表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第三章 ミストラル村編
32/338

29話 禁断の研究 - 地下への入り口

荒涼としたミストラル村に、重苦い朝がやってきた。


アリアは、昨夜エリオットと話した内容を反芻していた。

「ミアが王都の研究者の子供だった…?」

もしそうなら、なぜこの村に?そして、あの悲劇とどう繋がるの?


隣の部屋では、エリオットが一人、静かに過ごしているだろう。彼の心もまた、激しく揺さぶられているに違いない。


一方、アリア自身の胸にも、複雑な感情が渦巻いていた。この村の出身の研究者…自分の先祖かもしれない。もし、本当にそうなら、この村の悲劇に、自分の血筋が関わっていたとしたら……。彼女は、いてもたってもいられなかった。真実を知りたい。その強い思いが、アリアを突き動かしていた。


朝食の席で、粗末なパンを一口かじりながら、アリアは意を決して言った。


「やっぱり、地下の研究施設を探すしかないわね」


向かいに座るエリオットは、手に握りしめた小さな鳥の人形を、まるで大切な宝物のように見つめていた。

それは、ミアが幼い頃に大切にしていたものだ。

「ああ」

と、彼はゆっくりと顔を上げた。


「ミアがここにいた理由、そしてあの怨念の根源……きっと、その地下に全てが眠っているはずだ」


彼の声は、昨夜よりも幾分か落ち着いていたが、奥には拭いきれない不安が滲んでいた。


その時、アリアの胸元で、柔らかな光が瞬いた。王都のレオンから定期的に届けられる使い魔だ。小さな光の粒子が宙を舞い、アリアの手に、温かい封蝋が押された書簡がそっと置かれた。


「レオン様からだわ」


アリアは、期待と緊張が入り混じる面持ちで封を開き、中の手紙に目を落とした。それは、王宮の書庫で厳重に保管されている、極秘文書の写しだった。古代魔法の研究に関する詳細な記述、おぞましい実験の記録、そして、その研究に関わった者たちの名前が、細かく記されている。アリアは、そこに並ぶ人々の「出自」という文字に、何度も目をやった。昨日、村の老人が語った研究者だけでなく、何人もの関係者に、彼女の血筋に繋がるかもしれない名前が見つかったのだ。


「エリオット……」


エリオットは、心配そうにアリアの顔を覗き込んだ。


「どうしたんですか?何かありましたか?」


アリアは、手紙を握りしめながら、震える声で内容をかいつまんで説明した。

古代魔法の恐ろしさ、研究の非人道性、そして何よりも、彼女の家族が深く関わっていたかもしれないという衝撃的な事実。


「こんな……こんなことが……」


エリオットは、アリアの言葉を聞きながら、深く息を吐いた。


「やはり、この村には隠された真実があるんだな……」


彼は、窓から見える村の景色を改めて見渡した。昨夜アリアと話した、村の中心部の不自然な低さを思い出す。


「アリア様、昨夜話したことだけど、やっぱり村の中心部は何かおかしい。まるで、地面の下に巨大な空洞があるみたいに……」


二人は、レオンからの貴重な情報と、エリオットの鋭い直感を頼りに、村の中心部へと向かった。

昨日までは何もない広場だと思っていた場所を、今日はまるで違う目で、注意深く探っていく。

地面のわずかな凹凸、他の場所とは違う草木の生え方、そして、足元から微かに感じられる土の温度の差。小さな手がかりも見逃さないように、二人は言葉少なに、慎重に歩を進めた。


しばらく探索を続けるうちに、エリオットが、広場の隅の地面に、不自然な亀裂を発見した。


「アリア様、ここです!」


亀裂は、長い間放置されていたのか、土や落ち葉にほとんど隠れていた。それでも、よく見ると、明らかに自然にできたものではない、人工的な痕跡があった。


アリアもすぐに駆け寄り、二人で協力して亀裂の周りの土を払っていく。徐々に、それは人が一人、やっとのことで通り抜けられるほどの隙間になった。


エリオットが、先に中を覗き込んだ。底の見えない真っ暗な空間が広がっている。そして、そこからかすかに、だが確かに、不気味な瘴気が漂い出してくるのを感じた。


「くっ……!」


それは、王宮の地下で感じた、あの嫌な気配よりも、さらに濃く、まとわりつくような、おぞましいものだった。


その瘴気を吸い込んだ瞬間、エリオットは全身の毛が逆立つような悪寒に襲われた。

彼の脳裏に、ミアが苦しみ悶える姿が、鮮明によみがえる。この瘴気こそが、彼女を奪った怨念の残滓であり、その根源が、この暗闇の奥深くに潜んでいるのだと、彼は本能的に悟った。

手に持った鳥の人形を、ギュッと強く握りしめた。心の奥底で、静かに、しかし確実に、憎悪の炎が燃え上がり始めた。


アリアもまた、漂ってくる瘴気に、強い警戒心を抱いていた。

「これは……」

王宮で感じた、あの怨念の気配と、驚くほどよく似ている。

この地下には、禁断の研究が行われていた施設が、間違いなく存在している。そして、彼女の家族も……深く関わっていたのだろう。


二人は、暗闇を見つめたまま、無言で頷き合った。言葉などなくても、互いの決意は、痛いほど伝わってくる。

この暗く口を開けた地下への入り口こそが、ミストラル村を覆う呪いの核心であり、エリオットの過去、そしてアリア自身の「出自」に深く刻まれた因縁を解き明かすための、唯一の道なのだと。


「行きましょう」


アリアは、小さく息を吸い込み、少し震える声で言った。


エリオットは、力強く頷いた。


「ああ、必ず。ここで全てを終わらせる」


二人は、瘴気が立ち込める暗闇の入り口を前に、それぞれの覚悟を胸に刻んだ。


この暗闇の奥には、一体何が待ち受けているのか。


禁断の研究の恐ろしい痕跡、そして、全てを飲み込むような強大な怨念の真実。


二人の故郷を巡る、危険な探索が、今、静かに幕を開けようとしていた。



29話:終わり

〈登場人物〉


* アリア: 自身の出自に繋がる研究者がミストラル村に関わっていた可能性に強い使命感を抱く。


* エリオット: ミアが王都の研究者の子供だった可能性を感じ、怨念の根源を突き止めたいと強く願う。


* レオン(使い魔経由): アリアに王宮の極秘文書を提供する。


* ミア(回想・示唆): 過去の苦しむ姿がエリオットの脳裏に蘇る。


✦✦✦✦✦

*ポイント評価(☆)・リアクション(絵文字)・感想・イチオシレビュー全て受付けしております。

*特にポイント評価☆•リアクション(絵文字)ブックマークしていただけると、とても嬉しいです。よろしくお願いします。

✦✦✦✦✦

※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ