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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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300話 砂漠都市の終息 - 記憶の鍵の幕開け


砂漠都市ラシハナの空は、昼の熱気を手放し、冷たい夜の青へ溶けていく。


アリアは都市の高台から街並みを見下ろし、胸いっぱいに吸い込んだ乾いた風をゆっくり吐き出した。


砂漠の旅の終わりが、ようやく訪れようとしている――。


「だいぶ……落ち着いたね、イリス」


アリアの肩に乗ったイリスが、コクンと揺れながら答える。


「アリア……いっしょ……いく。わたし……おもいだす……がんばる」


その声音は弱々しくも、確かな意志を宿していた。

アリアはそっとイリスを指で撫でる。


「大丈夫。思い出したいときに、少しずつでいいよ」


イリスは嬉しそうにぷるんと震えた。

 



宿の広間では、旅立ちの準備を終えた仲間たちが思い思いに休んでいた。


エリオットは地図を広げ、真剣に線を引いている。

マコトは壊れた道具を黙々と修理しながら、時折アリアの方へ目をやっていた。

ユリウスは窓辺で静かに目を閉じ、剣にそっと手を添えている。

シュウは水袋を抱えながら、いつもの調子でぼやいた。


「やっと砂漠から出られるわけだよな?もう砂はこりごりだよ」


そんな言葉に、プエルが

「えへへ!」

と近寄る。


「シュウ、砂、いっぱいのとこ……もうやだ?」


「当たり前だろ、服の中まで砂だらけになんだよ」


「わかるー!わたしも、ジャリジャリするの、嫌い!」


プエルの全力での同意に、仲間たちがくすっと笑う。


エリオットも顔を上げ、


「でも、砂漠を越えられたのはみんなのおかげだよ。特にアリア、そして……イリス」


その視線に、イリスは小さくぷるりと震えた。


「イリス、おてつだい……したの?」


「もちろん。イリスが結界で見せてくれた反応で、道がわかったんだ」


マコトが穏やかに微笑むと、イリスは誇らしそうにアリアの肩で揺れた。

 



そのとき、広間の隅に座っていたモルンがゆっくり立ち上がった。

彼の姿は、以前よりはっきりと“人の姿”に近づいている。 影の揺らぎはまだ残るが、青年の輪郭が安定してきた。


「……どうやら、人化が戻りつつあるようだ」


「モルン、もう無理しないでね」


アリアの言葉に、モルンはわずかに目を伏せた。


「心配させたな、アリア。だが……イリスの中にある“記憶の鍵”が開き始めた。それに反応して、俺の力も整いつつあるのだろう」


「きおくのかぎ?」


イリスが首をかしげると、モルンはイリスの核を透かすように見つめた。


「鍵は三つ。そのうち一つはすでに目覚めた。残り二つが開けば……すべてがつながる」


その瞬間――

広間の梁に座っていた月読猫が、しゅたっと降りてくる。


「そういうことなのニャ。……そろそろ、“記憶篇”が始まるニャ」


「記憶篇……?」


アリアが聞き返すと、猫は尻尾をゆらりと振った。


「アリアの中の“もうひとつの心臓”……カメリアの記憶ニャ。あれが目覚めかけているニャ」


「わ、わたしの……?」


アリアは胸に手を当てた――その瞬間。

 

ドクン。

 

胸の奥から、熱い脈動が指先にまで広がった。

視界の端に、ほんの一瞬だけ、赤い花びらのような光が散った。

アリアは息を呑む。

イリスが心配そうに頬へ触手を伸ばした。


「アリア……いたい……の?」


「ううん、大丈夫。……ただ、懐かしい気配がしたの」


マコトが近寄り、優しい声で問う。


「前世……の?」


「多分。カメリアの記憶が、また……」


アリアの言葉は震えていたが、恐れよりも、何かを呼び戻すような静かな響きを帯びていた。


ユリウスも目を開き、アリアを見つめる。


「アリア。その記憶は、おそらく俺たちにとっても無関係ではない。……進むべき道は、そこでまた交わる」


プエルも不安そうにアリアの手を握った。


「アリア……こわい?」


「大丈夫。ありがと、プエル」


アリアは小さく笑い、仲間たちを見渡した。


「みんなと一緒なら……きっと、どんな記憶でも受け止められる」


それは強がりではなく、仲間の存在に支えられた言葉だった。

 



夜が深まる頃、旅支度を整えた一行は、ラシハナの石門の前に立っていた。


月の光が砂に溶け、声の届きそうな静けさが広がる。


「さあ、行こうか」


エリオットが前へ一歩踏み出す。


「次の目的地は、記憶に連なる場所ニャ」


月読猫が言うと、イリスがアリアの肩で小さく跳ねた。


「アリア……いっしょ……いく。  わたし……おもいだす……ぜんぶ……!」


アリアはその決意を受け取り、そっと微笑んだ。


「じゃあ行こう、イリス。みんなで、全部取り戻しに」


砂漠都市の夜風が、彼らの背を押した。



こうして―― 砂漠での長い旅路は静かに幕を閉じ、 アリア・イリス・月読猫の “記憶の鍵” が開き始める。





ーーー301話へつづく

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