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視界の月夜九話3

 逢夜はやや乱暴に自分達の世界から抜け出すと無言のままルルの世界へと向かった。

 ルルは逢夜の考えていることがわからず、戸惑っていたが大人しく逢夜に抱えられていた。


 逢夜はやがてルルの世界を見つけると素早く中へと入り込んだ。

 先程の景色が眼前に広がる。青くてきれいな海、空、そして映える緑の草原、その中にひときわ赤い鳥居。


 逢夜はその景色を眺めながら草原の中に足をつけた。逢夜は抱えていたルルを地面に下ろした。


 「あ、あの……逢夜?」

 「黙ってろ。」

 逢夜は乱暴に言い放つとルルの手を握って鳥居を足早に潜った。


 「さ、さっきの厄が……。」

 「……出てこい……セツ。」

 「え?」

 逢夜の発言にルルは驚いて声を上げた。


 「ルルの中に巣くう厄はルルが作りだしたセツ……なんだろ。」

 「え……どういう……。」

 逢夜は鳥居を潜った先にある小さな社に向かって話しかけていた。


 刹那、再び黒い負のエネルギーが社を竜巻のように包み込んだ。逢夜は臆することなくルルの手を引いて厄内部へと歩き出した。


 「ちょ、ちょっと逢夜!危ないよ!」

 「……大丈夫だ。ついて来い。」

 心配そうなルルを見た逢夜の顔は先程の険しい顔とは違い、とても優しく切なげだった。


 「逢夜……。」

 ルルは不安だったが逢夜を信じて厄内部へと入り込んだ。


 「ううっ……。」

 負のエネルギーは思ったよりもかなり重たいものだった。もうそこには感情はなく、ただ何もなくてもわかってしまう嫌な気配とやたらと重量感のあるエネルギーの塊だった。


 「こ、これが……負のエネルギー……重い……。体が……分解されちゃう……。」

 「気を確かに持て。大丈夫だから。」

 ルルが倒れそうになるのを逢夜が優しく支える。


 なんとか厄の中心にたどり着いた時、目の前には先程見えた社とセツ姫がいた。

 セツ姫は逢夜にただ笑いかけていた。

 「……いたな……セツ。いや、ルルの心に居座っているセツ姫。……ルルの中にはこんなにはっきりとしたセツがいやがる……。」

 「セツ……姫さん?」

 ルルはセツ姫を瞳に映した刹那、どこからかくる悔しさに目から涙をこぼした。


 「わりぃな!セツ!」


 ルルが落ちてしまいそうな時、逢夜がセツ姫に向かって大声で叫んでいた。


 「……。」

 セツ姫は何も答えない。


 「俺はな、……ルルの方が好きなんだよ!セツよりもずっとルルが好きだ!」

 「……っ!」

 逢夜の言葉にルルは目を見開いて逢夜を見つめた。

 「……。」

 セツ姫はほほ笑んだまま何も答えなかった。


 逢夜は半分照れたような仕草でルルの頬に手を当てると優しくほほ笑んだ。


 「あ、あの……えっと……。」

 ルルは戸惑ったまま逢夜を見つめる。顔と顔が向かい合い、ルルの頬が赤く染まる。


 「ルル、俺の言葉が足りなかったな。昔から肝心なことは仕事柄言わねぇように生きていたもんでつい、大事なもんを隠しちまった。だから一度だけ言うぞ。」

 逢夜はそこで言葉をきって深呼吸をした。


 そして……


 「俺はセツよりもお前の方が好きだ。お前とずっと一緒にいてぇ!愛しちまったんだ!お前を!これが俺の気持ちだ!これで伝わらなかったら俺は泣くぞ!」


 その後「馬鹿野郎!」とでも叫び出しそうな勢いで逢夜は叫ぶとルルの顔に自分の顔を近づけた。お互いの唇が重なる。


 「んっ……。」

 ルルは驚いて目を見開いたがルルは逢夜を受け入れ、そっと目を閉じた。

 逢夜のキスは乱暴だったがとても優しかった。

 逢夜はやがてそっとルルを離した。ルルは頬を上気させたまま、ふらっと逢夜に倒れかかった。


 「おっと。……大丈夫か?ルル。……あー、ちゃんと言うとけっこう恥ずかしいもんだな。」

 逢夜は昇天しかけているルルをそっと自分に引き寄せると頬を赤らめた。

 ルルはぼうっとしながら逢夜の気持ちをしっかりと受け取っていた。


 逢夜の感情表現はとてもへたくそだったがストレートに心に響いた。


 ……私……逢夜の気持ちをどこか疑っていたんだ……。セツ姫さんが好きだから逢夜はきっと私も好きになったんだろうなって思ってた……。でも……違った……。私が逢夜を信じていなかった……心のどこかで……信じてなかっただけだったんだ。私は……私の嫉妬を悔いる。


 ルルが目をそっと閉じた時、辺りの厄が突然弾け飛んだ。社の前にいたセツ姫もほほ笑みながら砂のように消えていった。

 セツ姫は特に何も話さなかった。


 「……うまくいったみたいだ。ルル、俺の気持ちわかったか?もういい加減伝わっただろ!今までずっとストレートに表現してたのに俺の気持ちが疑われていたとはな。」


 「……うん。ごめんね。逢夜。私、信じているって言っててもどっかで逢夜を信じられてなかったみたい。私も逢夜が大好き。もう気持ちは十分に伝わったよ。逢夜はセツ姫さんじゃなくてほんとうに私の事を好きだって思ってくれていたんだって事を。」


 ルルは逢夜に幸せそうに微笑んだ。ルルの気持ちは嘘みたいに晴れていた。

 逢夜はそれを確認すると大きく頷き、再びルルを抱きしめ、もう一度優しくキスをした。


****


 遠くの方でルルと逢夜の様子をこっそり見守っていた千夜達は軽くほほ笑んでいた。

 「社を覆う厄が完全に消えましたね。お姉様。」

 更夜がどこかほっとした顔で隣にいる千夜と憐夜を見る。


 「うむ。では、私達が考えた策を試してみようか。」

 「お兄様とルルさんのために頑張ります!策の内容を教えてください!」

 千夜の言葉に憐夜が元気に答えた。


 「……これからルルのシステム変換を実行する。」

 「はい。」

 千夜の一言に更夜と憐夜は真剣な眼差しで頷いた。

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