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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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256話 影の先へ - 絆と試練の始まり

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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朝靄が砂丘を包む。まだ薄明の空の下、砂の大地は淡く銀色に輝いていた。

焚き火の残り香と冷えた風が、一行の疲れた体を優しく撫でる。


モルンは背を丸め、前足に巻かれた包帯の上でじっと影を巡らせていた。

小刻みに震えるその体からは、まだ制御しきれない力の気配が漂う。


『動ける』


その念話が、風のように心に響いた。


ルクスが視線を向け、低く翻訳する。


「動ける、と言っている。影循環の感覚が戻ってきたようだ」


アリアはそっと近づき、モルンの背に手を添える。


「無理はしないでね、モルン。焦らなくてもいい」


モルンは軽く「ふっ」と鼻を鳴らし、短く念話を返す。


『試したい』


ルクスが頷きながら言葉を足した。


「どうやら、試してみたいようだな」




砂漠の彼方、小さく動く人影。遠くから見ると、砂の中に消え入りそうなほど小さい。

マコトが鋭く視線を向ける。


「…人だ。助けが必要そうだ」


エリオットも杖を手に立ち上がる。


「砂嵐の残影に取り残された者かもしれない」


モルンがゆっくりと前足を差し出し、砂に影を這わせる。


『行く』


ルクスが翻訳する。


「行く、と。彼らを助けるために向かうということだ」



影が砂を裂くように伸び、モルンの体が滑る。

影循環——それは彼だけが持つ特殊な能力で、影を操り移動する術。

しかし完全な制御はまだ難しく、試すには危険も伴う。


砂丘を駆け抜ける。影の流れに乗ったモルンが、素早く人影へ近づく。

その背後でルクスは静かに言う。


「影循環の安定化…成功すれば、彼の役割はさらに広がるだろう」



辿り着いた先には、砂に埋もれかけた小さな一団がいた。

旅人だろうか、命を削って砂漠を渡ってきた様子が見て取れる。

アリアは息を呑む。


「生きていてくれてよかった…!」


モルンは念話で短く言う。


『助ける』


ルクスがすぐに通訳する。


「彼らを助ける、と」




一行は急ぎ支援に入る。

シュウが負傷者のもとへ駆け寄り、簡易包帯と手技で応急処置を施す。


「大丈夫、痛みを和らげる。落ち着いて」


と、手際よく傷口を抑え、治療を進める。



アリアは両手をかざし、穏やかな光を広げる。

その範囲内の傷や疲労がゆっくりと和らぎ、仲間の息遣いが軽くなる。


「エリアヒールよ。休める者は休んで」


と微笑む。




軽症者は焚き火の傍で休養を取り、重傷者はシュウが丁寧に手当てする。

その間、モルンは影を巡らせ、警戒を続ける。


救助が落ち着くと、アリアはシュウに視線を向ける。


「ありがとう、シュウ。あなたの治療のおかげでみんな助かった」


シュウは少し照れたように微笑む。


「自然なことだ。医者として当たり前のことだよ」




夕刻、一行は砂丘の休息地へ戻る。焚き火を囲み、静かな時間が流れる。

モルンは包帯を直し、影をゆっくり巡らせる。


アリアはルクスに問いかける。


「モルンは…もう完全に制御できるの?」


ルクスは首を振る。


「まだ不安定だ。だが確実に進歩している。あの動きは、恐怖と同時に希望を伴っていた」


そのとき、モルンが念話で語りかける。


『使命…思い出す』


ルクスが静かに通訳した。


「彼は使命を思い出しつつあるようだ」


アリアは驚きと共にモルンを見つめる。


「使命…?」


モルンはゆらりと影を揺らし、低く念話を返した。


『守る…門』


ルクスがその言葉を翻訳し、皆の胸に静かな波紋が広がる。


「“門”……それが彼の願いなのかもしれない」




夜、アリアは千里鏡を取り出す。

光の中に、ケイと王都の顔が浮かぶ。


「アリア。古代スライムの伝承…そして砂漠の秘密だ。詳しくは今夜話す」


ケイの声が伝わる。


その瞬間、イリスが微かに震え、体の中心に青白い光を宿した。

『再び門を護る時』——それは念話と星霊の囁きが混ざり合ったような言葉だった。


焚き火の灯が消えゆく頃、一行はそれぞれの思いを抱きながら静かに夜を過ごした。

星空の下、試練は確かに始まっていた。





ーーー257話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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