269話 砂に沈んだ祈りの塔 - 初接触
遅くなりましたが、11/1中に更新したかったのでなんとか…!
砂が流れ落ちる音が、静寂の中で微かに響く。
夜明けの光を受け、砂丘の奥から現れた遺跡の入口は、まるで巨大な生き物が口を開けたようだった。
アリアたちは慎重に足を踏み入れる。
ひんやりとした空気が肌を撫で、光の届かぬ奥から古の息吹がかすかに漂っていた。
「……だれかいますか~?だれもいないですか~?」
プエルが小声で尋ねる。
「人の気配はないが、“何か”は目覚めようとしている」
ルクスが低く答えた。
ルクスの指先から、無詠唱の光がふっと生まれる。
それが浮遊灯のように遺跡の壁を照らすと、淡い紋様が浮かび上がった。
古代文字――“祈り”を意味するものだ。
モルンの念話が響く。
『この場所は“記憶”を守る聖域。だが……侵入者を拒む力も同時にある』
アリアは息をのんだ。
月読猫が、砂の上をするりと歩き、壁に残る刻印をじっと見つめている。
「……月読さん?」
呼びかけると、猫はわずかに尾を揺らし、前方を見つめたまま動かない。
その瞬間――空気が張り詰めた。
光が弾け、遺跡の奥に“幻影”が現れた。
淡い金色の輪郭を持つ存在。人でも獣でもない、古の守護精霊。
「……まだ、残っていたか」
ルクスが息をのむ。
ユリウスが一歩前に出て、王家の剣を抜いた。
「全員、構えろ。あれは――試す気だ」
その声に呼応するように、幻影の目が光を帯びた。
圧が空間を満たし、砂が風もなく舞い上がる。
イリスが“びよん”と跳ね、虹の光を放つ。
プエルが身をすくめてアリアの後ろに隠れた。
「な、なんかおこってるよ……!」
だが、月読猫だけは前に進んだ。
尻尾をぴんと立て、幻影を真っ直ぐ見上げ――堂々と「にゃあ」と鳴く。
空気が震えた。
まるで“挑発”に応じたように、幻影の光が強く瞬いた。
「……猫、挑んでるのか?」
エリオットが目を細める。
「いや、測っているんだ」
マコトが答えた。
「俺たちの心を」
光がうねり、守護精霊が腕を振るう。
砂の床が裂け、光の波が押し寄せた。
「来るぞ――!」
ユリウスが剣を構え、光の刃を受け止める。
瞬間、弾かれるように砂が爆ぜた。
エリオットは長杖を掲げ、即座に結界を展開。
盾と同化するような魔法陣が仲間を包み、熱と衝撃を吸収する。
「防御層展開――っ! 今のうちに!」
ルクスは一歩も動かず、詠唱なしに魔力を流す。
白い光が走り、幻影の攻撃を空間ごと歪ませた。
その静かな魔力の制御に、プエルが思わず声をもらす。
「ルクス、やっぱりすごい……!」
「声に頼らずとも、意志が届けば足りる」
ルクスは淡々と答え、片手をかざした。
モルンが翼を広げ、砂嵐のような光を受け流す。
『アリア、退くな。これも“祈り”の一部だ』
アリアは頷き、胸の鼓動を抑える。
猫が、こちらを一瞥した。
その瞳には確かな意思が宿っている――まるで、彼女たちを導くように。
ユリウスの剣が光を裂く。
一瞬の隙に、彼は幻影の腕へ矢を放つ。
「……っ、当たれ!」
鋭く放たれた矢が幻影の中心をかすめた瞬間、光が一気に収束する。
遺跡全体が低く唸り、音もなく震えた。
『……古の番人よ。我らを試せ』
声なき声が響く。
アリアは息を呑む。
それが月読猫の心の声か、塔の意志かは分からなかった。
光が奔流となって広がり――仲間たちは一瞬で光に包まれる。
それぞれの心を映す“試練”の中へ。
――古代の祈りが、彼らを見定めようとしていた。
ーーー270話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




