視界の月夜七話5
「この生きている者の心が霊達の住処で世界だ。死者はこの世界のどこかで毎日を生活している。毎日と言ってもそれぞれの世界によって時間がないところもあるけどな。
とにかく、魂のエネルギーが完全に消えて新しいエネルギーになるまで霊達はここで魂を燃やし続ける。別に何もしない。楽しく暮らすだけだ。ここは宇宙空間だ。このどっかの心の世界の一日が地球上で百五十年の所もある。時間の管轄もめちゃくちゃだ。だが俺の弟達が視界の時神をやっているため、監視はできている。」
逢夜はそのまま自由に宇宙空間を飛び始めた。
「逢夜……も、もし私一神でここに入っていたら……本当に戻れる確率はゼロ?」
「……ちょっとやってみようか?」
「え?」
逢夜は突然ルルの手を放した。ルルの体に突然重力がかかった。
「……っ!」
ルルは頭が真っ白なまま勢いよく下へと落下した。
「いやああ!」
ルルは騒いだが絶叫はすぐに収まった。逢夜が素早くルルの手を取ったのでルルはまた再び無重力に支配されふわふわと浮き始めた。
「……わかったか?肉体を持っているとこうなる。下にある世界のどれかに落ちて誰かの上辺の世界を永遠にさまよう。」
「……。」
ルルは顔を青ざめさせながらネガフィルムのようになっている世界を見つめた。
「まあ、肉体がないなら大丈夫だけどな。あいつらみたいに。」
逢夜はルルを抱えてネガフィルムのようになっている場所まで飛んでいった。その付近には白い光が多数にフヨフヨ浮いていた。
「こ、これは?」
「魂だ。こいつらはこれから他の世界で生活するのか何かイベントごとでもあって別の世界に遊びにいくのかだな。」
魂達は迷うことなく目的の世界へと入り込んでいく。
「は、はあ……。」
魂はネガフィルムのような一つ一つの世界に水滴のように落ちていった。よく見ると水滴のように落ちていった世界の内部で魂は人型へと姿を変えていた。
「ああやって誰かの心に入るとその心の持ち主のイメージにより形を持つ。形を持つって言っても姿は生前とあまり変わらないが姿かたちの年齢は自分で変える事ができる。つまり、すごく歳いって死んだじーさんでも子供の姿がよけりゃあ子供の姿になれるってわけだ。」
「へ、へえ……弐の世界……視界って面白いんだね。」
ルルは吸い込まれていく魂を物珍しそうに見つめながら逢夜に答えた。
「で……ルルの世界は……。」
逢夜はルルを抱えながらネガフィルムにある一つ一つの世界を見ていく。
「もうちょっと下か?」
逢夜は沢山のネガフィルムが連なり絡まる内部へと進んでいった。
「……見つけた。あれだ。」
逢夜は少し下にあったネガフィルムの帯の一つに近づいて行った。
「お、逢夜……なんで迷わずにすぐに見つけられるの?私、全然わかんないよ。」
「俺はKの使いで霊だぜ……。データとエネルギーの種類を見ればけっこう簡単にわかる。だがルルはそれに特化している神じゃない。お前にはそれを見分けるプログラムが入っていないからわからないんだ。別に必要もないしな。」
逢夜は不安げなルルに笑いかけると一つの世界へと飛び込んでいった。
その世界に飛び込んだ時、辺りは真っ白だったがルルはどこか安心感を覚えていた。ゆっくりと下降する逢夜に抱かれながらルルは不安と安心の両方を得ているというよくわからない気持ちだった。
……ここが私の心の世界?……なのかな。真っ白……。
ルルがそう思った時、霧のような白い空間が弾け、濃い緑色の草原と青く澄んだ海、真っ赤な色の鳥居が上空写真のように見えた。まるで鳥になったみたいだった。
……ここが私の世界……きれい……。
ルルは逢夜に抱えられながらその美しい景色を茫然と見つめた。




