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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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257話 影の覚醒 - 砂に響く誓い -

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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 夜明け前の空が、白く滲んでいた。

 砂漠の地平線が静かに息をし、薄紅の光が、夜の名残を押し流していく。


 モルンはうずくまっていた。

 影が背から溢れ、黒い霧のように地を這っている。

 その体の奥底で、何かが軋み、うなり、形を変えようとしていた。


 ルクスが眉をひそめ、低く呟く。


「……影循環の制御が、限界に近い」


 アリアは駆け寄り、彼の頬を撫でるように光を集めた。


「モルン……! もうやめよう、無理をしたら――」


 だが、返ってきたのは強い意志の念話だった。


 『まだ……終わっていない』


 その声は震えていた。

 痛みにも似た覚悟が、響きの奥にあった。



 モルンの影が地面に広がる。

 砂が低く唸り、熱を帯びる。

 次の瞬間、闇が砂丘を覆った。



「来るぞ!」


 マコトが剣を抜き、エリオットが防御結界を展開する。

 ユリウスが杖を掲げ、術式を唱えた。


 モルンの影が暴走した。

 砂の海が裂け、暗黒の波が奔流のように広がる。

 アリアたちはその中で必死に耐えた。


「モルン! やめて、あなたが壊れてしまう!」


 アリアの声が、闇の中を貫いた。

 それでも、モルンの影は止まらない。

 影が螺旋を描き、空へと伸びる。

 まるで――空の“門”を求めるように。


 ルクスが歯を食いしばる。


「彼の力が……何かを呼び覚ましている。だが、このままでは――」



 アリアは一歩、闇の中へ踏み込んだ。

 体を包む砂が熱く焼ける。

 それでも進む。

 彼女の胸の奥に、確かな声が響いていた。


 ——モルンを、ひとりにはしない。


 アリアはモルンの前までたどり着き、その大きな手を取った。

 熱い。まるで炎のように、彼の体が燃えている。


「聞いて、モルン。

 あなたは“門”を護る者だとしても、背負うのはひとりじゃない。

 だからこそ、一緒に歩むの――これからも」


 モルンの体が一瞬びくりと震えた。

 闇の奔流が、少しずつ収束していく。

 その中で、彼の瞳に微かな光が宿る。


『……一緒に』


 念話が、やっと穏やかに響いた。


 アリアは微笑む。


「うん。一緒に」


 影が静かに沈む。

 モルンの息が荒く乱れ、砂に膝をついた。

 アリアはその体を支え、光で包み込む。


「もう大丈夫……落ち着いて」


 その時だった。

 千里鏡が淡く光り、ケイの声が響く。


『アリア、聞こえるか。――それが、モルンの試練だ』


「試練……?」


 アリアが顔を上げる。


 ケイの声は低く、しかし確信に満ちていた。


『“影の循環”は、古の竜に与えられた特別な力。

 制御できぬままでは己を蝕むが、越えれば真なる“門の守護者”となる。

 これは彼の魂が選んだ通過儀礼だ。助けてやれ。』


 アリアは頷いた。


「わかってる。彼はもう、ひとりじゃない」


 ケイの映像が消える。

 代わりに、イリスの体が淡く光った。

 虹色の光が砂の上に滴り、ゆらめく輪を描く。



「……これは?」


 ユリウスが息を呑む。


 光の中に、古代の紋章のような模様が浮かび上がった。

 砂の向こう、蜃気楼のように淡い“門”が見える。

 まるで、遥か昔の記憶が呼び起こされたかのように――。


 アリアはイリスを見下ろし、静かに問いかける。


「イリス……あれは、あなたの記憶?」


 「ぽよん」


 イリスが小さく震えた。

 その体の中心で、星霊の光が瞬く。



 “門を護る者”――それは、イリスの過去であり、モルンの未来でもあるのだ。



 砂漠に風が吹く。

 夜の残滓を吹き飛ばすように、凛とした冷たい風。

 アリアはその風の中でモルンの頭を撫でた。


「大丈夫。もう、迷わないで」


 モルンはわずかに顔を上げ、念話を送る。


『……歩む。一緒に』



 アリアは微笑んだ。

 その瞳の奥には、確かな誓いの光があった。



 遠くの砂丘の向こうで、“門”の幻影が揺らめく。

 光は淡く、儚く、けれど確かに存在していた。



 それは、これから訪れる“覚醒”の前触れ。



 まだ夜は完全に明けていない。

 けれど――彼らの旅路の先に、確かに新しい朝が待っていた。





―――258話へ続く





※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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