228話 風は問いかける - 心に揺れる覚悟の声
淡い風が遺跡の広間を満たしていた。
祈りを捧げる仲間たちの足元には光が広がり、祭壇を覆う結界がわずかに揺れる。
その瞬間、アリアは胸に不思議なざわめきを覚えた。
──これは、風の星霊からの応え。
確かにそう感じた次の瞬間、広間全体に声が響いた。
『おまえたち。どこまで進む覚悟がある?』
風に乗るその声は穏やかでありながら、鋭く胸を貫く。問いかけに導かれるように、仲間たちの意識はそれぞれの幻視へと誘われていった。
*
〈アリアの幻視〉
草原の丘の上に立つアリア。
足元には倒れた仲間たち――マコト、ユリウス、エリオット、ルクス、プエル、イリス、モルン――全員が動かない。
空には光の渦が生まれ、渦巻く風が丘を駆け抜ける。迫る巨大な存在の気配に胸が締めつけられる。
『おまえが命を差し出せば、彼らは救われる。どうする?』
唇が震え、心臓が早鐘を打つ。諦めることは簡単だ。だが、アリアの胸に浮かぶのは別の答え。
「……私は、諦めない。自分を捨てず、みんなと未来を掴む」
声に重みが宿る。倒れた仲間たちは光に包まれ、少しずつ身体を起こす。
光の粒が空中で舞い、丘の風が頬を優しく撫でる。
光は闇を包み込み、未来を紡ぐ力となる。その感覚が全身に広がった。
*
〈マコトの幻視〉
映るのは、愛する人を守れなかった日の記憶。
血に染まった腕、冷たくなった命、力尽きた自分――膝をつき、拳を地に叩きつける。過去の痛みが体中に刻まれている。
『また繰り返すかもしれない。それでも進むのか?』
胸が締めつけられ、目の奥が熱くなる。
「……二度と同じ思いはさせない。弱くても、この手で守る」
背に差し込む光が、重く圧し掛かっていた記憶を溶かす。遠くで風が木々を揺らす音が、まるで応援するように聞こえる。胸の奥で守るべきものへの覚悟が光となり、静かに燃え上がった。
*
〈エリオットの幻視〉
目の前に現れたのは、小さな少女――亡き妹ミア。
怯えた瞳が胸を抉る。息が止まりそうになる。
『どうして助けてくれなかったの……?』
膝をつき、手が震える。後悔が押し寄せる。
「……ごめん。取り戻せないけど、その悔いは忘れない。今度は仲間を守る」
幻影は微笑み、光の粒となって消えていく。
静かな風が頬を撫で、胸に覚悟の温もりを残した。
涙を拭い、エリオットは深く息を吸い、決意を胸に刻む。
*
〈ユリウスの幻視〉
荘厳な王宮の回廊に立つユリウス。
歩み寄る兄ルシウスの姿。父の無念、王家の責務、過去の自分――すべてが問いかけてくる。
『王家に戻るのか、それとも旅を続けるのか』
胸が張り裂けそうになる。だが、ユリウスの瞳は揺らがない。
「過去に囚われず、選んだ居場所は仲間と共にある」
満足げに頷く兄。回廊に差し込む光が、過去の重みを溶かし、胸に新しい希望を注ぐ。風が髪を揺らし、星の光が天井の窓から降り注ぐ。未来を見据える視線に、迷いはもうない。
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〈シュウの幻視〉
柔らかな光の中、母の姿が浮かぶ。
聖女見習いの女性の温かさ、力強さが胸に蘇る。
『聖女の力とは、なんだと思う?』
言葉に詰まりながらも、思いを巡らせるシュウ。
「人を癒し、支えること。その想いが力になる」
母の幻影は微笑み、形見のペンダントをかすかに光らせる。
胸に温かさが広がり、力と覚悟が芽生える。光の粒が風に舞い、彼の心を満たす。
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〈ルクスの幻視〉
影だった頃の記憶が心の奥でちらつく。
人を傷つけるしかなかった自分。しかし今は、ルクスという光として生きる。
風が語りかける――
『おまえは、今の光で人を守れるか?』
胸の奥にアリアたちの顔を思い浮かべる。
「わたしは、もう影じゃない。光として、みんなと共に進む」
微かに笑むルクスの姿に、風のざわめきが柔らかく重なる。過去の影は消え、光の自分が立ち上がった。
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〈プエルの幻視〉
小さな星霊プエル。まだ幼い自分と向き合う。
かつては影のなりそこないで、何もできなかった。
『本当に、今の自分でいいのか?』
うずくまるプエル。ルクスやアリアの顔を思い浮かべ、心を決める。
「小さくても、学びながら守るんだ…みんなのそばで」
光が包み、成長への自信と希望が芽生える。
小さな手を伸ばし、未来に向かう決意を示す。
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〈イリスの幻視〉
過去の虹色スライムの記憶が断片的に呼び覚まされる。
「どうかあの子を守って」
穏やかな年配女性の声が心に響く。
「そなたは我ら虹色スライムの希望の星。未来での活躍を見守っておる」
古代虹色スライム種の長老の声。
「私の子孫を頼んだ」
大きな人の手がそっと撫でる感触。
「守るんだぞ!」
体当たりしてくる兄弟たちの力強い声。
イリスは小さく跳ね、ぽよん、と体が震える。胸の奥に温かな確信が宿った。
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〈モルンの幻視〉
足を負傷して倒れた過去の記憶が蘇る。守れなかった同族たちの姿が、今も胸を締めつける。力が及ばず、あの日はどうすることもできなかった――その無力さが静かに胸に重くのしかかる。
そのとき、柔らかな気配が近づく。足音でも匂いでもなく、まるで風のように、確かにカメリアの独特な魔力に似ていた。思わず唸り声を上げると、その存在は自然とこちらに導かれ、傷ついた目の前に立った。
目の前の少女は、ただ力を振るうのではなく、心に直接触れる温かさと強さを放っていた。
その瞬間、モルンは自分の役割が変わったことを直感する。
「今度こそ……この子を守る」
過去の痛みと後悔を胸に、モルンは決意を新たにする。背を撫でる風が傷ついた体を包み込み、柔らかく揺れた。痛みは光へと変わり、胸の奥に新たな使命が刻まれた瞬間だった。
*
やがて、仲間たちは一斉に目を開いた。
祭壇を覆う結界は大きく揺らぎ、砕け散りそうになっていた。
しかし、風の声が再び響く。
『……足りぬ。まだひとつ、鍵が欠けている』
広間に冷たい沈黙が落ちる。仲間たちは顔を見合わせ、それぞれが確かに「答え」を掴んだ感覚を持っていた。
だが、星霊の封印を解くには、まだ何かが必要らしい。
アリアは胸の奥に小さな不安を覚えながらも、結界の奥から流れ込む風の気配を感じ取っていた。
そこに眠る存在が、確かに彼らを見つめている――。
ーーー229話へつづく
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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。
作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。
あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。




