視界の月夜 最終話
「はっ!」
ルルは唐突に目を覚ました。反射的に起き上がった。
そして気がついた。なぜか自分は横になって寝ている。
「あ、あれ?」
ルルは寝ぼけ眼で辺りを見回す。周りはすごく見慣れた風景が広がっていた。積まれた本、自分が寝ている布団、机にタンスに冷蔵庫。
「ここ……私の家……。」
ルルは知らぬ間に自室で寝ていた。窓からは明るい日差しが漏れている。
なんとなく時計を見た。午前十時だった。
しばらくぼんやりとしていると色々な事を思い出した。自分の心に明るい道を作ってくれたあの姉弟達。
そして……
「逢夜っ!」
ルルは最愛の男の名を呼び辺りを見回したが逢夜はいなかった。
「逢夜……。」
静かな部屋にルルの声がこだまする。
ルルはなんだか無性に寂しくなった。
……全部……夢だったの?
「私は……ひとりのままだった……。」
ルルの頬に涙がつたった。涙は止まる事なく、溢れて落ちていく。
「うう……ひっく……。」
ルルの嗚咽が静かな部屋に響いた。
と、その時、
「ただいまー。ルル起きてっか?」
呑気な声が玄関から聞こえた。ルルが顔を上げると目の前に幸せそうな顔をしている逢夜が立っていた。
「俺達の神社、ちょっくら見に行ってきたんだけどよ、なかなか良かったぜ……って……ルル?」
逢夜はルルが泣いていることに気がつき、慌ててルルに寄り添った。
「どうしたんだよ?」
「お……逢夜ぁ……。どっか……どっか行っちゃったかと思った……。」
ルルは泣きじゃくりながら逢夜に抱き着いた。
「どっか行くわけねぇだろ。俺はお前と縁結びの神になっちまったんだから。男女の繁栄は男女でな!……って事で夫婦神になっただろ?覚えてねぇのかよ。」
「……夫婦神……?」
ルルの問いかけに逢夜は呆れたため息をついた。
「お前が生まれた直後の過去に俺をねじ込ませてシステム改変をしたんだよ。姉と妹がKの使いで更夜は心の世界の過去を司る神だ。俺の姉弟はうまくやってくれた。俺は運よくお前と夫婦神として祭られて絶対切れない縁を結ぶ神になった。まあ、俺はその神とKの使いを併用する形になっちまったけどな。」
逢夜の言葉にルルは目を丸くし、瞬きを繰り返した。
「つ、つまり……一緒にいられるって事?」
「そういう事だな。」
「そ……そっか……。……うう……逢夜ぁああ!」
ルルは不安げな顔から一転、満面の笑みで逢夜に飛びついた。
「ルル、喜ぶのは早いぜ!これから俺達はゼロになった神格を元に戻すために大量に仕事しなきゃならない。お前の神格も生まれた当初に戻っているんで……まあ、そっからやり直しだって事だ。まあ、今回は上手くシステム改変しちまったから俺という歴史が新たに追加されることになるが、とりあえず、頑張ろうぜ!」
「……うん!」
逢夜の明るい声にルルも元気よく頷いた。
お互いはほほ笑み合い、抱き合い、愛を確かめ、そして元気に立ち上がった。
手を繋いで歩き出す。
「まずは朝飯にしようぜ!」
「ふふ……そうだね。朝ごはんにしようね!」
ルルと逢夜の夫婦神は神力の立て直しよりも先に一緒に朝ごはんを食べる事にした。
ルルの顔は朝日に照らされて輝き、瞳には優しい女神の感情で溢れていた。
これからは二神で手を取り合い、神話を繋いでいくだろう。
これはある縁結びの神の厄を払った物語。




