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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第三章 ミストラル村編
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27話 荒廃の故郷 - 怨念の残滓

見慣れた王都の喧騒が遠ざかり、アリアとエリオットが歩む道は徐々に静けさを増していった。

緑が生い茂る街道を進むにつれ、空気はどこか湿っぽく、重苦しいものへと変わっていく。


アリアは、胸に抱えたペンダントを時折そっと撫でた。古びた金属の感触はひんやりとして、遠い記憶の断片を呼び起こすようだった。


数日の旅路を経て、二人はついにミストラル村へと続く道に入った。

しかし、その景色はアリアが想像していたものとは大きく異なっていた。かつては穏やかな農村だったであろう場所は、見る影もなく荒廃していた。

崩れかけた家々、雑草が生い茂る畑、そして何よりも、生きた人間の気配がほとんど感じられない異様な静けさが、二人を迎えた。


「ここが…私の故郷だったのでしょうか…」


アリアは、目の前の光景を信じられないといった表情で見つめた。


セシリアから見せられた古い記録の挿絵には、もっと活気に満ちた村の様子が描かれていたはずだった。


エリオットは、周囲の空気を注意深く嗅ぎ取っていた。彼の表情は険しい。


「アリア様、この村には微かながら、確かに怨念の残滓が漂っています。王宮のそれとは質が異なりますが…もっと深く、土壌に染み付いているような、陰鬱な気配です」


彼は、妹を奪ったあの忌まわしい力を微かに感じ取り、警戒心を強めていた。


村の入り口付近で、アリアは足元に転がる壊れた石碑に目を留めた。風雨に晒され、苔むしたその表面には、見覚えのある意匠が刻まれていた。

それは、彼女が肌身離さず持っているペンダントの中央に刻まれた紋様と、酷似していた。


「やはり…このペンダントは、この村と何か深い繋がりがあるのね」


アリアは、確信を深めた。


二人は、慎重に荒廃した村の中へと足を踏み入れた。

道は長く伸びる雑草に覆われ、かつて人々が生活していたであろう家々は、壁が崩れ落ち、屋根が抜け落ち、まるで亡霊の棲家のように静まり返っていた。風が吹くと、朽ちかけた木材が軋む音が、寂しげに響き渡るだけだった。


アリアは、レオンから事前に聞いていた情報を思い返していた。村の地下には何らかの施設が存在していた可能性が高いこと、そして、過去の住人たちが奇妙な病や事故に見舞われていたという記録。この荒廃の理由は、単なる時間の経過によるものだけではないだろう。


エリオットは、アリアの少し後ろを歩きながら、周囲の環境に神経を尖らせていた。

彼は、地面に残る微かなエネルギーの流れや、不自然に枯れた植物の様子などを観察し、怨念の痕跡を辿ろうとしていた。

時折、彼は立ち止まり、目を閉じ、深呼吸をして、空気中に漂う微細な力を感じ取ろうとしていた。


二人は、別々に村の中を探索することにした。


アリアは、かつて人が集まっていたであろう広場跡や、共同の水場跡などを中心に、生活の痕跡を探した。壊れた食器の破片、錆び付いた農具、そして風化した布切れなどが、かつての村の賑わいを偲ばせるように散らばっていた。


一方、エリオットは、より怨念の気配が濃いと感じられる場所へと足を運んだ。村の奥深く、鬱蒼とした森に囲まれた一角には、他の場所よりも黒ずんだ土壌が広がっており、周囲の木々も不気味なほど枯れ果てていた。

彼は、そこで強い吐き気を催し、妹を失った時の、あの胸を締め付けるような感覚が蘇ってきた。


探索を続けるうちに、二人は数人の生存者と出会った。彼らは、村の片隅でひっそりと身を寄せ合い、まるで外界との接触を恐れるかのように暮らしていた。顔には深い疲労の色が刻まれ、瞳からは光が失われている。


アリアが優しく声をかけても、彼らは警戒心を露わにし、口を開こうとはしなかった。過去に何か恐ろしい出来事があったことは、彼らの様子から明らかだった。


それでもアリアは、諦めずに言葉をかけ続けた。占い師として培ってきた、相手の心に寄り添う言葉を選びながら、少しずつ彼らとの距離を縮めようと試みた。

エリオットもまた、静かに彼らの様子を見守り、威圧感を与えないように努めた。


夕暮れが迫る中、ようやく一人の老人が、重い口を開き始めた。


「…もう、何もかも昔のことじゃ…話したところで、何になるというのか…」


その声は、長年の苦労と諦めによって、深く嗄れていた。


アリアは、老人のそばに膝をつき、優しく語りかけた。


「それでも、教えてください。ここで何があったのか。私たちは、あなたたちの力になりたいのです」


老人は、遠い目をしながら、ゆっくりと語り始めた。

それは、穏やかだった村に、ある日突然訪れた異変の物語だった。王宮から来たという研究者たち、始まった奇妙な実験、そして、村を蝕んでいった黒い影のようなもの…。

老人の言葉は断片的で、時折、恐怖に震えて途切れたが、アリアとエリオットは、その一つ一つに耳を傾けた。


老人の語る内容は、レオンから聞いていた噂や、セシリアから託された記録と符合する部分が多かった。古代魔法、禁断の力、そして王宮の研究者たち。

全ての点が、一つの線で繋がっていくような感覚が、アリアの中に広がっていった。

そして、エリオットは、老人の語る「黒い影」という言葉に、妹を奪った怨念の姿を重ねていた。

彼の心には、抑えきれないほどの怒りと、真実を突き止めたいという強い衝動が湧き上がっていた。


夜の帳が下りたミストラル村は、昼間以上の静寂に包まれた。アリアとエリオットは、村の片隅に残る、比較的状態の良い廃屋で一夜を過ごすことにした。焚き火の揺れる炎を見つめながら、二人は今日得られた情報を整理していた。


「やはり、ここで古代魔法の実験が行われていたのは間違いなさそうです」


アリアは、老人の言葉を反芻しながら言った。


「そして、その実験が、この村を滅ぼした原因なのでしょう」


エリオットは、静かに頷いた。


「あの老人が言っていた『黒い影』…あれは、怨念に違いありません。妹を…多くの人々を苦しめた、忌まわしい力です」


彼の瞳には、深い憎悪の色が宿っていた。


アリアは、エリオットの悲しみと怒りを感じながら、そっと彼の肩に手を置いた。


「エリオットさん…」


「私は…必ず、この怨念の根源を断ちます」


エリオットの声は、低いながらも、固い決意に満ちていた。


アリアは、夜空を見上げた。

満月が、荒廃した村を蒼白く照らしている。

古道具屋で見つけたペンダントが、胸元で微かに光っているように感じた。


故郷ミストラル村。

この荒廃した地で、彼女は一体何を見つけ、何と向き合うことになるのだろうか。

封印と真実を求めて辿り着いたこの場所で、アリアとエリオットの、過去との対峙が始まろうとしていた。




27話:終わり


〈登場人物〉


* アリア: 故郷ミストラル村の荒廃に衝撃を受ける。ペンダントと村の繋がりを感じ始める。


* エリオット: 幼い頃に妹 ミア を怨念で失った過去を持つ。村に漂う怨念の残滓に敏感に反応し、警戒を強める。


* 生存者の老人: 過去の異変について断片的に語り始める。


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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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