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旧作(2016〜2024完結)「TOKIの神秘録」望月と闇の物語  作者: ごぼうかえる
オムニバス3「TOKIの世界書抜粋」折られた可憐な花(憐夜の過去)
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折られた可憐な花五話

 更夜は憐夜の修行に力を入れ、気がつくと夜になっていた。真っ暗だが、憐夜も更夜も夜目の訓練をしているため夜でも関係なかった。

 「メシにするぞ。いつものように食べられるものを持ってこい。」

 「……はい。」

 憐夜は珍しく素直に返事をした。更夜は憐夜の調子を見、何か様子がおかしい事に気がついた。

 憐夜が足早に去って行くのを見、しばらく経ってから憐夜の尾行をする事にした。

 更夜は木から木へと飛び移りながら、下で走っている憐夜を監視した。憐夜は更夜が指定した場所ではない所へと入って行った。

 ……そちらへ向かうと山を降りてしまうぞ……憐夜。

 更夜は憐夜が何をしようとしているのかわかった。憐夜は更夜の目を盗み、逃げるつもりのようだ。

 ……そんなにここから逃げたいか……憐夜。

 更夜はさらに憐夜の後を追った。

 ……ん? あの子はこの周辺をウロウロと何をしている?

 憐夜は同じところをグルグルと回っていた。

 「あれ? おかしいな。たしかこっちのはずだったんだけど……道が……わかんなくなってしまったわ。」

 憐夜は不安げに独り声を漏らした。どうやら逃げ道を見つけていたようだが、夜だったため場所がわからなくなってしまったようだ。

 ……場所が……わからなくなってしまったのか。このまま右に行けば山を下りられるが……。

 更夜はふと甘い考えが浮かんだ。

 ……このまま俺が憐夜を逃がしてやれば……今ならば誰の気配も感じないので、憐夜を逃がしてやれるかもしれない。逃げた後、探されるが、それをうまく操れば見当違いの場所を探させることができるかもしれない。そうすれば憐夜は遠くに逃げられる……。

 更夜は右に行くように誘導してしまった。憐夜がいる木の近く目がけてクナイを放った。憐夜は飛んでくる風に気づき、咄嗟に更夜の方を向いた。

 「見つかった? あっちからクナイが……。逃げなきゃ! 捕まったらまた……。」

 憐夜はクナイが投げられた方向とは逆に逃げて行った。

 ……そうだ。そっちに走れ。

 更夜は必死で走る憐夜を黙って見つめていた。憐夜を追い、わざと足音を立てたり、クナイを放ったりなどして的確に誘導してやった。憐夜が山を下り、もう少しで抜け忍とみなされる場所まで来た時、更夜は淡い幻想を抱いていた事に気がついた。

 ……ダメだ。俺は何をしている。俺の家系を甘く見てはいけない! あの子の能力では俺の家系には勝てない……。いますぐ捕まえて連れ戻さないと殺されてしまう……。

 更夜は慌てて木から飛び降りると、憐夜を追って走り出した。しばらく走っていると、千夜に前を塞がれた。

 「おっ……お姉様! 憐夜が……。」

 更夜は必死の表情で千夜に声を上げた。

 「ん? 憐夜? 憐夜がどうしたのだ? ああ、それより、近くに隠れられそうな洞窟を見つけたのだ。あそこはなかなか見つかりにくいぞ。確か、ここから北の方角にあったな。村にだいぶ近いぞ。ああ、そういえば南にも同じような洞窟があったが、あれは使えんな。私はあそこへはいかん。お前も……南のあそこは知っているか? 大きな岩がある所でな……。」

 「お、お姉様? 今はそんな事を言っている場合では……。」

 更夜がそうつぶやいた時、近くに憐夜の気配を感じた。憐夜は足音が近い事に気がつき、動くのをやめたらしい。近くで隠れているつもりのようだ。

 「……ここから北の洞窟はお兄様たちが来る可能性がある……でも南の洞窟なら……。」

 ふと憐夜の独り言が聞こえてきた。憐夜は更夜達に聞こえていないと思っているらしいが、更夜達にははっきりと聞き取れた。もう憐夜の居る場所も更夜にはわかっていた。

 おそらく千夜にもそれがわかっているだろう。

 更夜は千夜の意図がわかった。

 ……お姉様も憐夜を逃がしてやろうと思っているのか?

 「さて、更夜、お前はこんなところで何をしているのだ? 憐夜がこんなところまで来る事ができるはずがないだろう。私が監視をしているのだから。いつもの場所で憐夜が腹を空かせて待っているやもしれぬぞ。今回は私も食事に同席させてもらおうか。今は仕事がない故な。」

 千夜はいつになく饒舌に話すと更夜を促し、元の道へと歩き出した。

 「……は、はい。」

 更夜は千夜に促されるまま憐夜に背を向け、歩き始めた。

 ……お姉様は自分が監視していると言った。この山から逃げたら俺のせいではなく、自分の過失にしようとお姉様はしている。そして忍がまずいかないだろう南の洞窟に行くように憐夜を動かした……。

 「お姉様……これは私の過失でございます……。いますぐ憐夜を……。」

 「何の話だ?」

 千夜は更夜にちらりと目を向けると、さっさと先へ行ってしまった。

 「お姉様……。」

 更夜は千夜の背中を黙って見つめ、歩き出した。

 



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