視界の月夜七話2
あまりの眩しさにルルが目を瞑っていると逢夜に肩を揺すられた。
「おい。目開けて大丈夫だぜ。」
逢夜に言われてルルは恐る恐る目を開いた。
「えっ!ここは……何?」
ルルは目の前の光景に驚き、声を上げた。ルルと逢夜は先程の図書館ではなく、なぜか野外にいた。空は霧が覆っていて見えないが辺りはジャングルのような森の中だった。
「行くぜ。」
「え?い、行くって?」
「天記神のとこだ。少し調べたい事もある。」
「とりあえず来い」と逢夜はルルの手を引き歩き出した。一応、細い道ができている。草木が分かれているだけの道を少し進むとすぐに大きくて古そうな洋館が現れた。
「な、なんか怖いよ……。ホラー映画とかに出てきそう……。」
「……あれは図書館だぜ。ただの図書館。」
怯えているルルの手を優しく引きながら逢夜は古そうな洋館に近づいて行った。
洋館の前には様々な種類の盆栽が元気に育っていた。手入れもきれいにされていたが天記神とやらの趣味なのだろうか……。
ルルは立派な盆栽を茫然と眺めながら怯えの入った顔で洋館の扉の前に立った。
隣にいた逢夜は何のためらいもなく重そうな扉を引いて開けた。
「お、逢夜……そんないきなり……。」
ルルが戸惑った声を上げた時、男の声がした。
「あらぁ、いらっしゃい。図書館へようこそ。」
男の声はどこか女性的でもあった。逢夜とルルは中へと入った。中は明治っぽい雰囲気が漂い、和と洋が混ざったような場所だった。長机がそこそこ置いてあり、後は天井まで続く本棚だった。本棚にはびっしりと本が収まっていた。
「わあ……。」
ルルは天井付近までそびえる本棚に目を丸くした。
……上の方の本はどうやってとるんだろ……。
そんなことを思っていると前から特徴的な格好の男が歩いてきた。星形をモチーフにしたような謎の帽子を被っており、青色の髪が腰まで伸びている。紫色の着物に身を包み、オレンジ色の瞳はどこか気品がある。顔つきは優しい感じの整った顔つきだった。
だが仕草がどこか女のようだった。
「ゆっくりしていってくださいませ。それとも何か調べたいことがございますか?わたくし、天記神にお任せ下さいませ。」
天記神と名乗った男は口に手を当てて「ホホホ」と笑っていた。
……おか……オカマ……なのかな?
ルルはそう思ったが口には出さなかった。
「天記神、視界内での厄神の仕組みを詳しく調べたい。」
逢夜は天記神に調べたいことを伝えた。どうやら逢夜はこの図書館で厄神の仕組みについて今よりも詳しく知ろうとしているらしい。
「はい。わかりました。少しお待ちを。」
天記神は優しくほほ笑むと手を上にかざした。かざした瞬間に本棚の上の方の本が一冊、二冊と勝手に取り出され、風のように舞って降りてきた。
「えー……これと、これと……これ……かしら?」
天記神は上から舞うように落ちてきた本三冊を手に取ると近くの長机に置いた。
「すぐわかるんだね……。」
ルルの一言に天記神はまた口に手を当てておしとやかに笑った。
「もちろん、わたくしは書庫の神ですから。」
「この三冊か?」
「ええ。」
逢夜の問いかけに天記神は軽く頷いた。
三冊の本は古文書のような感じだった。文字も今の文字とは違い、崩し字でタイトルが書かれていた。
逢夜は本の一冊を手に取ると読み始めた。
「お、逢夜……これ……読めるの?」
ルルが中身を覗きながら訝しげに逢夜に尋ねた。
「読める……そりゃあ読めるよなあ。俺の時代ではこれが普通だぜ……?」
逢夜は首を傾げながら目を再び本に戻した。
「そ、そっか。」
「……最近誕生した神はまあ、読めねえか。……最初は厄神の種類についてだな。厄除けと厄神の二種類がいる。厄神は何か障る事があると厄を振りまく。無垢で単純な者が多い。人間はそれを祭る事によって怒りが静まったと感じ安心を得る。事実厄神は人間の祈りにより大切にしてもらえると落ち着く事が多い。障らないようにすることが大事である。」
逢夜はルルにもわかるように文章を読み始めた。その間、天記神はお茶とお茶菓子を取りに奥にある小部屋へと去って行った。
「そして厄除けの神は人々の厄を自ら体に取り込み浄化する事を主としている。自然現象よりかは人間についた厄を落とすのが一般的な厄除けの神だ。……んん……これは少し内容が古すぎるぞ。俺が知りたいのは取り込んだ後の厄除け神内での話で視界での厄処理の事だ。」
逢夜はさわりだけ読んで本を閉じた。
「じゃ、じゃあこっちのちょっと最近っぽい本はどうかな?」
ルルは残り二冊の内の一冊を手に取り、逢夜に渡した。
「ん?……ああ、じゃあこっちを読んでみるか。」
逢夜は本を受け取り開いた。




