視界の月夜九話1
「逢夜に更夜か。タイミングがいいな。」
「え?」
千夜の独り言にルルが首を傾げた。
「ああ、もう少しで弟達が来る。」
千夜は軽くほほ笑んだ。ルルは足音もしない外廊下に耳を澄ましてみた。結局、何も聞こえなかった。
「どうしてわかるの?」
ルルが千夜に尋ねた時、閉めておいた障子戸を叩く音がした。
「ほらな。来た。」
千夜は得意げに頷くと障子戸を開けた。
千夜の前に逢夜と更夜が中を窺いながら立っていた。
「お姉様、話の進行状況はどうでしょうか?」
逢夜が丁寧に千夜に尋ねた。
「……ああ、もういいだろう。入れ。」
千夜は逢夜と更夜を中に入れた。
「千夜……どうしてわかったの?」
ルルは近くに座る逢夜と更夜を眺めながら千夜に不思議そうに言った。
「わずかな気だ。逢夜も更夜も今は警戒態勢ではないため、気が漏れている。足音はもとからないから忍の場合、音の判断はできないからな。」
「へ……へえ……。」
当たり前のように言う千夜にルルは圧倒された。
ルルの隣に座った逢夜はルルの状態を見て首を傾げたが大切なことを伝えるためルルの名を呼んだ。
「ルル……お前に言っておきたいことがある。」
「え?何?逢夜……。」
ルルは驚いて逢夜に目を向けた。
「俺はお前を助けた後もお前を追いかけてずっと一緒にいるぜ。別れなんてねぇよ。俺に告白した事を後悔する事になるぜ。」
逢夜はルルに軽くほほ笑んだ。
ルルもつられて笑うと大きく頷いた。
「ありがとう。逢夜。私も逢夜が逃げてもずっと追いかけて行って最終的には絞め……あ、いや……追いかけるよ!」
「絞め……?」
逢夜が顔色を悪くしたので憐夜が慌てて口を挟んだ。
「た、たとえですよ!お兄様!」
憐夜の一言で一同はクスクスと笑った。それを見ながらルルは人生を終えた者達の偉大さを感じた。死者は生者を正の道へ導く……昔の人間達も同じことを言っていた。ルルも彼らと関わった事で心が晴れたような気がする。
「ああ、それで……先程の話なんだが……。」
会話がきれた所で千夜がルルに声をかけた。
「うん。逢夜と私が離れなくてもいいって話でしょ?」
「そうだ。逢夜、お前は最大の勘違いをしているぞ。」
千夜の言葉に逢夜は首を傾げた。
「なんでしょう?」
「我々は以前、霊だった。映像化したこの生者達の心の中でエネルギーとなり消費されるのを待つ存在だ。しかし、今は違う。我々はTOKIの世界を守るKの使いとなった。我々はもう死んでいるがプログラムは霊のプログラムではない。Kの使いとしてのプログラムだ。つまり、現世にいる神々同様、人間の目には映らないが現世の世界には行けるぞ。現世の神と同じ権限を持ち、こちらの世界での霊としての権限も持つ。神でも霊でも人間でもないがその内、すべてのデータを私達は持っている。」
千夜の説明に逢夜は目を見開いた。
「そうか……。俺はKの権限云々関係なしに現世に行けるのか。Kから何も頼まれなくても行ける……。」
「理論上はな。忍だったというのにその素直な笑みはなんだ?かわいいやつだな。」
千夜に言われ、逢夜は自分がごく普通に喜んでいる事を知った。恥ずかしかったので頬を赤らめ下を向いた。
「じゃあ、千夜、逢夜と一緒にいられるの!?」
ルルも輝かしい笑みを千夜に向けた。
「その前にルル、ルルには解決しなければならない問題がある。……ルルが消えたら元も子もない。」
「そ、そっか。」
千夜の一言にルルは目を伏せた。
「その件なのですが、私がいい案を思いつきました。」
ふと更夜が声を上げた。




