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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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247話 砂丘の谷間での待ち伏せ - 消耗と兆し

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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砂丘の谷間は、陽炎のように揺れていた。遠くで砂が細かく舞い、乾いた風が波のように流れる。光がちらちらと踊り、足元の砂が柔らかく変化する。


「……攻撃されやすい地形だな」


マコトが足を止め、低く呟く。

彼の視線は砂丘の向こうに続く陰影をじっと追っている。


「足場と視界を奪う場所。敵が活用しないはずがない」


ルクスも前方を見据えながら、静かに言った。声には緊張はない。だが、その静けさが余計に重く感じられる。


アリアは足元の砂を見つめ、そっと立ち止まる。指先で砂を軽く払うと、手のひらに小さな粒が残った。


「……足跡が消える前に、気づくべきだったのかもしれない」


彼女の声は風に吸われ、ほとんど届かない。だがその言葉には、仲間への思いと少しの責任感が混じっていた。



ルクスは眉を寄せ、少し前のめりになる。


「……敵は罠を用意してるな。砂丘の谷間だ。足跡を消して、誘い込むつもりだ」


「うん……やっぱり」


アリアも小さく頷く。

プエルは言葉を発せず、深く息を吐いた。戦場の前触れのように、空気が張り詰める。



砂丘の上方で、突然、砂が崩れ落ちる。


「来た……!」


プエルが叫び、身構える。



乾いた音が谷間に響き渡り、続いて砂煙が立ち上る。盗賊の群れと、怨念に囚われた戦士たちが姿を現した。彼らの瞳は濁り、意志ではなく怨念に導かれているようだった。


「前衛はモルン!」


アリアが声を張る。


モルンは応えるようにぴょんと跳ね、体を膨らませた。瞬間、細く震える呼吸が漏れる。


マコトの眉が少し寄る。


「……動きが鈍い。成長痛か?」


ルクスがそっとアリアに念話で囁く。


(モルン、成長痛だ。竜核が整いかけている。力を出すたび深い痛みが走る)


アリアが振り返ると、ルクスの視線はモルンから離れない。彼の声が再び念話になる。


(モルン、無理はするなよ)


すると、モルンが低く呻く。胸を前足で押さえながら、首を小さく振る。


(……まだ行ける)


──念話が直接ルクスに届く。


ルクスは少し眉をひそめ、そっとモルンに返す。


(…消耗は激しいはず。温存すべきだ)


モルンはゆっくり首を振り、目を閉じる。


(……今度こそ必ず守らなければならない。ルクスも知っているはずだ)


その瞬間、ルクスの表情が柔らかく変わる。彼はモルンの視線を受け止め、短く頷いた。


(……わかっている。でも、君を一人にはさせない)


モルンはそれに応えるように僅かに背を伸ばす。ふたりの間に、言葉以上の信頼が流れる。



──戦場のざわめきの中で、その念話だけが静かに交わされ、二人の絆を深めていた。



アリアはその様子に気づく。杖を握る手に力がこもる。


「ルクス……ありがとう」


ルクスは微かに微笑んだ。


「当然だ。君が気づかなくても、わたしが気づけばいい」


シュウはモルンの動きを見て呟く。


「成長痛だな」

「うん……少し休もう」


アリアはそう言い、シュウの傍へ進む。


モルンは低く咆哮し、震える翼で再び前に進む。砂丘の谷間に、仲間たちの決意が重なった。


砂が舞い、陽炎が揺れる中、戦場は静かな覚悟に包まれていった。


砂丘の谷間に静寂が戻る。砂埃がゆっくりと舞い上がり、戦いの痕跡を覆い隠す。仲間たちは呼吸を整え、互いの背を確かめ合った。


アリアは遠くの砂丘の頂きを見上げる。そこにはまだ、影のように動く者たちの気配。

胸の奥で──モルンの背に浮かんだ微かな竜核の紋様が、静かに脈打っている。


──誰もまだ知らない未来のために。


砂丘は再び静けさに包まれた。






ーーー248話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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