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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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閑話:番外編003 王都の午後 - グレゴール叔父さんの恋

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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春の王都は、風がやわらかく街を包んでいた。

王城近くの庭園では、色づく木々の影の中を、白い鳩が飛び交っている。

その石畳の一角で、グレゴール叔父さんは珍しく、そわそわと落ち着かない様子だった。



「……まさか、本当にお見合いをなさったんですか?」


千里鏡越しにユリウスの声が響く。

隣ではアリアが身を乗り出して、「叔父さま! その話、噂で聞きました!」と目を輝かせた。

通信越しにも、叔父さんの耳が赤くなるのがわかるほどだ。


「まったく、君たちは……噂好きだな。王都中にどれだけ早く話が広まるんだ」


苦笑しながらも、グレゴール叔父さんは髭を撫でた。

その背後には、王城の石造りの回廊と、春光に揺れる藤棚が見えている。


「で、で……どんな方なんですか?」


アリアが問いかけると、叔父さんは少し言葉を選ぶようにして答えた。


「落ち着いた方でね。古文書の修復を専門にしておられる。

 本を読む時間を、静かに尊重してくれる人だよ。私にとっては……それがいちばん大事でね」


「……わあ……ぴったりですね」


アリアの声に、通信の向こうでマコトとエリオットがこっそり顔を見合わせる。


「なるほど、読書デートタイプってやつだな」

「しっ、しーっ! 聞こえたら怒られる!」


ふたりの小声に、イリスがふるりと震え、柔らかく虹色に光を放った。

モルンが念話で『恋というのは、熱を帯びるものなのか?』と問う。

通訳のルクスが淡々と伝えると、場が一瞬で静まり返り、次の瞬間、全員が吹き出した。


「モルン、それは……うん、まぁ、そういうときもあるかな……」


アリアが笑いながら頬を押さえる。

プエルは無邪気に手を振りながら、


「グレゴールおじちゃん、はずかしそう!」


と元気いっぱいに言った。


叔父さんは額を押さえ、ため息をつく。

だが、その目元はどこか優しく、苦笑の奥に微かな照れを隠していた。


「やれやれ……君たちはいつも賑やかだ。

 だが、まあ、悪くない。笑いが絶えないのは、良い旅の証拠だ」


背後から、文官のひとりがそっと声をかける。


「殿下、次の予定の前に……お見合いのお相手からお手紙が届いております」


「おや……」


叔父さんの指先が震えたのを、通信越しでもアリアは見逃さなかった。

ユリウスが思わず声を上げる。


「うわっ、叔父上、顔が赤い! 珍しいですよ!」

「黙りなさい、ユリウス」


その叱責にも、どこか嬉しそうな響きが混じる。

イリスの体がふわりと淡い虹色に輝き、モルンが念話で『幸福の色だ』と呟いた。


アリアが穏やかに笑って頷く。


「叔父さま、どうか幸せになってくださいね。

 あなたが誰かと笑い合う姿を、私……見てみたいです」




短い沈黙のあと、ふと千里鏡越しに叔父さんの表情が変わる。

真面目な眼差しをアリアたちに向け、静かに言った。


「君たちも、どうか自分の心を忘れぬように。忙しさや使命に押され、互いの声や思いを置き去りにしてはならない」


その言葉に、アリアは胸を打たれた。

目の前の仲間たち、遠く離れた叔父さん——互いに信頼し、支え合う心を忘れずに歩むこと。それが、何よりも大切なのだと。


――そして、アリアの心の中でそっと思った。


「あんなふうに、叔父上が穏やかに笑っているのを見たのは……いつぶりだろう。どうか、その笑顔のそばにいる人が、叔父上を優しく包んでくれますように。

春の陽だまりみたいな人なら――きっと、叔父上も幸せね」


焚き火の炎が揺れ、砂漠の夜空に遠く王都の光が重なる。

二つの世界を結ぶ、見えない糸のように。


――それは、ほんの一夜の閑話。

だが確かに、誰かを想う温度が残る、静かな夜の出来事だった




ーーー閑話:番外編003完


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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