245話 岩場の待ち伏せ - 守護獣の咆哮
村を後にしてしばらく進むと、周囲の景色は砂の海から岩場へと変わっていった。
鋭く尖った岩が突き出し、ところどころ細い道が蛇のように連なっている。砂漠の風が岩肌にぶつかり、低い唸りを響かせていた。
「……嫌な地形だな」
マコトが低く呟く。
「敵が潜んでいたら、一気に囲まれるぞ」
ルクスは冷静に分析し、視線を岩陰へと走らせた。
岩壁の影が昼間でも濃く、そこに何かが潜んでいる気配を漂わせている。
その直後――乾いた叫び声と共に、岩陰から砂漠の盗賊たちが飛び出した。粗末な布で顔を覆い、錆びた刃を振りかざしている。その背後からは、怨念にとらわれた戦士たちが濁った瞳をぎらつかせ、呻き声をあげながら迫ってきた。
「来たっ!」
エリオットが剣を構え、アリアの前に立つ。
「怨念持ちも混じってる……気をつけて!」
シュウが声を上げ、治癒の力を展開できるよう掌をかざす。
敵が雪崩れ込んでくる瞬間、モルンが低く唸った。
次の瞬間、その体は大きく膨れ上がり、岩場の道を突進する巨体へと変わる。
「モルン、無茶すんなよ!」
マコトが叫ぶが、モルンは振り返らず、ただ前を見据えて走る。
岩場を駆け抜けるモルンの動きは重くも俊敏だった。体当たりで盗賊を弾き飛ばし、怨念を纏った戦士の足をすくって地面に叩きつける。その咆哮は岩壁に反響し、敵の心を揺さぶった。
土煙の中、イリスが「ぽよん」と跳ね、飛び散る穢れを吸い取るようにして仲間を守る。その姿に、敵の戦士でさえ一瞬動きを止めるほどだった。
「数が多い! 岩場の上にも!」
エリオットが警告を発する。
「……やはり地形を熟知している。こちらが不利だ」
ルクスが小さく眉を寄せる。だが、その声は落ち着いていた。
「じゃあ、不利をひっくり返せばいい!」
アリアが短く言い、祈りを込めた光を矢のように放つ。怨念の気配が一瞬ひるみ、仲間の動きが軽くなる。
その隙を逃さず、マコトが盗賊の武器を弾き飛ばし、エリオットが背中を守る。
シュウは一人倒れるたびに迅速に治癒を施し、戦列を崩さぬよう支えた。
そして最後に――モルンの巨体が突き進み、岩場の敵を一掃する。岩の上に潜んでいた盗賊も、その咆哮に怯み、砂煙と共に逃げ散っていった。
静寂が戻ると、モルンは大きく息をつき、その体を小さく縮めていった。
ぴたりとアリアの足元に戻ったその姿は、いつもの小さな相棒だったが、呼吸は荒く、体は熱を帯びていた。
「モルン!」
アリアがすぐに駆け寄り、その体を抱きとめる。
「かなり消耗してる……」
シュウが膝をつき、モルンの脈を確かめるように触れる。柔らかな光が彼の掌からあふれ、小さな体を包み込んだ。
「大丈夫、傷はない。ただ、エネルギーを使いすぎただけだ」
シュウは安堵の息を吐く。
イリスが「ぽよん」と跳ねてモルンの横に寄り添い、まるで「よく頑張った」と伝えるように小さく揺れた。
アリアはその姿に胸を締め付けられながら、そっと囁く。
「……ありがとう、モルン。みんなを守ってくれて」
モルンは目を細めるように瞬き、念話で短く返した。
――だいじょうぶ。まだ、たたかえる。
「無理すんな」
マコトが真剣な顔で言う。
「消耗は大きいが、致命傷はない。休息を取れば回復するだろう」
ルクスの冷静な言葉に、アリアたちはようやく胸を撫で下ろした。
戦場の余韻がまだ漂う中、彼らは改めて互いの存在の大きさを確かめ合う。
こうして一行は、砂漠の岩場での突然の襲撃を退けたのだった。
ーーー246話へつづく




