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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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278話 砂漠の迷い - 月読猫の嗅覚


 風が砂丘をさらい、黄金色の波紋が次々と姿を変えていく。

 同じ景色が永遠と続くような砂漠の真ん中で、アリアたちは完全に足を止めていた。


「……今日、こんなに地形が変わるなんて聞いてなかったよね」


 エリオットがげっそりした声で言いながら、手に持った長杖で砂をつつく。


「砂漠というのは“風が描く世界”だ。人の都合には合わせてくれぬよ」


 ルクスが落ち着いた声で言い、砂をすくって風の向きを測る。

 その仕草はどこか古代の文献を読み解く学者のようでもある。


「わたしの推測でも、これでは確かな道筋が読めない……」


「うぅん、ここ、昨日通った場所とは全然違うよね?」


 プエルが不安そうに砂丘を見回す。


「全部同じに見えるんだけど!」


「それが砂丘ってもんだよ。迷ったら最後ってやつ」


 シュウが苦笑しながら返す。

 肩から下げている薬袋を開き、風の匂いを確かめるように鼻をひくつかせる。


「風向きも変わってるし……今日は特に読みにくいな」


 アリアは流れる髪を押さえながら、空を見上げた。

 太陽は高く、風の匂いが砂に馴染んでしまって何も手がかりがなかった。


「このまま進むのは危険だね。少し休憩して考え直そ――」



 その時だった。


 アリアの足元に丸まっていた月読猫が、ふいに立ち上がった。

 細い体をしならせ、砂の匂いを深く嗅いでいる。


「月読さん?」


 イリスがぽよん、と跳ね寄る。


 猫は答えるように喉をころころ鳴らし、尾をぴんと立てた。

 そして、まっすぐ砂丘の斜面へ歩き出す。


「……なんだ? あの歩き方」


 エリオットが目を細める。


「迷いがないな。何か嗅ぎ当てたんだ」


 マコトが静かに呟く。


「月読殿は、ただの猫ではありませんからね」


 ルクスが微笑を浮かべる。


「古代の霊獣の気配に近い……わたしはそう感じます」


「じゃ、ついてけばいいんじゃない?」


 プエルが元気に言う。


 アリアは猫の背にそっと触れた。


「月読さん、道が分かるの?」


 ――にゃっ


 短く鳴くと、猫は軽い足取りで駆け出した。

 イリスもぽよんぽよんと続き、仲間たちも急いで後を追う。


「……本当に頼もしいよね、あの子」


 シュウが呟いた。




 その横を、黒い影がすっと伸びる。


「モルン、影を広げてるの?」


 アリアが振り向くと、彼の体が淡く揺らぎ――


 次の瞬間、小型化していた竜の姿が影の膜に包まれ、ゆっくりと“人型”に変わっていく。


 濃紺の髪がさらりと揺れ、瞳は深い橙。

 砂漠の光を受けて影がちらちらと揺れる独特の雰囲気をまとう青年の姿――それが“人型のモルン”だった。


「……モルン、その姿も板についてきたね」


 エリオットが感心したように言う。


『ルクスが教えてくれたからな。影を“形で固定する”練習をしていた』


 モルンは淡々と答えた。声は念話で仲間たちに響く。


「影ぬいの応用、というわけですね。竜族の才能はやはり興味深い」


 ルクスがにこりと笑う。

 まるで年の離れた弟子と師匠のような空気がそこにあった。


『……人間の姿の方が、お前たちの歩調に合わせやすいからな』


「助かるよ。行動範囲も広がるしね」


 アリアが微笑むと、モルンは少しだけ視線をそらした。


 彼の表情には、どこか“昔の後悔”の影があった。

 それでも今、彼はアリアを守ると決めている。


『月読の進む方向……風が澄んでいる。影の揺らぎも小さい。安全だ』


「モルンまで言うなら、間違いないね!」


 プエルが嬉しそうに跳ねた。



 一行は猫の後を追って砂丘を越えていく。

 月読猫の歩調は不思議と一定で、速すぎもせず遅すぎもしない。

 まるで“迷う仲間に配慮”しているかのようだった。



「ほんと、不思議な猫だよね」


 シュウが笑う。


「でも、ああやってついて行きやすい速度できざむのがいいんだよ。導き手って感じ」


 やがて三つ目の丘を越えたときだった。

 突然、視界がぱっとひらけた。


「……白い?」


 エリオットが目を丸くする。


 砂の海の中に、一本の“白くひび割れた道”が走っていた。

 もう何十年も前からそこにあったかのように、淡く光って見える。


「これ……“風道”だな」


 シュウが驚きの声を漏らした。


「砂漠を渡る商人が使う、自然の道筋だ。暴風のあとにしか姿を見せないはずだが……」


 ルクスが目を輝かせる。


「月読殿は、これを探していたのだろう」


 アリアがそっと猫を抱き上げる。


「月読さん……ありがとう」


 猫は嬉しそうに喉を鳴らし、イリスがぽよんぽよんと寄り添う。


「頼もしいね、ほんとに」


 プエルが頭を撫でると、猫はくすぐったそうに耳を震わせた。


 ようやく仲間たちの顔に、安堵の笑みが戻る。


「じゃあ……この“風道”を進もう!」


 エリオットが長杖をくるりと回しながら言う。


『この先は、風が守ってくれる。砂の迷宮は越えた』


 モルンの念話に、アリアは胸をほっと撫でおろした。


 仲間たちは新たな道へと足を踏み出す。

 砂漠の迷いは、一匹の猫の嗅覚によって切り開かれたのだった。





―――279話へつづく。





※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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