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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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254話 仲間の傷と支え - 出会いの約束

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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砂漠の夕暮れは、静寂の中に熱の余韻を残していた。

橙と茜が溶け合う空の下、砂粒は風に踊り、遠くでは崩れかけた岩山が影絵のように浮かんでいる。


アリアたちは、先ほどまで続いた砂嵐のあとを慎重に歩いていた。

モルンの脚にはまだ痛みが残っている。エリオットは黙々と治癒の結界を重ね、シュウは薬草を潰して包帯に塗りこむ。

砂に膝をつくたび、彼らの呼吸が白くほどけていく。


「無理はしないで。少しでも痛んだら止まって」


アリアは声をかけながら、モルンの肩を支えた。

その掌に伝わる熱と震えが、仲間の苦しみを物語っていた。


「……絶対に、一人に背負わせない」


胸の奥で静かに誓う。


そのとき、アリアの腰のポーチが淡く光を放った。


「……千里鏡?」


取り出すと、鏡面が波打ち、柔らかな光が走る。

指先で触れると、映し出されたのはアイとキキの姿だった。


「アリアちゃん!」


アイが微笑む。その背後には――砂嵐の名残が見えた。

アリアは思わず息をのむ。


「……その背景……もしかして、近くにいるの?」


「ええ、たぶんね」


アイは笑いながら答えた。


「さっきの嵐をやり過ごしてたら、どうも風向きが同じだったみたい。距離はそう離れてないわ」


キキが頷く。


「私たちも、北の岩場の陰に避難してたの。お母さんが、アリアさんたちの気配が近いって」


アリアは少し目を見開く。

千里鏡を介しても、互いの位置を察知できる――その不思議さが、もう日常になっていた。


「危険はまだ残ってる。直接動くのは危ないかもしれないけど……」


そう言いながらも、アリアの声には迷いがなかった。


「でも、せっかくだし。落ち合いましょう。安全な場所で」


アイは短く笑い、頷く。


「いいわね。こっちは北東の岩場の奥。古い碑が目印になってる。日が落ちる前に行くわ」


「分かった。気をつけて」


千里鏡が静かに光を閉じ、砂漠に再び風の音だけが戻る。





──数時間後。


夕闇が濃くなる頃、岩陰の窪地にアリアたちは到着していた。

風が和らぎ、砂塵の流れも落ち着いている。焚き火を囲みながら、仲間たちはようやく息を整えた。


やがて、風の向こうから軽やかな足音と声が近づく。


「アリアちゃん、こっちよ!」


砂煙の向こうから、アイとキキが現れた。

肩には小さな袋をいくつも下げ、背中には水筒や皮袋が揺れている。


「大丈夫だった?」


アリアが駆け寄る。


「ええ、なんとかね。こっちは砂嵐で足止めされてただけよ」


アイは息をつき、荷物をどさりと下ろす。


「食料と水を少し持ってきたの。保存できる乾燥果実と、オアシスの水を汲んできたわ。あなたたち、かなり消耗してるでしょう?」


キキが微笑んで、皮袋を差し出した。


「これ、冷たいですよ。途中で氷の結晶を見つけたので、少しだけ混ぜてきました」


「……ありがとう。本当に助かるわ」


アリアは受け取った水袋を仲間たちに渡しながら、胸の奥に温かいものが広がるのを感じた。


シュウが小声で呟く。


「持ち歩くだけでも重かっただろうに……」


アイは笑って肩をすくめる。


「旅人同士、助け合いってやつよ。持てる時に持つ。それが砂漠で生きるコツ」


アリアは少し考え、腰のポーチから包みを取り出した。

砂漠の遺跡で見つけた小さな鉱石。淡い青の輝きを放つ。


「これ、ささやかだけど。代わりに受け取って。旅をしながら公演しているなら、換金しやすいと思うの」


アイは驚いたように眉を上げたが、すぐに静かに頷いた。


「気持ちはありがたく受け取るわ。こういうの、町に持っていけばいい値になるもの」


キキが両手で包みを受け取り、嬉しそうに微笑む。


「これ、きれい……光の加減で色が変わるんですね」


「そう。遺跡の奥にあった鉱物。浄化の力を持つって言われてる」


アリアの言葉に、アイは感慨深げに目を細めた。


「あなたたちの旅は、やっぱり普通じゃないわね」


アリアは照れくさそうに笑った。


「でも、同じ。私たちも生きていくために進んでるだけ」


焚き火がぱちりと弾け、火の粉が夜風に舞う。

エリオットが手をかざし、火の勢いを調節する。その横で、ルクスが穏やかに言葉を添えた。


「与え、受け取る。巡る縁こそが旅の糧であるな」


「ほんと、それね」


アイが笑い、皮袋の口を締め直した。


「情報も少し持ってきたわ。古代の歌に“虹の守り手”の名が出てくるって話。どうも砂漠の南方で見つかった碑文にも同じ言葉が刻まれてるらしいの」


アリアが息をのむ。


「……虹の守り手。まるで――イリスのようね」


キキが小さく頷く。


「また何か分かったら、千里鏡で知らせます。お母さん、きっとすぐ調べちゃうから」


アイが笑いながらキキの肩を軽く叩く。


「ええ、任せなさい。砂の都まで出たら文献も当たってみるつもりよ」


アリアは深く頷き、二人の手を取った。


「ありがとう。あなたたちがいてくれるだけで、心強い」


砂漠の夜がゆっくりと広がる。

焚き火の光が皆の顔を照らし、砂の上に淡い影を落とした。

その影が交わり、重なり合って――やがて、ひとつの絆の形になる。






ーーー255話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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