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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十一章 忘れられたまま、愛されていた
318/338

307話 静かに満ちる余白 - 残された最後の扉

年内最終更新となります!

皆様一年ご愛読ありがとうございます。

❮感謝❯




道は、もう完全に砂漠を抜けていた。

乾いた砂の感触は薄れ、足元には細かな石と、踏みしめるたびに低い音を返す土が混じっている。


振り返れば、遠くに霞む砂丘。

前を向けば、まだ名も知らぬ土地が、静かに続いていた。

一行は、遺跡から少し離れた場所で足を止めていた。


「……ここで一度、休もう」


マコトの声に、誰も異論はなかった。

全員が、言葉にしない疲れと、言葉にできない余韻を抱えていたからだ。


アリアは腰を下ろし、無意識にローブのフードへ手を伸ばす。


「イリス、苦しくない?」

「……だいじょうぶ……ここ……すき……」


フードの内側で、ぽよん、と小さく動く気配。

背中に伝わるその温度は、まだ離れたがらない意志そのものだった。




月読猫は、少し離れた岩の上に座り、じっと空を見上げていた。

その姿は、いつになく静かだ。


「……月読さん?」


アリアが声をかけると、猫はゆっくりとこちらを向いた。

金色の瞳が、いつもより深い。


「確認できたニャ」


短い言葉。

それだけで、場の空気が変わる。


「第二の鍵は――もう、開いているニャ」


ルクスが小さく息を呑んだ。


「では、次は……」

「残りひとつニャ」


月読猫は尻尾を揺らしながら、続ける。


「だが、三つ目がいちばん深い。

 場所でも、記憶でもない。

 もっと……内側のものニャ」


その言葉を聞いた瞬間だった。


――ずくん。

アリアの胸の奥が、はっきりと疼いた。

痛みというほど鋭くはない。

けれど、確かにそこにある。

まるで、誰かが胸の奥で、声を殺して泣いているような。


「……っ」


アリアは思わず胸元を押さえる。


「アリア?」


ユリウスがすぐに気づき、声をかけた。


「大丈夫?」

「うん……」


そう答えながらも、違和感は消えない。


悲しい、というより――

置いていかれた感覚。


(……これは)


理由は分からない。

でも、覚えがあった。




フードの中で、イリスが小さく身じろぎする。


「……アリア……」

「なに?」

「……なく……こえ……きこえる……」


その言葉に、アリアの胸がまた、きゅっと縮んだ。


「イリスも……?」

「うん……だれか……さみしい……」


それ以上、イリスは言葉を探せなかった。

ただ、フードの中で、背にぴったりと張りつく。


モルンは、その様子を黙って見ていた。

影は揺れない。

だが、彼の指先だけが、わずかに強く握られている。


(……ああ)


胸の奥に響く、この感覚。

アリアには、はっきりした映像はない。

名前も、言葉も、場面も。


それでも――

誰かが、選ばなかった未来を抱えたまま、立ち止まっている。

そんな気配だけが、確かに伝わってくる。




「三つ目の鍵は、急がせないニャ」


月読猫が、静かに言った。


「自分で触れなければ、開かない。

 他の誰にも、代われないニャ」

「……それは」


シュウが口を開きかけ、やめる。

説明を求めても、答えは出ないと分かっていた。


「大丈夫」


アリアは、胸を押さえたまま、そう言った。

痛みはある。

けれど、恐怖ではない。


「……まだ、先なんだよね」


月読猫は、ゆっくりとうなずいた。


「そうニャ。でも、もう戻れないところまでは来ているニャ」


その言葉に、誰も反論しなかった。


風が吹き抜ける。

砂漠とは違う、乾きすぎていない風。

フードの中で、イリスが小さく跳ねた。

――ぽよん。


「……アリア……」

「うん」

「……いっしょ……だよね……」


アリアは、はっきりとうなずいた。


「一緒だよ」


胸の奥で、まだ微かに疼くものがある。

それは、悲しみかもしれないし、後悔かもしれない。


けれど今は、名前を与えなくていい。

第二の鍵は、確かに開いた。

そして最後の扉は――

まだ、静かに待っている。





ーーー308話へつづく



皆様、2025年3月より連載開始した

『私が占い師になった理由。』を

読んでいただき、ありがとうございます。

手探りではじめた連載でしたが、

読んでくださる方がいてくださったお陰で

無事2025年書き納めが出来ました。

この作品は来年もまだまだ続きますので、

変わらずご愛読いただけると幸いです。

皆様、よいお年をお迎えください♪


PS

2026年年始、

*私占。は、1/4~初更新となります。

*優思は、12/30(火)が年内最終更新、

1/6(火)が年始の初更新となります。

あわせてよろしくお願いいたします。


2025.12.28(日) 月灯

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