266話 砂漠の新しい友 - 月の影
こんにちは。
1週間休載しお待たせ致しました。
今日から再開しますので、またよろしくお願いします。
夜明け前の砂丘は、まだ冷たく、静寂が広がっていた。
砂粒の上に朝の光が届く前、風だけがひっそりと音を立てる。
遠くの砂の峰が、淡く青い夜の影を落とし、砂漠の静謐さをより深く感じさせた。
アリアは小さな焚き火に手をかざし、眠そうに目を細めた。
イリスはぽよん、と跳ねて体を丸め、淡い虹色の光を放つ。
その光は砂粒に反射して、まるで小さな星々が砂の上に散らばったかのようだった。
「……おはよう、イリス」
まだ眠そうに“ぽよん”と跳ねて応えるイリス。
『今日も一緒に、進むのだ』
モルンの念話が静かに届く。翼の影が砂の上に伸び、静かな存在感を示していた。
砂の粒が柔らかく光を反射し、夜明け前の青い空と混ざって、砂漠はまるで別世界のような神秘的な色合いに包まれている。
シュウが砂丘に腰を下ろし、ぽつりと呟いた。
「さて、今日も砂漠と友達になるか……アリア」
アリアは微笑み、軽くうなずく。
「うん、みんなで進もうね」
その声に、砂漠の静寂が少しだけ和らぐ。
遠くの砂丘が光を受けて黄金色に染まるのを眺めながら、今日の旅路を思う。
背後で風に揺れる砂丘の輪郭が、朝の光を待っているかのように静かに動いた。
砂丘の向こうから、柔らかな影がひょい、と現れた。
小さく丸まったその体は、毛並みが月光に淡く光り、鋭い瞳がこちらを見据えている。
影は一瞬だけ砂に溶け込むように揺れた。
「……何者だ?」
マコトが慎重に歩み寄る。
その瞳は警戒に光り、手元の武具に自然と意識が向く。
影はゆっくり伸び、体を大きく膨らませると、柔らかく鳴いた。
「……我は月読猫。」
アリアは驚き、思わず息をのむ。
「月読……?」
聞き覚えのある神の名と同じ響きに、胸の奥がざわつく。
風に混じって、猫の毛の柔らかな香りがかすかに漂い、思わず深呼吸する。
ユリウスは目を細め、猫を観察しながら呟いた。
「魔獣…?それとも神獣か…?」
毛並みの光沢や目の鋭さ、体格のしなやかさを見て、どこか神秘的な存在を感じ取る。
体の毛の質感や目の鋭さ、雰囲気のどこか神秘的な感じに、思わず警戒と好奇心が混ざる。
プエルは無邪気に跳ねながら、猫に近づく。
「どこから来たの?しゃべる猫なの?」
純粋な疑問を口にし、顔を輝かせる。
その目には好奇心が弾け、砂粒の上に小さな足跡をつけて駆け回る。
ルクスは少し離れた位置から、冷静に観察し、低く唸る。
「……この猫は、ただの猫ではないな。イリスに似た気配がある……」
長命ゆえの感覚で、普通の生き物とは違うと直感していた。
影の揺れ方、光の受け方、体から放たれる柔らかな光の粒子まで、何もかもが神秘的に思えた。
マコトは眉をひそめ、半信半疑で訊ねる。
「そなた、何用で現れた?」
猫は軽く伸びをし、背中の毛をなびかせ、柔らかく鳴く。
『アリアのそばが居心地が良いと、本能が告げている』
アリアはその言葉に言葉を失った。
会ったこともない猫が自分の名前を知っていて、さらに“月読”という名を名乗る——その不思議さに、胸が高鳴る。
目を丸くし、思わず手を胸に当てる。心臓の鼓動が砂の静けさに響いた。
「なんでアリアの名前知ってるの?」
無邪気なプエルの鋭い質問が飛ぶ。
イリスが体をくねらせ、ふわりと光を灯す。ぽよん。
「……いっしょにアリアまもる?」
アリアはにっこり微笑み、そっと問いかけた。
「月読さんも一緒に来る?」
猫はちょこんと座ったまま、ゆっくり尾を揺らし、答えるように『にゃー』と鳴いた。
その鳴き声は砂の風に乗り、仲間たちの耳に柔らかく届く。
イリスは再び体をくねらせ、光をふわりと放つ。
『……いっしょ!』
シュウが肩をすくめ、微笑む。
「まあ、面白そうだし。イリスも喜んでるし」
砂の上に座るシュウの影も、光を受けて柔らかく伸びる。
エリオットは小声で笑う。
「……ほんとに、自由気ままな猫だな」
その瞳の奥には、期待と興味が入り混じっていた。
マコトは静かにうなずき、少し口数少なめに言葉を添える。
「モルン、今日も頼むぞ」
『心得ておる』
モルンの念話が静かに響く。
翼を広げ、砂の上で軽く羽ばたくと、砂粒が柔らかく舞った。
砂漠の風が強まり、砂粒が舞う。
影の流れが、徐々に昼の光を迎えるように揺れ動いた。
仲間たちは無言で、砂の上に立ち尽くす。
それぞれの足跡が、砂の海に小さく刻まれた。
アリアは小さく呼吸を整え、仲間たちを見渡す。
「……この先も、みんなで進もうね」
イリスはぽよん、と跳ねて、光をふわりと放つ。
「アリア、ずっといっしょ!」
月読猫はその間を縫うように軽やかに歩き、時折、アリアの肩に体をもたせかけた。
その柔らかな毛並みと、軽やかな足取りが、砂漠の孤独を少し和らげる。
『この者たちと行こう……砂漠の向こうへ』
太陽が砂丘の稜線を照らす頃、影は長く伸び、砂の上に点々と影を描いた。
新たな仲間を迎え、旅は再び動き出す。
砂漠の先に待つ、古代遺跡“砂に沈んだ祈りの塔”へ——。
ーーー267話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




