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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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251話 影循環の試み - 砂漠の息と鼓動

今日はちょっと長めのボリュームです。



✪読んでくださり、ありがとうございます。

★評価(←これが一番嬉しいです!)•リアクション(絵文字)・ブックマークしていただけると、ランキングに反映され、作者の励みになります♪


 夜明け前の砂漠は、息を潜めていた。

 昼の灼熱が嘘のように冷えこみ、砂の粒は青白く光を返す。

 風が一筋、モルンの体を撫でた。黒い影が重なる体がわずかに波打ち、胸の紋様が脈打つように光を放つ。


 ――影が、うずく。


 モルンは低く唸り声をあげた。痛みとも、違う。けれど胸の奥で何かが動いている。

 成長痛、とアリアは呼んだ。けれどそれはただの成長ではなく、別の存在に引きずられるような“変化”だった。


「モルン、無理しないで」


 アリアが駆け寄り、彼の肩に触れる。掌の下で、影の体が震えていた。

 モルンは首を振り、影の重なる腕を伸ばして“だいじょうぶ”と示す。

 けれどその影の動きも、どこか不安定だった。


 少し離れたところで、イリスが「ぽよん」と跳ねた。

 虹色の体が月光を受けて揺れる。


『もるん、いたいの? ……がんばれ……』


 小さな声。けれどその一言に、場の空気が少し柔らかくなる。


 エリオットが杖を軽く地に突き、空気を感じ取るように目を閉じた。


「魔力の流れが乱れている。……影が、自分の内側で循環しようとしているんだ」

「循環……」


 アリアがその言葉を繰り返す。


 影循環――それは、モルンが先の戦いで初めて見せた現象。怨念を吸い込み、無力化する不思議な力。だがまだ完全ではなく、彼の体をむしばんでいるようにも見えた。


 マコトが短く息を吐いた。


「しばらく歩みを止めよう。夜明け前の冷気が、痛みを増してる」

「賛成だ。焦るより、今は整える方がいい」


 ユリウスも頷き、警戒の視線を周囲に走らせる。

 ルクスは小さな砂の渦を作りながら、遠くを見つめていた。


「……この先に、風の祈祷所の跡がある。砂に埋もれた神殿跡だ。休むなら、そこで」




 *


 少し歩くと、風に削られた柱が現れた。

 かつて祈りの場所だったらしいそこは、今では砂の丘に半ば呑まれ、静かな空気に包まれている。

 アリアたちは焚き火を起こし、わずかな光で温を取った。


 モルンは影の体を少し丸めて座る。

 その胸の紋様が、かすかに明滅していた。

 まるで何かを求めるように。


「……ねえ、ケイに相談してみようか」


 アリアが呟くと、仲間たちは顔を上げた。


「千里鏡、だな?」


とマコト。


 アリアは頷いて、腰の袋から小さな丸い鏡を取り出した。掌に収まるサイズの、銀のコンパクト。

 古びた細工が刻まれ、中央の鏡面が月のように淡く光る。


 アリアは深呼吸し、そっと鏡の表面に指先を置いた。

 思い浮かべるのは――砂漠の外れで医療奉仕を続ける青年、ケイの穏やかな笑顔。


「……ケイ、聞こえる?」


 鏡の面が波打ち、光が揺れる。やがてそこに、彼の姿が映った。


『アリア? 夜中だね……どうした?』

「モルンのこと。影循環の力が、少しずつ強まってるの。でも、痛みもひどくて……」


 ケイはしばし黙って、モルンの方へ目を向けた。


『ああ……成長の過程で、魔力の流れが歪んでる。無理に抑えようとすると、逆に負担になるよ』

「どうすれば……?」

『“支える”んだ。彼が自分で循環を整えるのを、外から少しだけ助ける。

 アリア、君たちの魔力はもう繋がっている。焦らずに、呼吸を合わせて』


 その声は、砂漠の夜に優しく染みた。

 アリアは鏡を閉じ、そっと息を吐いた。


「……みんなで、モルンを支えよう」




 *


 焚き火の周りに、仲間たちが集まった。

 イリスがアリアの膝に「ぽよん」と乗り、プエルがその隣で丸まる。

 エリオットが静かに呪文を唱えると、空気が少し柔らかく揺れた。


「魔力の流れを安定させる結界を。みんな、呼吸を合わせて」


 マコトが短く息を吐き、ルクスが目を閉じて風を導く。ユリウスも剣を脇に置き、静かに手を組んだ。


 アリアはモルンの背に掌を置いた。

 影の体は冷たく、でもその奥には確かな鼓動があった。


「……聞こえる? 私たちはここにいるよ」


 その声に、モルンの影がわずかに震える。

 ゆっくりと、黒い紋様が脈動を始めた。

 吸い込むように空気が揺れ、砂の上に淡い光の輪が広がっていく。


『……モルン、だいじょうぶ。アリアたち、いっしょ。』  


イリスの声は、まるで子守唄のようだった。

 プエルが手を伸ばし、イリスの体に触れる。


『ほら、あったかい。モルンも、ぽかぽかになるよ!』


 その瞬間――影の循環が静かに整い始めた。

 痛みに歪んでいたモルンの呼吸が、次第に穏やかになる。

 光と影が交わり、彼の体の内側で均衡が生まれた。


 エリオットが目を開く。


「……成功だ。魔力の流れが落ち着いた」

 マコトが安堵の息を漏らす。


「やれやれ、焦ったぜ。こいつ、まるで爆ぜそうだったからな」


 アリアはモルンの頭を撫で、そっと微笑んだ。


「ありがとう、みんな。モルン……よく頑張ったね」


 モルンは低く喉を鳴らし、影の尾をゆるりと揺らした。

 “ありがとう”という言葉を、影で伝えるように。


 ルクスが火を見つめながら言った。


「影循環……それは彼だけの力。でも、僕たちの想いがあってこそ、形になる」

「ええ」


 アリアは空を見上げた。


 群青が薄れ、東の空が少しずつ白み始めている。


 夜が明ける。

 新しい一日が、また始まる。




 *


 焚き火の炎が消えかけたころ、千里鏡が淡く光った。

 アリアが取り上げると、鏡面に短い文字が浮かんでいた。


 ――『無理をせずに。皆で進め。それが力になる。』


 ケイの手書きのメッセージだ。

 アリアは小さく笑って、指先で“ありがとう”と返した。


 砂漠の向こうには、まだ見ぬ光がある。

 怨念が潜み、試練が待ち構えている。

 けれどアリアたちはもう、迷わない。

 誰か一人の力ではなく、みんなの絆で進む。


 夜明けの風が吹き抜け、砂粒がきらめく。

 イリスがその光の中で「ぴかっ」と輝いた。


『いく? あさだよ!』


 その声に、みんなが笑った。

 モルンもゆっくりと立ち上がり、影を広げて朝日を受ける。

 その影はもう、痛みに歪むものではなく――

 新しい力として、仲間を包み込むように広がっていた。





ーーー252話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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