視界の月夜七話3
「……厄の浄化について……おお、こっちは近そうだ。」
逢夜とルルが真剣に目を向け始めた時に天記神がクッキーと紅茶を盆にのせて持ってきた。
「どうぞ。おいしいですよ。」
「ん?ああ、ありがとう。」
「わあ、おいしそう。ありがとう!」
逢夜は軽く返事をしただけだがルルはクッキーの方に目がいってしまっていた。
「ルル、厄除けの神は厄の処理をする時に自身の神格が壊れないように楽しい夢を見るようにできているらしい。それが正常に動いていないと悪夢を見、その神の心……視界は自身の厄にまみれて狂い、最期は視界に飲まれて消えてしまうそうだ。視界では厄……負の感情エネルギーとして処理されるようだぜ。」
逢夜の言葉にルルは食べていたクッキーを噛まずに飲み込んでしまった。
「ゲホゲホっ……え……私自身も厄として処理されちゃうの?……それに夢?みてないよ?夢……。」
「覚えていないだけかもしれない。お前自身の厄もそろそろたまって来るんじゃねぇかな……。急いだほうが良さそうだ。まずはルル本体の厄を払うか……お前の世界がどうなっているかで方針が変わりそうだ。」
「そ、そうだよね……。人間の厄を受けて処理できないんじゃあ私自身も厄がたまるよね……。現世に放出しててもやっぱり自分にもたまると思う……。」
ルルが自分の胸辺りに手を置いた。
「……厄がたまっているかたまっていないかは俺にはわからない。お前自身の世界はお前の目で見て判断しろ。俺も一緒に行ってやるよ。」
逢夜はルルの背中を軽く叩くと頷いた。
「あ、ありがとう……。でも弐(視界)に行くってことは……寝るって事?」
「いや、俺がそのままのお前を導く。俺はKの使いで霊だ。視界は自由に動ける。普通の魂ならば姿形がない状態で視界を動き、自分の世界に入った時に肉体を持つ。俺は元々霊だが普通の霊じゃねぇ。だから肉体がある状態で視界内のコンタクト部分を進むことができるんだ。」
「……ご、ごめん。よくわからないよ。」
ルルはせっかくの逢夜の説明をあまり理解できなかった。
「んん……まあ、実際行ってみればわかるぜ。ふむ……この本の記述によるとルルの基質は愛情のようだな。」
逢夜はパラパラと手に持った本の記述を読んでいく。
「まあ、セツが関わっているから当然か。悪い方面にいってしまった縁を失くす、もしくはいい方へつなげる……といった事をルルと同じ基質の厄神は無意識にやっているようだぜ。そっち方面のデータを圧縮し中身を組み換えて人にとって良いと思われるデータに変換し、再び世に放つ……こないだお前に説明した事を難しく言うとこの本のような説明になるようだ。つまり、お前はパソコンでいう所のデータの変換ソフト。」
「……う?うん……。」
「……ルルは圧縮のところまではできるが組み換えの所で別のデータが邪魔をする……。……そうか……つまり、その部分のプログラムを変える事ができればルルは厄神としての業務が正常通りできる……。」
逢夜は本を読みながら一人頷いた。
「……そ、それはどういう事?」
ルルの不思議そうな顔を見、逢夜は腕を組みながら口を開いた。
「……先に俺の姉弟にルルをちゃんと紹介して相談しようかとも思ったが……その前にやっぱりルルの心の世界(ルルの視界)に行くのが先だ。そのプログラムがどんなものなのかちゃんと目で見ないとな。」
逢夜はきょとんとしているルルの手を掴むと本を閉じ立ち上がった。
「お、逢夜?」
「天記神、ありがとう。助かったぜ。」
少し離れた場所で本の整理をしていた天記神に逢夜はお礼を言った。
「あ、あら?もう行かれるのですか?またのご利用をお待ちしております。」
天記神は少し戸惑った顔を向けていたが丁寧に返答し手を振ってきた。
ルルは突然の事であったがとりあえず天記神に笑顔で手を振っておいた。
逢夜も軽く手を上げるとドアを開けてルルを引っ張りながら外へと出て行った。




