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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第九章 虹の記憶と星の芽吹き
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229話 星々に捧げることば - 透明な風とつながる祈り


 遺跡の広間を覆う風は、静かに震えていた。

 結界はすでに崩れかけている。それでも完全にはほどけず、奥に眠る“風の星霊”はいまだ姿を現さない。


『……足りぬ。もうひとつ、最後の鍵が』


 声は重なり、祈る者の胸に響いた。


 アリアは仲間たちを見渡す。皆、それぞれに己の覚悟を見つめ直した。だがまだ欠けているものがあるらしい。


「最後の鍵って……何なの?」

 イリスが小さく首をかしげ、不安そうにアリアの袖をつまむ。


「“純なる祈り”と“意志”は揃ったはず。でも、もう一つ……」

 エリオットが低くつぶやき、考え込む。


 そのとき、胸元のペンダントが、ぽうっと光を放った。


「……これは」

 驚いたようにシュウが目を見開く。形見としていつも懐に忍ばせていた母のペンダント。その光はまるで導くように、結界の中心へと揺らめいていた。


 風の声が重なる。

『血に刻まれし記憶。聖女のことばを……ここへ』





 シュウの脳裏に、不意に幼い日の記憶が蘇る。

 母がよく口ずさんでいた、やさしい旋律。星を仰ぐ夜に、小さな寝台のそばで歌ってくれた子守唄。


「……あれは、祈りの歌……」


 震える唇から言葉が漏れる。


 母が残したのは、ただの歌ではなかった。古く伝わる聖女の祈り。その旋律が今、最後の鍵となる。


 仲間たちが見守る中、シュウは深呼吸し、静かに口を開いた。




 小さな声から始まった歌は、次第に遺跡全体に響き渡っていく。

 その旋律はあたたかく、どこか懐かしい。風が共鳴し、光の粒が舞い上がる。


 アリアは胸に手を当て、思わず目を閉じた。

 ……この旋律、私も知っている。夢の中で、何度も聞いた気がする。


 次の瞬間、彼女の声が自然と重なった。

 歌うつもりなどなかったのに、心の奥からあふれるように言葉が出てきた。


 ふたりの声が重なったとき、結界は大きく波打つ。


 ユリウスは思わず息をのむ。

「……これが、聖女のことば」


 エリオットは静かに頷き、

「やっと……つながったんだな」

とつぶやいた。


 そして、イリスが涙ぐみながらアリアを見つめる。


「アリア……わたし、ここで……この歌を聞いてた気がする。ずっと昔に」


 彼女の声は震えていたが、その瞳は確かな確信を宿していた。




 光が広間を満たし、結界がひび割れて砕け散る。

 眩しい閃光の中から、ひとつの姿が現れた。


 透明な風をまとい、羽のように軽やかな肢体。

 髪は風の流れのように揺れ、瞳は空の色を映す。


『……よくぞ、ここまで辿り着いた。』


 それは、風の星霊アルセナだった。


 アリアは思わず息をのむ。

 美しい、とか、荘厳、とか、そういう言葉では足りない。目の前の存在は、ただ「風」そのものだった。


『我はアルセナ。古の時代より、星々の運行を見守りしもの。』


 声は風のささやきのように広がり、一同の胸に届く。


『人の子らよ。汝らの祈り、確かに受け取った。──しかし、来たるべきものは近い。星を喰らう影は、なおも力を増している』


 広間に冷たい気配が流れる。

 マコトが剣を握りしめ、エリオットは結界の残滓を警戒するように目を走らせた。


 けれどアルセナの声は穏やかに続いた。


『風はすべてを拒まず、すべてを運ぶ。汝らの想いもまた、風に託された。』





 アルセナはそっとアリアに視線を向ける。


『聖女の血を継ぐ者よ。汝の声は、風を動かした。』


 アリアははっとして両手を胸に重ねる。


「私は……まだ、何もできていません。でも……みんなと共に歩んで、未来を掴みたい。そのために力が要るなら……」


 言葉を最後まで言い切る前に、アルセナは微笑んだ。


『答えはもう示されている。契約はまだ果てぬ。だが、風はいつでもそばにある』


 その瞬間、アリアの胸の奥に、柔らかな風が吹き込むような感覚があった。

 力ではない。けれど確かに「つながり」が刻まれた。





 光が薄れ、アルセナの姿は少しずつ透明になっていく。


『風は常に巡る。また、必要な時に会おう。』


 そう告げ、星霊は消えた。



 しばし誰も声を出せなかった。

 静寂の中、イリスがぽつりとつぶやく。


「……アリア。わたし、やっぱり……ここで祈ってた。すごく小さい頃、アルセナに……お願いしてた気がするの」


 その言葉に、アリアは彼女の手をそっと握った。


「うん。きっと、全部つながってる。私たちの出会いも、この旅も」


 仲間たちは互いに目を見合わせ、そして頷いた。

 風が吹き抜け、広間を包むマントを揺らす。


 ──新しい旅路が、またここから始まるのだ。







ーーー230話へつづく


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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