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私が占い師になった理由。  作者: 月灯
第六章 王都セントラル編
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95話 エルヴァンの記憶(後編) - それでも、託せないもの

✪読んでくださり、ありがとうございます。

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玉座の間に、静かな足音が響く。


重々しい空気を割って、アリアがゆっくりと前へ進んでいく。


玉座の前に立っていたのは、かつて王家に仕え、民を守るために力を振るっていた魔導士。


いまは、王のいない玉座を背にして立つ

――偽王、エルヴァン。


 


彼は、驚くほど穏やかな表情でアリアを迎えた。


「ようやく来たか。君なら、来ると思っていた」


「……なぜ私が?」


「君だけは、俺と同じ“外側”にいた者だと思っていたからだよ」


 


“外側”。


国の制度から、血統から、守られる立場からも遠いところ。


選ばれず、見捨てられ、誰にも知られずに生きていた者たち。


アリアはその言葉に目を伏せた。


 


「君が聖女の血を引いていたことは、皮肉だったな。皮肉であり……救いでもあった」


「“血”を背負っていたから、この国の矛盾が見えたと?」


「そうだ。だからこそ君は、俺の言葉に耳を傾けてくれると思った」


 


エルヴァンの声には、静かな熱がこもっていた。


その確信に満ちた口調に、アリアは言葉を返さない。


 


「俺は国を壊したいわけじゃない。救いたいんだ。名もなく、奪われ、捨てられた命たち。あの人たちに手を差し伸べる力があれば……俺が王家に認められてさえいれば、助ける権利があったはずなんだ」


 


声が震える。


その痛みは、真実だった。


彼が見てきた現実は、否定しようのない“闇”だった。


 


アリアは静かに応える。


「……あなたの見ていた景色も、この国の真実の一つ。私も、そこから逃れられなかった」


そして、まっすぐに彼を見据える。


 


「でも、それでも――私は、あなたには未来を託せない」


 


沈黙。


エルヴァンの目が、わずかに細まる。


「なぜだ」


「あなたの正義は、怒りと絶望から始まっている。過去に背を向けた人々を罰することで、正しさを証明しようとしている。……でも、その先にある未来には、“赦し”がない」


 


赦し――それは、過ちを認め、なお歩み続けるために必要な希望。


怒りを分かち合うだけでは、誰の命も救えない。


 


「私は、あなたの中に“慈しみ”を見いだせない。共鳴はできても……未来を託すには、違いすぎる」


 


玉座の間に、しんと沈黙が落ちる。


 


エルヴァンは、小さく笑った。


「……優しいな、君は。まっすぐで、愚かしいほどに」


「それを“愚か”と思うなら……あなたは、きっと、この国のどこにも立てなかった」


 


その言葉に、エルヴァンの顔にわずかな影が射す。


だがすぐに、皮肉な笑みが浮かぶ。


 


「ならば、俺は玉座を降りることはない。ここに立ち、俺の正義を貫く」


「それが、誰かの心を踏みにじっても?」


「構わない。優しさでは国は救えない」


 


アリアはその言葉に、微かに唇を引き結んだ。


そして、背後に控える仲間――イリス、マコト、エリオットへと視線を向ける。


彼らは静かに頷き、覚悟を示す。


 


エルヴァンも、その気配を察した。


「……戦うつもりか」


「あなたの言葉が、もう誰も救えないと分かったから」


「ならば、ここが終わりだな」


 


エルヴァンが杖を手に取る。


その瞬間、空気が張り詰め、魔力が弾けるように広がった。


玉座の間に緊張が走る。


 


「……いいだろう。ここで終わっても、俺の信じたものは消えない」


「消さない。私たちが、引き継ぐから」


 


アリアの声は穏やかだった。


「あなたが見た痛みも、叫びも、誰かが語り継がなければならない。だから、あなたの“願い”だけは受け取る」


 


エルヴァンの魔力が、一瞬だけ揺らぐ。


その言葉は、確かに彼の胸に届いた。


だが、それでも――彼は歩みを止めなかった。


 


正義という名の業火が、ゆっくりと紡がれていく。


アリアたちは、その前に立ちふさがる。


怒りでも悲しみでもなく――未来への希望を手にして。


 


それは、終わりではなかった。


すべての“始まり”の戦いだった。


 


ーーー96話へつづく


※このお話の舞台はヨーロッパ風異世界であり、現実世界の歴史とは一切関わりありません。

作中に出てくる 国・文化・習慣・宗教・風俗・医療・政治等は全てフィクションであり、架空のものです。

あくまで創作上の設定としてお楽しみいただけますと幸いです。

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