視界の月夜七話4
外に出た逢夜は盆栽が飾ってある庭を越えて迷うことなく霧の中へと足を踏み入れた。ルルはよくわからなかったのでなすがままに逢夜について行った。
霧の中に入ってから辺りが真っ白になり前も見えなくなった。それでも逢夜は足を止めない。
「逢夜……なんかこれ……やばそうだよ……。」
ルルが小さく声を上げた。
「ああ、普通だったら謎の違和感と恐怖心が襲うだろう。それに従うのは正しい。ここから先、現世の神、生きている者達が肉体を持ったまま入り込むと迷い、二度と外へは出られない。世界からは忘れられ、こちらの弐の世界、視界に迎えられる。つまり……死ぬ。」
逢夜の言葉を聞いてルルはさっと顔を青ざめさせた。
「でも大丈夫だ。俺がいるからな。俺の手を握っていれば俺の体から俺のデータがルルに届く。そうすればルルも俺と同じデータを持っている事になるんでルルを含めて俺となるんだ。まあ、恥ずかしく言うと一心同体ってやつだ。」
逢夜は軽く笑いながらルルに説明をした。ルルは一心同体のフレーズに顔を真っ赤にし、口をパクパク動かしていた。
「……?ルル?よこしまな意味で言ったんじゃないぜ……。」
ルルの反応を見て逢夜はため息をついた。
「う、うん……私今……逢夜と繋がっているんだね。」
「……つながっているって……まあ、そうなんだが……声だけ聞いている奴がいたら誤解しそうだな……。っと……ここから弐の世界内、視界に入るぜ。」
逢夜は立ち止まるとルルを振り返った。
「ここからって……真っ白なんだけど……。」
ルルが戸惑っていると逢夜が足を一歩前に進めた。逢夜に引っ張られルルは強制的に視界内と思われる空間に足を踏み入れた。
「……っ!」
足を踏み出した刹那、ルルは目を見開いた。突然、足元の重力がなくなった。浮いているのか歩いているのかもよくわからない。逢夜はさらにルルを連れて先へと進む。
逢夜はもうすでに歩いていなかった。空を飛んでいる感じだ。
「……う、浮いている……の?」
「ああ、浮いている。これが視界のバイパス部分だ。ここからそれぞれの感情を持つ生物の世界がある。ルルの世界は俺ならすぐに見つけられるぜ。」
逢夜はまたさらに進んだ。気がつくと霧はなくなっており、辺りは宇宙空間のようになっていた。本当に宇宙なのか星がキラキラと輝いている。
「ルル、下を見てみろ。」
「……?」
逢夜に言われ、ルルは下を向いた。四方八方、下もすべて宇宙空間だった。ルルの遥か下では様々な世界がネガフィルムのように複雑に絡まり合っていた。
雪が降っている世界の横は常夏の世界だったりなど時代背景、季節もすべてバラバラだ。
「これが一つ一つ、誰かの心の世界だ。今見えている世界は上辺の心の世界。この世界に入り込むとさらに下に個々の真髄の世界がある。真髄は本当に心を許している者でないと入る事はできない。特に人間は嘘の心で本当を隠す生き物だ。複数の世界を持っている者もあり、真髄の世界に行く事は非常に難しい。」
「……心ってこうなっているんだ……。」
ルルは茫然と沢山の世界を見つめていた。




