ、場の空気が、
いつもより少し柔らかく、少し不安定だ。
だから、アリアのそばに行く。
ただ、それだけ。
*
エリオットは、皆を見回して、首を傾げていた。
何かが起きている気はする。
けれど、それが“過去”に由来するものだとは、
まだわからない。
彼とアリアの縁は、
アリアがこの世界に来てから始まったものだ。
だからこそ、今は、少し外側にいる。
(……静かだな)
それだけを、素直に感じていた。
*
少し離れた影の中で、
ユリウスは、何も言わずにアリアを見ていた。
彼だけが、
「アリアの幼少期」を知っている。
けれど、その記憶を、
今の彼女がほとんど持っていないことも。
だから、今は踏み込まない。
語られるべき時が、必ず来ると知っているから。
*
誰も、答えには辿り着いていない。
けれど、
それぞれの胸に宿った違和感は、確かだった。
名もなく、形もなく、
まだ物語になる前の、微かな揺れ。
月は何も語らない。
けれどその夜、
それぞれの違和感は、
確かに、同じ方向を指し始めていた。
閑話:番外編006 終
エリオットとシュウ以外
それぞれに自分の前世の記憶があり
それを徐々に思い出し始めている。
そんな番外編006でした。




