250話 小隊包囲突破 - 影循環の芽生え
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砂漠の夜明け前、空はまだ深い群青に包まれていた。
遠く、砂丘の向こうに小さな光が揺れる。敵のたいまつだ。
「……来たな」
マコトが剣に手をかける。
低く息を吐き、闘志を整える横顔には迷いがない。
ルクスが砂に掌をかざすと、風が巻き起こり、砂粒がささやくように流れた。
「四方から包囲されつつある。おそらく二十はいるな」
アリアは仲間の顔を見渡した。夜明けまで持ちこたえれば進路は開けるが、このままでは挟み撃ちだ。
「……突破するしかない。分散して隙を作り、一気に抜けよう」
短い指示に、皆が頷いた。
プエルが少し身を乗り出し、小さく手を挙げる。
『わたし、おとりになる! ちっちゃいから、はやく走れるよ』
「プエル……」
アリアが思わず声を強めるが、ルクスが静かに言葉を継ぐ。
「君の役割は大きい。無茶はさせない。イリスと一緒に動けば、きっと隙を作れる」
イリスは「ぽよん」と跳ねて応える。
『プエル、いっしょ! ぴかぴかで、めくらましする!』
その無邪気な声が、不安を少し溶かした。
エリオットが長杖を掲げ、結界を張る。淡い光が仲間を包み、守護の力が温かく広がった。
「まずはこれで安全を確保する。突破口が開けたら、俺が後衛を守る」
ユリウスは剣を腰に構え、冷たい目を細めた。
「怨念の核に近づくほど、敵は狂暴になる。……俺が先頭で切り開こう」
『待て』
低い唸り声が聞こえた。モルンだった。
彼は前に出て、大きな影の体を砂上に構える。胸を押さえる仕草をしながらも、はっきりと示す
――『自分が前衛になる』と。
アリアは唇を噛む。
「モルン、あなた……痛みがあるでしょう?」
だがモルンは動じず、ゆっくりと首を横に振った。その瞳は、迷いなく仲間を守ろうとしていた。
その姿に、シュウが前へ歩み出た。
「……無理はさせない。傷が深くならないよう、すぐに手当てする」
彼は母の形見のペンダントに触れ、光を手に宿した。
短い沈黙ののち、アリアは深く息を吸った。
「……分かった。みんなでフォローする。絶対に、一人に背負わせない」
そして戦いが始まった。
*
砂が崩れ、敵兵が一斉に押し寄せてきた。
ルクスが風を操り、砂を巻き上げて視界を遮る。イリスがそこに光を散らすと、煌めく砂壁が現れ、敵は一瞬足を止めた。
「今よ!」
アリアが声を放つ。
プエルが素早く駆け出し、小さな影がひらりと舞う。敵兵が視線を奪われた刹那、イリスが「ぴかっ」と閃光を放ち、さらに混乱が広がった。
モルンは前衛で突進する。痛みに体を震わせながらも、巨体を盾のように構え、仲間に迫る刃を弾き返す。
ユリウスがその隙を逃さず剣を振るい、敵を次々と退けた。
後衛ではエリオットが結界を張り直し、矢や飛び道具を受け止める。
「突破口を開け! 俺が守る!」
マコトは剣を振り抜き、敵の攻撃を切り払いながら仲間の背を守った。
「この程度……足止めにもならない!」
仲間の連携で、包囲の一角に亀裂が生じる。
だがその瞬間、モルンの背の紋様が強く輝いた。
黒い紋様は脈動し、敵の怨念を吸い込むように震えている。
「……なにこれ?」
プエルが驚きの声をあげた。
ルクスが目を細める。
「影が……循環している?」
モルン自身も戸惑ったように両前足を胸に交差させ、影を伸ばすような仕草をした。
――『変わった』と。
瞬間、押し寄せる敵兵の怨念が吸い取られ、刃の勢いが鈍った。
それはまだ不完全だが、確かに「影循環」の兆しだった。
「モルン……!」
アリアが声をあげる。
敵が怯んだ隙に、仲間は一気に駆け抜けた。砂を蹴り、包囲を破り、夜明けの光が差し込む方角へ。
*
戦いが収束すると、モルンはその場に膝をついた。体は震え、呼吸は荒い。
シュウが駆け寄り、ペンダントに触れて治癒を施す。光がモルンの紋様を包み、脈動は徐々に鎮まっていった。
「……危険な力だ。でも、確かに成長してる」
マコトが剣を背に収めながら言う。
「砂漠を抜けるまで、モルンはまだ試練の真っただ中だな」
アリアはモルンの頭を優しく撫でた。
「ええ。でも、確かに前へ進んでる」
エリオットが杖を地に突き、空を見上げる。
「夜明けまであと少しだ。進もう。砂漠交易の拠点が近い」
背後にはまだ、怨念の気配が追いすがっている。
それでも一行は、共に歩みを進めた。
新しい力と、仲間の絆を携えて。
ーーー251話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




