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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第十章 果てなき砂と星の狭間で
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237話 乾きと試練 - 蜃気楼の導き

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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砂の照り返しは刃のように肌を焼き、喉の奥は乾ききって音も出ない。

吹き抜ける風すら熱を帯び、砂漠は歩く者の意志そのものを試すようだった。


「……師匠?」


アリアが振り返った瞬間、仲間の影が砂上に崩れ落ちた。


「っ……」


倒れたのはマコトだった。鎧の隙間からあふれた汗はもう乾き、唇は血がにじむほどにひび割れている。


「マコト兄!」


ルクスが駆け寄る。


「先生!? まさか水を……」


ユリウスの顔が険しくなる。


イリスがびよん、と震えながらマコトの腰の水袋を覗いた。中はほとんど空だった。


「……皆に……譲っただけだ」


かすれた声が返る。


「自分は耐えられる……そう思って……」


武士の意地、仲間への思いやり。それが極限の砂漠では裏目に出たのだ。


「なんで……っ!」


アリアは慌てて額に手を当てた。火のような熱。呼吸は浅く、このままでは危うい。


「日陰に! すぐに!」


エリオットが外套を広げ、即席の布影を作った。ユリウスはマントを外し、砂に敷いて体を横たえる。


その横に、静かに膝をつく影があった。


「……熱中症だ」


声の主はシュウだった。いつもの穏やかな表情は消え、冷静な医師の顔をしていた。


「体温を下げろ。残りの水を布に含ませ、額と首、脇の下に。呼吸が浅い……気道を確保して」


的確な指示に、皆はすぐ動いた。アリアは布を絞り、額を冷やす。ユリウスが肩を支え、ルクスが小さな手で水を振りかける。イリスはひんやりした体を寄せて、冷却を手伝った。


シュウはマコトの手首を取り、脈を確かめる。苦悶に歪んだ顔を見つめる瞳には、どこか母を思わせる柔らかさが宿っていた。


「……まだ助かる。だが、このままでは……」


声を切ると、仲間の視線が一斉に集まった。


「水は、もう……」


エリオットが低く言う。


「次の補給地までは……持たん」


沈黙が一行を包み、乾いた風が砂を吹き上げる。




そのとき――


「……あれを、見て」


プエルが指差した先に、揺らめく光景があった。


砂丘の向こうに、青緑の光。樹木が影を落とし、泉の水面が陽光を反射している。


「泉……?」


アリアが呟く。だがすぐにユリウスが首を振る。


「いや、ありえん。蜃気楼だ」


皆、わかっていた。砂漠が見せる残酷な幻影。

それにすがるほど、彼らは追い詰められているのだ。


「……だが」


熱に浮かされたマコトが、かすかに笑みを浮かべた。


「導きかもしれん……行ってみるべきだ」


「幻かもしれない」


エリオットが低く言う。


「だが、行かねば希望は潰える」


ユリウスが応じる。




アリアは迷った。命をつなぐか、無駄に終わるか。

しかし、耳の奥にかすかな声が届いた気がした。



――「……来よ。渇きを抱く者たち……」



水面を伝う響きのような、低く柔らかな声。


その瞬間、シュウが顔を上げた。瞳の奥に光が宿る。




「……聞こえたか、アリア。あれはただの幻じゃない」


母の祈りを継いだ者としての確信が、彼の声にはあった。


アリアは息を呑み、震える手を握りしめた。



「……行こう。幻だとしても、何かが呼んでる」


砂漠の真ん中、揺れる蜃気楼を目指し、一行は歩みを進める。


その先に、まだ見ぬ試練と出会いが待っていることを知らずに――。





――ー238話へつづく





※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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