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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第九章 虹の記憶と星の芽吹き
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202話 祈りの贈り物 − 優しさの循環


窓から差し込む朝の光が、静かに床を照らしていた。

ミーナは、小さな机の上に両手をついて、ひとつのブローチをじっと見つめている。


それは、小指の先ほどの大きさしかない、透明なガラス細工のブローチ。

光を受けるたび、きらきらと七色に揺れていた。まるで朝露のしずくをそのまま閉じ込めたみたいに。


(……こんなに綺麗なブローチ)


ミーナはそっと指先で触れた。

ほんの少し、冷たい。

けれど、その奥に宿る温もりは、確かだった。


それは、あの人から――アリアから、もらったもの。


 



* 


「これ、似合うと思ったの」


旅立ちの朝。

まだ街は眠っていた。

教会の裏庭で、アリアは小さな包みをそっと差し出してきた。

布の端を解くと、中に現れたのが、今ミーナの手の中にあるこのブローチだった。


「……わたしに?」


思わずそう訊き返すと、アリアは笑った。とても優しくて、少し寂しげな笑みだった。


「うん。私たちからの祈りを込めて」


「祈り……?」


アリアは何も言わず、そっと両手を合わせるようにブローチを包むと、目を閉じた。

イリスも、そのそばでまねをするようにちいさな体を揺らしていた。


ほんの数秒。それだけだった。

けれどミーナには、その静けさが永遠にも思えた。


(この人たちは、ほんとうに……わたしのために祈ってくれてる)


その祈りの温度は、言葉以上にまっすぐに胸へ届いていた。

声もなく涙が溢れそうになるのを、ミーナは必死にこらえた。


「ありがとう……」


かろうじて、それだけを言葉にする。


アリアはそっとミーナの胸元に手を伸ばすと、ブローチを優しく留めてくれた。


「うん、やっぱり似合うね。ずっと持っててね」


「……うん」


朝の光が、二人の影を長く引いていた。

その静けさの中で、イリスがぽよん、と跳ねてミーナの肩をちょんと突いた。


「みーな、えがおが すてき。ずっと、わすれない」


「……私も、忘れない。絶対に」






回想から戻ると、ブローチの奥にきらりと光が揺れていた。

ミーナは両手でそれを包む。


「……あのとき、ちゃんとお礼、言えてたかな」


誰にともなくつぶやくと、扉の外から軽やかな足音が聞こえた。


「ミーナ、入ってもいい?」


顔を上げると、教会の修道女がそっと扉を開けていた。

薄い布をまとったその姿は、まるで光そのもののように柔らかだった。


「朝ごはん、用意できてるよ。でも……その前に」


そう言って、彼女はミーナのそばまで歩くと、そっと手を差し出した。

ミーナが戸惑いながらその手を握ると、彼女はにこりと微笑んだ。


「あなたにできることが、きっと見つかるわ。ゆっくりでいいの。焦らなくていい。セリシア様のいるアルトリウム王国王都の教会に行くまで、ここで癒し手の基礎を学びましょう」


ミーナは一瞬、何も言えなかった。

でも、彼女の手のひらはとても温かくて……気づけば、こくりと頷いていた。


「……うん。わたし、がんばってみる」


「ええ、きっとなせばなるわ」


彼女が優しく笑った瞬間、ミーナの胸の中で、何かがやわらかくほぐれる音がした気がした。






教会の門を出ると、草の上に朝露が光っていた。

空は、深い青に白い雲が流れていて、風がふわりとスカートを揺らす。


ミーナは草の小道に足を止め、ポケットからそっとブローチを取り出した。

光にかざしてみると、それは朝の空を映してきらきらと瞬いている。


――似合うと思ったの。


アリアの声が、風の中でそっと響いた気がした。


「……似合うかな?」


ぽつりと口にした自分の声が、少しだけくすぐったかった。


視線の先には、遠ざかる旅の一行の背中が小さく見えていた。

ゆっくりと、けれど確かに歩んでいく姿。


ミーナは胸元にそっとブローチを留める。

そして、小さく笑った。


「ありがとう、アリア。イリス。……みんな」


その声は、風に乗ってどこまでも遠くへ届いていくようだった。


 




――ー203話へつづく


✪読んでくださり、ありがとうございます。

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※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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