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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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262話 影の翼 - 砂の守り手




 遠くで砂嵐が渦を巻き、乾いた風が肌を刺す。

オアシスまであと少し——視界の揺らぎの向こうに、青い水面がかすかに光った。

その瞬間、胸の奥に緊張が走る。


「……動くな」


 低く響くルクスの声。

掌をかざすだけで、空気が微かに揺らぎ、光の膜が広がる。杖はなくとも、彼の魔力は仲間の盾となり、風に乗った砂を防いだ。


 砂の下から、細い刃が月光のように閃いた。飢えた獣のような目の男たちが、砂煙に紛れて一斉に飛び出す。

アリアは膝を曲げ、倒れかけた仲間の腕を抱えて身を低くした。


 マコトが体をひねり、打撃を叩き込む。ユリウスの剣先が砂を裂き、敵の足元に光を描く。ルクスの掌から風と炎が流れ、飛び出す敵を押さえ込む。戦場は嵐のようにざわめき、仲間の動きが生き生きと絡み合う。


 そのとき、砂の下から黒い影が這い出した——ルクスの背後に迫る。


「ルクス、後ろっ!」


 アリアの叫びに、地面が揺れる。黒い影が翼を広げ、尾先まで光を帯びて波打つ。巨大な竜、モルンだ。砂を蹴り上げるたび、影が敵を絡め取り、もがく間もなく男たちは地面に沈んだ。


 鱗が淡く黒く光り、影が仲間たちの足元に溶け込む。倒れかけたエリオットも、影の波に包まれ無傷で転がり出た。マコトは肩で息をし、ユリウスは剣を引き戻し、砂に散る光と影を見つめる。


『——聞こえるか?』


 頭の奥に、静かな声が届く。口を動かさずとも、モルンの念が直接心に触れる。

アリアは息を呑み、胸が震えた。ルクスも瞳を細め、微かに驚きが滲む。


『繋がったようだ……お前たちと。影は心にも通じるらしい』


 竜の体が影を揺らす。影を操る力——それは使う者を蝕む危険を孕むが、今、仲間と呼吸を合わせ、念話と影の力がひとつになった。


 アリアは胸の奥がじんと熱くなるのを感じる。戦闘の緊張が残る中、仲間全員で力を合わせて乗り越えた達成感が心を満たした。


 そのとき、小さな音がした。

「ぽよん」……「びよん」

——虹色のイリスが跳ねる。

体の奥で光が揺れ、遠い遠い記憶の欠片が、アリアの胸に静かに流れ込む。


(……つながる……守るために……)


 それはアリア自身の記憶ではない。遠い先祖の時代、古代王家と虹色スライムたちの祈りと願い——時を超え、イリスを通じて届けられる。

アリアはただ感じる。

光に満ちた泉、小さな影が手をかざす姿。「あなたを守るために、生まれたの」と残る温かな響き。


 プエルもぴょんと跳ね、敵の注意を引く。まだ魔法はほとんど使えないが、その小ささと素早さが攪乱に役立つ。

シュウはこまめに仲間を癒し、血や砂の傷を手当てする。静かな呼吸と微かな光が、戦場の中で安心感を紡ぐ。


 モルンは翼を広げ、尾先の光が影を導き、仲間を包み込む。

 エリオットは素早く防御結界を展開し、盾のように仲間を覆い、残る攻撃から守る。

 ルクスは光を微かに整えつつ、仲間の動きを見極め、必要なときに支援を行う。

 マコトとユリウスは影と光の隙間を突き、力を合わせて敵を押さえ込む。




 風が凪ぎ、遠くにオアシスの緑が揺れた。

砂嵐の残響が柔らかく消え、希望の光が仲間の心に滲む。

影と光、念話——二つの力が、確かにひとつに重なった瞬間だった。




アリアは小さく息を吐き、仲間の肩に手を置く。モルンの龍の体、ルクスの光、マコトとユリウスの攻撃、プエルとイリスの小さな支援、シュウとエリオットの守り——すべてが揃い、前へ進む力になっていた。


 「さあ、行こう。オアシスはもうすぐだ」


 ルクスの声に、仲間たちは頷く。イリスも小さく光を揺らし、前を向いた。砂漠の彼方に、希望と安堵の光が揺れている。


 


 


ーーー263話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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