視界の月夜六話7
「……っ!おい!セツ!」
……逢夜様がルルに本気になってほしい……逢夜様に助けられるなんて……あの時を境にずっと夢にみていました。
……逢夜様ならきっとルルを見つけてくれるって信じておりました。ここまでルルは無事に来た……逢夜様が守ってくださったのでしょう。私の時よりもたくさん……。
ああ……あの時代の時にそうだったら……。
……なんて……ね。私って迷惑な神。ルル……ごめんなさい。
……逢夜様……最後に現世で会えるとは思っていませんでした。私を許してください。
「セツ!」
後ろで逢夜の声が聞こえたがセツ姫はもう外に出ようとは思わなかった。霊的空間内に入り目を閉じる。
……私の今の神力はもうほとんどない……逢夜様が来るのがもう百年早かったら……私は生まれ変わろうなんて思わなかったでしょう。
……いいえ、もういいの。逢夜様が現世に現れるなんて全く思っていなかったし、もし現れたら逢夜様を困らせて消えるって決めてたから。これが私の復讐になりました。ルルには本当に申し訳ないと思っています。
……ああ、そろそろ時間ですね。ここまでたどり着いてくれるかはカケでしたけど逢夜様はルルをここまで連れてきた……連れて来れなかったらそれでいいと思ってたけど連れてきた……ギリギリまでここで待っていて良かった……。運命ってあるんですね。
セツ姫はどこかすがすがしい顔で伸びをした。体は徐々に足から消えている。
……新しく生まれ変わっても逢夜様を見たらすぐに恋に向かう感じだったらいいな……。
セツ姫は小さく笑うと安心したように消えて行った。
「うう!」
「ルル!どうした?」
社外でルルが小さく呻いた。逢夜は慌ててルルに目を向けた。
「……セツ姫さんが……消えてしまったみたい……。」
「……っ!」
逢夜はルルの言葉で咄嗟に駆けだした。
社の扉を乱暴に開ける。
「セツ!」
社内の霊的空間ではセツ姫によく似た女性が驚きながらこちらを見ていた。
「あ、あの……どちら様?」
「セツ……。」
「セツ……?ああ、私を知っている方ですか?私はセツではなくて留女厄神と申します。前世がいたようですが私は新しく生まれた厄除けの神です。よろしくお願いします。」
セツ姫に似た女性は丁寧にお辞儀をしてきた。逢夜の事をまったく知らないようだった。
「セツ……。」
逢夜はセツ姫が自分に何がしたかったのかに気が付いた。
……あいつがしたかったのは復讐だ。すべてを壊した俺への……。
逢夜は元セツ姫に軽く会釈をすると社外へそっと出て行った。
「……逢夜……大丈夫?」
出てきた逢夜にルルは心配そうに尋ねた。
「ああ……なんだか不思議な気分だぜ……。俺は愛されてもいたし憎まれてもいたようだ……。最後に会えて良かった。ここまで来るともうなんだかすがすがしい。セツは消えた。……今度は俺があいつにいつか復讐してやるぜ。」
逢夜は頭を抱え、軽く笑った。
「……復讐?よくわからないけどいじめはダメだよ。」
ルルはよくわからなかったが逢夜に合わせてほほ笑んだ。
「そんな事じゃねぇよ。ま、まあ、いい。……よし、じゃあ、一応、お前の厄の方面はわかった。とりあえずは一度、鶴の元へ戻ろうか。」
「う、うん。」
逢夜はルルに手を伸ばした。
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社内に残された元セツ姫は首を傾げていた。
……しかしあの銀髪の人……どっかで見た事あるような気がするのよね。
……でも男らしくてすごく優しそうな人だった。
……また来たら惚れちゃいそうだわ。
元セツ姫は幸せそうに彼を思い出していた。
彼に惚れる……それが逢夜のセツ姫に対する復讐のお返しなのかもしれない。




