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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第九章 虹の記憶と星の芽吹き
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205話 静かな誓い - エリオットの想い


夜の見張り番は、街道の静けさを際立たせる。

焚き火のぱちぱちという音と、遠くで虫の鳴く声だけが響いていた。


エリオットは、少し離れた岩に腰を下ろし、空を見上げていた。

雲ひとつない夜空。無数の星々が、冷たい光を放っている。


「……ミア」


吐息のように、その名がこぼれた。

星々のどこかに届くはずもないのに、名前を呼ばずにはいられなかった。




足音が、砂を踏む音とともに近づいてくる。

振り返らずともわかる。ルクスだ。


「……人間は、不思議だな」


「何がだ?」


「喪失を抱えたまま、なぜ前へ進もうとする? 傷は消えないのに」


ルクスの声は低く、感情を探るような響きを持っていた。




エリオットは視線を夜空から外さない。

答えを探すように、しばし黙った。


「……進まないと、置いていかれる。生きてる間ずっと、な」


「置いていかれる?」


エリオットは目を細め、焚き火の光を見つめる。

やがて口を開いた。






それは、まだ自分が少年だった頃。

ミアはいつも笑っていた。

活発で、じっとしているよりも走り回るほうが好きな妹だった。


けれど、あの日――村が、夜明け前に襲われた。


魔力を持つ子どもたちが、次々と縄で縛られ、連れ去られていった。

エリオットは必死でミアの手を掴んだ。

だが、振り下ろされた剣と大人たちの腕が、ふたりを引き裂いた。


「お兄ちゃん!」


泣き叫ぶ声が、闇の奥に遠ざかっていく。



一番近い街まで、二日間、休みなく走った。

血の味がする息のまま、役所に飛び込み、村が襲われ子どもたちが攫われたことを訴えた。

だが――犯人の消息は、わからなかった。




それから一年。

妹の行方と事件の真相を追うため、エリオットは宮廷書記官となった。


職について半年が経ったある日、数人の子どもたちが意識不明の状態で発見された。


その中に――ミアもいた。


静かに横たわる妹。

あれほど元気だった少女が、目を閉じたまま動かない。

治癒師も、宮廷の魔術師も首を振るだけだった。


それからの日々は、仕事と看病の繰り返しだった。

ミアは何も語らず、目を開けることもなく……やがて息を引き取った。


残ったのは、怒りと虚しさと後悔だけ。

調べ続けた末、妹は――謀反を企む者たちの古代魔術研究の糧にされたと知る。



そして、ミストラル村の地下研究室。

魂だけになったミアと再会したとき、彼女はもう死を受け入れていた。


『お兄ちゃん……もういいの。みんなと一緒に……』


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが千切れる音がした。

受け入れたくなかった。

だが、彼女は静かに微笑み、光となって消えていった。






「……強くても、届かなかった。それがずっと、痛いんだ」


焚き火がはぜる音が、間に落ちる。

ルクスは口を閉ざし、その言葉を受け止めていた。


「だけどな……アリアを見てると、少し思うんだ」


エリオットはゆっくりと呼吸を整える。


「この子なら、未来を変えられるかもしれない。だから……守る。今度こそ」


その言葉は、静かだが確かな熱を帯びていた。

ルクスは、ほんのわずかに口角を上げたように見えた。


「……なるほど。それが、エリオットの“進む理由”か」


エリオットは苦笑した。


「格好いい言葉じゃないけどな」


「いや……悪くない」


会話が途切れ、再び夜の音が戻る。

星々が冷たく輝き続けていた。






背後から、足音が近づく。

今度は軽やかな、聞き慣れた音だ。


「エリオット、これ……お水。夜は乾燥するから」


アリアが、小さな木のカップを差し出した。

焚き火の光に照らされ、彼女の顔がほんのり赤く染まっている。


「……ありがとな」


カップを受け取り、一口飲む。

冷たい水が喉を通り、胸の奥まで広がっていく。


「寒くない?」


アリアが首をかしげる。


「大丈夫だ。もうすぐ夜が明けるしな」


そう言って、エリオットは微笑んだ。

その瞳には、夜空と同じ深さがあり、そこに宿るのは、かつての無力さではなく――強く優しい決意だった。


アリアはその視線に一瞬見とれ、そっと笑みを返す。

火の粉が舞い上がり、ふたりの間をあたためる。


夜はまだ続く。

けれど、確かにそこに、新しい夜明けへの予感があった。





ーーー206話へつづく




✪読んでくださり、ありがとうございます。

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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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