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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十一章 忘れられたまま、愛されていた
319/338

308話 送られた祈り - 火の向こう側


2026年

新年明けましておめでとうございます。

今年もマイペースに私占。の世界に

お付き合いくださいませ☆

2026.1.4(日) 月灯




夜が深まり、簡素な野営地に焚き火の音だけが残っていた。


砂漠を越えたあとの土地は、まだ乾いた匂いを残しながらも、どこか空気が柔らかい。


パチ、と薪が爆ぜる。

赤と橙の炎が揺れ、その向こうで影が踊った。


アリアは焚き火の前に腰を下ろし、ぼんやりと火を見つめていた。


胸の奥の疼きは、朝よりも少しだけ静まっている。完全に消えたわけではないが、今は“痛み”というよりも、残響に近かった。


(……火、きれい)


理由もなく、そう思った。

火はいつも怖いものだと思っていた。


戦場の炎。

焼け落ちる街。

取り返しのつかないものを奪っていく光。


けれど、今目の前にある火は違う。

あたたかくて、静かで、どこか祈りに似ていた。


――その瞬間。


ふっと、視界が揺らいだ。

焚き火の炎が、別の火と重なる。


もっと整えられた場所。

石畳。

夜空。

そして、朱色の鳥居。


(……え?)


見下ろしているのではなく、見上げている。

火の前に立ち、手を合わせている“自分”。

厚手の外套ではなく、慣れたコート。

吐く息は白く、空気は冷たい。

遠くで除夜の鐘の余韻が残っている。


(……神社?)


焚き火が、お焚き上げの炎に変わる。

御札や古いお守りが、静かに火にくべられていく。


願い。

後悔。

役目を終えたもの。


それらが、炎の中で形を失い、空へ昇っていく。


胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


(……これ、知ってる)


でも、名前が出てこない。

いつの記憶なのかも分からない。


ただ――

手を合わせていた“自分”は、誰かのために祈っていた。

個人の幸福ではない。

もっと、遠いもの。

続いていくもの。


火が、また揺らぐ。


今度は、黒と赤が強くなる。

空が暗く、煙が立ちこめる。

叫び声。

剣戟。

夜を裂く炎。


(……っ)


胸の奥が、ドクン、と強く脈打った。

これは、知っている。

思い出せなくても、体が覚えている。


“選ばなかった未来”。

“口を噤んだ瞬間”。


けれど、その映像は長くは続かない。

戦火は、再び焚き火の炎へと溶けていった。


「……アリア?」


エリオットの声で、現実に引き戻される。

気づけば、焚き火を見つめたまま、息を詰めていた。


「大丈夫?」

「……うん」


即答はできなかったが、そう答えた。

マコトも、少し離れた場所からこちらを見ている。


ユリウスは何も言わず、ただ状況を把握するように視線を向けていた。


アリアは胸元を押さえ、ゆっくりと息を吐く。


(今のは……夢じゃない)


けれど、はっきりとした記憶でもない。


境界線の、さらに手前。

“浅い層”の記憶。


だからこそ、断片だけが浮かび、すぐに消える。


イリスが小さく身じろぎした。

フードの内側から、ぽよん、と頭を出す。


「……ひ、あつい……でも……へいき……」

「そっか」


そっとフードを整えてやると、イリスは安心したように再び奥へ潜り込む。

月読猫が、焚き火の向こうで尻尾を揺らした。


「……送られた祈り、だニャ」


独り言のような声。

アリアはそれを聞こえなかったことにした。


今は、まだいい。

知らなくても。


火は、過去を焼き、未来へ送るもの。

祈りも、後悔も、同じように。

焚き火は静かに燃え続ける。


その向こう側に、まだ名のない記憶があることを、誰も言葉にしないまま。


夜は更け、炎だけが、静かに揺れていた。




――309話へつづく。


本当にたまたまなのですが、アリアの記憶がちょうど初詣の記憶として出てきました~。

プロット作ったのめっちゃ前なので、

自分でもちょうど年明け1本目に

初詣の記憶をアリアが見る形になるとは

思ってなかったので、ビックリです!!

2026年もよろしくお願いします。


2026.1.4(日) 月灯

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