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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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248話 敵中枢の怨念核 - 竜核の反応

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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 敵陣は、まるで空気そのものが淀んでいるように重く、息を吸うだけで胸がざらつく感覚があった。昼間の熱はすでに収まっているはずなのに、漂う瘴気が体温を奪い、逆に皮膚の内側をじりじりと焦がす。砂の匂いに混じって、血と錆の臭いが鼻腔を刺した。


 一行は自然と歩調をそろえ、互いの背を守るように進んでいた。足音さえも警戒の一部に変わり、誰も軽口を叩こうとしない。


 そのとき、ユリウスがぴたりと足を止めた。肩が細かく震え、長い睫毛の影が伏せられる。


「……脈動している」


 低く押し殺した声が夜気に溶ける。


「敵の指揮官が持つ宝玉……あれはただの装飾ではない。怨念の核、鼓動を持つ器だ」


 彼の言葉に、全員の視線が一斉に向けられた。ユリウスの指先は小刻みに震え、まるで見えない鎖に絡め取られているかのようだ。長年、怨念に縛られ、そこからようやく抜け出した彼だからこそ感じ取れるものなのだろう。


 イリスが不安げに首をかしげ、声を投げかける。


「だいじょうぶ? こわいの?」


 その幼い問いかけに、ユリウスはわずかに口元を緩めた。


「……怖い、というより懐かしい感覚だ。忌まわしいほどに、ね」


 彼の視線の先、モルンの体表に黒く細かい紋様が浮かび上がっていた。微かな光を帯び、震えている。


「……モルン?」


アリアが呼びかける。


 モルンは苦しげに荒く息をつき、前足で胸を押さえた。その首を低く垂れ、体をふるりと震わせる。


――『まだ大丈夫。でも、限界が近い』


 言葉を持たぬ彼の意思は、ジェスチャーだけで十分に伝わった。


「怨念核が、竜核に干渉しているのかもしれない」


ルクスが冷静に分析する。


「反応が強い……放置すれば危険だ」


「モルン……」


イリスが目を潤ませる。


『モルン、いたいの? 痛いの嫌だよ……』


 プエルも念話で重ねる。


『無理はしないで。わたしたち、がんばるから』


 そのやり取りを聞きながら、エリオットが肩をすくめる。


「頑張るって簡単に言うけどなあ……。ま、こうして見てるしかないのか」


 だが彼の声音はあえて軽く、場を少しでも和ませようとしているのが分かった。


 モルンがぐらりと体勢を崩しかけた瞬間、シュウが駆け寄った。


「動かないで」


 短く告げると、両手を紋様にかざす。掌から淡い光が滲み、痛みを和らげる治癒の力が流れ込む。


「怨念に反応して筋繊維が硬直してる。医学的に言えば痙攣に近い。今は抑えることしかできないけど……少しは楽になるはずだ」


 モルンの体表の紋様が、淡く輝きを増す。呼吸が徐々に落ち着き、苦しげだった目が少し柔らかく細められた。


「……ありがとう、シュウ」


アリアが小さく微笑む。


「礼はいい。これからが本番だ」


シュウは短く返し、手を離した。


 ルクスが周囲を見回し、声を落とす。


「戦闘を重ねるごとに、モルンの竜核は確実に形を成している。だが同時に、怨念核が呼応しているのも事実だ。無関係じゃいられない」


 マコトが剣を抜き、硬い表情で言う。


「……なら、あの核を破壊するしかないな」


「でも、それは簡単じゃないはず」


アリアが首を振る。


「敵の指揮官が握るほどの宝玉よ。ただの装飾ではなく、戦局を左右する切り札かもしれない」


 重苦しい空気が再び広がる。だがその中で、イリスが小さく声を上げた。


『みんながいるから、だいじょうぶ。モルンも、ユリウスも。ね?』


 その幼い言葉は、張り詰めた糸をふっと緩める。


 ユリウスが小さく笑い、モルンの背を撫でる仕草をした。


「そうだな。……怨念に囚われ続ける必要は、もうない」


 モルンは低く唸り、影の体をふるわせる。瞳には確かな決意が宿っていた。


 戦いはまだ終わらない。けれど、この仲間と共に進む限り――乗り越えられる。


 砂を踏みしめ、一行はさらに奥へと進み出した。






ーーー249話へつづく




※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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