257話 影の覚醒 - 砂に響く誓い -
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夜明け前の空が、白く滲んでいた。
砂漠の地平線が静かに息をし、薄紅の光が、夜の名残を押し流していく。
モルンはうずくまっていた。
影が背から溢れ、黒い霧のように地を這っている。
その体の奥底で、何かが軋み、うなり、形を変えようとしていた。
ルクスが眉をひそめ、低く呟く。
「……影循環の制御が、限界に近い」
アリアは駆け寄り、彼の頬を撫でるように光を集めた。
「モルン……! もうやめよう、無理をしたら――」
だが、返ってきたのは強い意志の念話だった。
『まだ……終わっていない』
その声は震えていた。
痛みにも似た覚悟が、響きの奥にあった。
モルンの影が地面に広がる。
砂が低く唸り、熱を帯びる。
次の瞬間、闇が砂丘を覆った。
「来るぞ!」
マコトが剣を抜き、エリオットが防御結界を展開する。
ユリウスが杖を掲げ、術式を唱えた。
モルンの影が暴走した。
砂の海が裂け、暗黒の波が奔流のように広がる。
アリアたちはその中で必死に耐えた。
「モルン! やめて、あなたが壊れてしまう!」
アリアの声が、闇の中を貫いた。
それでも、モルンの影は止まらない。
影が螺旋を描き、空へと伸びる。
まるで――空の“門”を求めるように。
ルクスが歯を食いしばる。
「彼の力が……何かを呼び覚ましている。だが、このままでは――」
アリアは一歩、闇の中へ踏み込んだ。
体を包む砂が熱く焼ける。
それでも進む。
彼女の胸の奥に、確かな声が響いていた。
——モルンを、ひとりにはしない。
アリアはモルンの前までたどり着き、その大きな手を取った。
熱い。まるで炎のように、彼の体が燃えている。
「聞いて、モルン。
あなたは“門”を護る者だとしても、背負うのはひとりじゃない。
だからこそ、一緒に歩むの――これからも」
モルンの体が一瞬びくりと震えた。
闇の奔流が、少しずつ収束していく。
その中で、彼の瞳に微かな光が宿る。
『……一緒に』
念話が、やっと穏やかに響いた。
アリアは微笑む。
「うん。一緒に」
影が静かに沈む。
モルンの息が荒く乱れ、砂に膝をついた。
アリアはその体を支え、光で包み込む。
「もう大丈夫……落ち着いて」
その時だった。
千里鏡が淡く光り、ケイの声が響く。
『アリア、聞こえるか。――それが、モルンの試練だ』
「試練……?」
アリアが顔を上げる。
ケイの声は低く、しかし確信に満ちていた。
『“影の循環”は、古の竜に与えられた特別な力。
制御できぬままでは己を蝕むが、越えれば真なる“門の守護者”となる。
これは彼の魂が選んだ通過儀礼だ。助けてやれ。』
アリアは頷いた。
「わかってる。彼はもう、ひとりじゃない」
ケイの映像が消える。
代わりに、イリスの体が淡く光った。
虹色の光が砂の上に滴り、ゆらめく輪を描く。
「……これは?」
ユリウスが息を呑む。
光の中に、古代の紋章のような模様が浮かび上がった。
砂の向こう、蜃気楼のように淡い“門”が見える。
まるで、遥か昔の記憶が呼び起こされたかのように――。
アリアはイリスを見下ろし、静かに問いかける。
「イリス……あれは、あなたの記憶?」
「ぽよん」
イリスが小さく震えた。
その体の中心で、星霊の光が瞬く。
“門を護る者”――それは、イリスの過去であり、モルンの未来でもあるのだ。
砂漠に風が吹く。
夜の残滓を吹き飛ばすように、凛とした冷たい風。
アリアはその風の中でモルンの頭を撫でた。
「大丈夫。もう、迷わないで」
モルンはわずかに顔を上げ、念話を送る。
『……歩む。一緒に』
アリアは微笑んだ。
その瞳の奥には、確かな誓いの光があった。
遠くの砂丘の向こうで、“門”の幻影が揺らめく。
光は淡く、儚く、けれど確かに存在していた。
それは、これから訪れる“覚醒”の前触れ。
まだ夜は完全に明けていない。
けれど――彼らの旅路の先に、確かに新しい朝が待っていた。
―――258話へ続く
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




