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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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283話 影巡りの回廊 - 影ぬいの反応


砂沈む門を抜けた瞬間、空気がひやりと肌を撫でた。

外の焼けつくような熱は跡形もなく消え、石造りの回廊には静寂だけが満ちている。


アリアは思わず肩をすくめ、胸の中で月読猫を抱きなおした。

猫の耳がぴんと立ち、尻尾がそわそわと揺れ続けている。


「……嫌な感じ、する?」


そっと問いかけると、月読猫は小さく「にゃ……」と返した。

だけどその目は、まるで“そこに何かがいる”かのように奥をじっと見据えている。


壁に近づくと、そこには黒い影の模様が、まるで生きているみたいに複雑に絡んでいた。

光源がほとんどないのに、影だけがわずかに脈打つように揺れている。


「うわぁっ、かっこいい! この影、なんか動いてる!」


プエルが目を輝かせて走り出し──


「触ると危ないから」


ルクスが無言でフードをつまみ、プエルを持ち上げる。


「えっ、なんで?」


「影の属性が濃すぎる。魔法陣の一部になってる。

触ったら……まあ、吸われるね。たぶん」


「ひぃ……吸われるのはヤダ……!」


プエルは慌ててアリアの後ろに退避したが、壁の模様には名残惜しそうに目を向けている。


エリオットは跪き、床に落ちた砂の量と深さを慎重に調べていた。


「……先客がいる。足跡が新しい。しかも複数だ」


「先客……?」


アリアが思わず声を潜める。


「冒険者か、盗掘狙いか……どちらにせよ、素人の足運びだ。

この回廊を理解して歩いた形跡はない」


つまり、危険な場所に“無防備なまま入った人々”ということだった。


その時、モルンが一歩進んだ瞬間、アリアの心臓が跳ね上がる。

モルンの足元に落ちる影が、ふわりと人型に膨らんだのだ。


「モルン!? 影が──」


「……うん。わかってる」


モルンは困ったように笑ったが、その笑顔の奥で痛みに耐えているのがアリアにはわかった。


「……っ」


ルクスが鋭く息を吸う。


「影の魔力が……吸われてる。モルンから、少しずつ」


アリアが顔色を変え、思わずモルンの肩に手を置いた。


「モルン、大丈夫?」


モルンはいつもの柔らかな笑みを浮かべる。


「……大丈夫。少し“重い”だけだ。歩ける」


「万が一のために、魔力回復手段くらいは出しておくよ」


シュウが腰のポーチを探りながら言うと、イリスが「モルン、つかれたら、イリスの魔力あげるの」と胸を張る。プエルも横から「わたしもあげるー!」と手を挙げた。


「やっぱり……この影の回廊、影ぬい持ちには相性が悪そうだな」


ルクスが影模様をじっと見つめ、息を吐いた。


アリアはモルンの手をそっと握る。


「無理はしないで。ね?」


「大丈夫。アリアがいるから」


モルンは優しく微笑んだが、その影はまだ揺れ続けていた。


マコトがふいに立ち止まり、前方に手をかざす。


「風が……曲がってる。

──いや、そこだけ“風が消えてる”。見えない通路だ」


「見えない通路?」

プエルが顔を出す。


「影で閉ざされてる。

本当は道なのに、そこだけ“壁に見せかけてる”んだ」


エリオットが鋭い目で補足する。


マコトは風のわずかな流れを読み、ゆっくりと歩みを進めた。

砂が舞い上がり、その一部だけ“不自然に沈まない”。

まるで見えない壁に支えられているようだった。


「ここだ。影が壁を偽装してる。

通るなら、この細い風の通り道だけ」


「すご……。師匠、よくこんなのわかるね」


アリアが感心して言うと、マコトは照れ臭そうに鼻をかいた。


「昔から風の流れだけは得意だからな。

……こんなとこで役に立つとは思わなかったけど」


月読猫が突然、低い声で喉を鳴らした。


「……にゃ゛……!」


その声はいつもの甘え声とは違う、緊張の混じった音だった。

アリアは急いで抱きしめる。


「どうしたの、月読さん……?」


月読猫はアリアの胸元に顔を埋めながらも、回廊の奥を睨み続けていた。


ルクスがそっと耳を澄ませるように壁に触れず近づく。


「……影がざわついてる。

誰かが“呼んでる”みたいな……そんな感じ」


「呼んでる……?」


アリアが呟くと、モルンの影がまたふわりと揺れた。


「大丈夫だ。まだ……耐えられる」


そう言うものの、膝がわずかに震えている。


アリアは強く手を握りしめた。


「行こう、みんな。

でも絶対に、勝手に動いちゃダメ。

影が“何かを見せようとしてる”……そんな気がするから」


その言葉に、仲間たちは静かに頷いた。


回廊の奥へ足を踏み出すと、影の模様がゆるりと揺れ、

まるでアリアたちを迎え入れるように道が開いていく。


その先に何があるのか、まだ誰にも分からない。


けれど、月読猫の震えとモルンの影の反応が──

ここが“ただの遺跡ではない”ことだけは確かだった。


アリアは一歩、また一歩と進む。

胸の中で月読猫が息を潜め、仲間たちの足音が静かな空間に響いた。


影巡りの回廊は、まるで生き物のように蠢きながら、

彼らをさらなる奥へと誘っていた。





ーーー284話へつづく



※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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よかったら読んでみてください。

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