247話 砂丘の谷間での待ち伏せ - 消耗と兆し
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砂丘の谷間は、陽炎のように揺れていた。遠くで砂が細かく舞い、乾いた風が波のように流れる。光がちらちらと踊り、足元の砂が柔らかく変化する。
「……攻撃されやすい地形だな」
マコトが足を止め、低く呟く。
彼の視線は砂丘の向こうに続く陰影をじっと追っている。
「足場と視界を奪う場所。敵が活用しないはずがない」
ルクスも前方を見据えながら、静かに言った。声には緊張はない。だが、その静けさが余計に重く感じられる。
アリアは足元の砂を見つめ、そっと立ち止まる。指先で砂を軽く払うと、手のひらに小さな粒が残った。
「……足跡が消える前に、気づくべきだったのかもしれない」
彼女の声は風に吸われ、ほとんど届かない。だがその言葉には、仲間への思いと少しの責任感が混じっていた。
ルクスは眉を寄せ、少し前のめりになる。
「……敵は罠を用意してるな。砂丘の谷間だ。足跡を消して、誘い込むつもりだ」
「うん……やっぱり」
アリアも小さく頷く。
プエルは言葉を発せず、深く息を吐いた。戦場の前触れのように、空気が張り詰める。
砂丘の上方で、突然、砂が崩れ落ちる。
「来た……!」
プエルが叫び、身構える。
乾いた音が谷間に響き渡り、続いて砂煙が立ち上る。盗賊の群れと、怨念に囚われた戦士たちが姿を現した。彼らの瞳は濁り、意志ではなく怨念に導かれているようだった。
「前衛はモルン!」
アリアが声を張る。
モルンは応えるようにぴょんと跳ね、体を膨らませた。瞬間、細く震える呼吸が漏れる。
マコトの眉が少し寄る。
「……動きが鈍い。成長痛か?」
ルクスがそっとアリアに念話で囁く。
(モルン、成長痛だ。竜核が整いかけている。力を出すたび深い痛みが走る)
アリアが振り返ると、ルクスの視線はモルンから離れない。彼の声が再び念話になる。
(モルン、無理はするなよ)
すると、モルンが低く呻く。胸を前足で押さえながら、首を小さく振る。
(……まだ行ける)
──念話が直接ルクスに届く。
ルクスは少し眉をひそめ、そっとモルンに返す。
(…消耗は激しいはず。温存すべきだ)
モルンはゆっくり首を振り、目を閉じる。
(……今度こそ必ず守らなければならない。ルクスも知っているはずだ)
その瞬間、ルクスの表情が柔らかく変わる。彼はモルンの視線を受け止め、短く頷いた。
(……わかっている。でも、君を一人にはさせない)
モルンはそれに応えるように僅かに背を伸ばす。ふたりの間に、言葉以上の信頼が流れる。
──戦場のざわめきの中で、その念話だけが静かに交わされ、二人の絆を深めていた。
アリアはその様子に気づく。杖を握る手に力がこもる。
「ルクス……ありがとう」
ルクスは微かに微笑んだ。
「当然だ。君が気づかなくても、わたしが気づけばいい」
シュウはモルンの動きを見て呟く。
「成長痛だな」
「うん……少し休もう」
アリアはそう言い、シュウの傍へ進む。
モルンは低く咆哮し、震える翼で再び前に進む。砂丘の谷間に、仲間たちの決意が重なった。
砂が舞い、陽炎が揺れる中、戦場は静かな覚悟に包まれていった。
砂丘の谷間に静寂が戻る。砂埃がゆっくりと舞い上がり、戦いの痕跡を覆い隠す。仲間たちは呼吸を整え、互いの背を確かめ合った。
アリアは遠くの砂丘の頂きを見上げる。そこにはまだ、影のように動く者たちの気配。
胸の奥で──モルンの背に浮かんだ微かな竜核の紋様が、静かに脈打っている。
──誰もまだ知らない未来のために。
砂丘は再び静けさに包まれた。
ーーー248話へつづく
※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




