折られた可憐な花六話
次の日、憐夜が逃げた事はすぐに発覚してしまった。千夜は父である凍夜の元へ呼び出された。
「千夜、憐夜はどこに行った?」
更夜達と同じ銀色の髪に鋭い目で、凍夜は千夜を睨みつけていた。望月の隠れ里にある、集会所のような所に千夜はいた。まわりは他の甲賀望月が同席していた。この中で厳格な体制を敷いているのは、三つの望月家だった。
「……憐夜がおりませぬか? 私にはわかりかねますが……。」
「本気で言っておるのか? お前は居場所を知っているだろう?」
凍夜は千夜を見透かすように言葉を発した。
「いいえ。わかりませぬ。」
「昨夜、他の者がお前と更夜と、そして憐夜を見ている。お前は知っているはずだ。どこへ行った?」
「知りませぬ。」
千夜は断固として認めなかった。
「認めぬ気か……。」
他の望月家の者達が立ち上がり、千夜に襲い掛かった。千夜は軽やかにかわし、襲い掛かって来た者をすべて倒した。
「さすがだな。千夜。この父に逆らうとは……。」
千夜は凍夜の低く鋭い声にビクッと肩を震わせた。幼少の時からの記憶が千夜を縛る。
……父親に逆らってはいけない。
千夜ならば、今の凍夜には勝てるはずだった。だが千夜の身体は、何かの術にかかったかのように動かなくなってしまった。
「……くっ……。」
「勝てると思ったか? 千夜。」
千夜の頬を絶えず汗が流れる。凍夜が近づくにつれて千夜の身体の震えは大きくなっていった。
「……っ。も、申し訳ありませぬ……。お父様……。」
千夜は意思とは裏腹、凍夜に許しを乞うてしまった。
「ふむ。認めるんだな? では、憐夜はどこにいる?」
「しっ……知りませぬ。」
「なるほどな。逢夜を呼んで来い。」
凍夜は顔を千夜に近づけると、他の忍に逢夜を呼ぶように言った。
「お、逢夜は……逢夜は関係ありませぬ。」
「黙れ。これは見せしめだ。」
凍夜は指で千夜の顎を持ち、クイッと上げた。
「うっ……うう。」
千夜は恐怖心で満たされて行く自分を、ただ受け入れるしかなかった。
……千夜の心はもうすでに狂った規律に壊された後だった。




