視界の月夜六話6
セツ姫はゆっくりと逢夜とルルの前まで歩いてきた。
「ルルは……私の分社から最近生まれた厄神……元は私なのです。どちらかといえば私の子供のようなものですね。ですが、ルルはルルで私ではありません。私が生まれ変わるにつれて元の役目を引き継ぐ者としてルルが生まれたようですね。……ふふ……ルルは逢夜に恋をしている……。これはあなたの意思か私の心か……どっちなのでしょうね。」
セツ姫はまたも切なげに笑った。セツ姫にルルは特に何も言えなかった。
「セツ……お前は今、幸せなのか……?俺が壊した物は……元に戻ったか?」
逢夜は苦しそうにセツ姫を見つめた。
「逢夜様、私は今、様々な人々に必要とされてとても幸せです。あちらこちらに分社も建ちました。逢夜様……私はずっとあなたを愛していました……。」
セツ姫は逢夜の胸に飛び込んだ。逢夜はセツ姫を強く抱きしめた。
二人が出会うのに長い時間が経過しすぎていた。セツ姫はもうとっくの昔に逢夜を求める気持ちを諦め、別の道を歩き始めていた。
お互いが恋に落ちる事は難しそうだった。
「セツ……俺も愛していたぜ。ずっと前からな……。」
「……やっと……あなたの表の優しさが出ましたね……。……ルル、逢夜はとても優しいでしょう?きっとあなたには最初からとても優しくしてくれたと思います。」
セツ姫は逢夜から離れるとルルに言葉を発した。
「……うん。すごく優しいよ。……私はセツ姫さんみたいに強くないから沢山迷惑をかけているよ……。私も実は……。」
「あなたもあなたの仕事ができなくなりつつある……。」
ルルが先を続けようとした時、セツ姫が先に言った。
「そ、そう……なんだけど……。」
「それは私のせいです。私が生まれ変わるにあたってはじめて幸せに思った感情を忘れたくなくてあなたに渡した……それがあなたの中の歯車を狂わす原因になった……私のせいです。私の狂った力があなたに入り込んだからです。」
セツ姫は平然とルルに言い放った。
「セツ……俺を想う気持ちを失くさねえようにしてくれんのは嬉しいが……お前の好意でルルが辛い目に遭っている……。なんとかできないか?」
逢夜は険しい顔つきでセツ姫に声をかけた。
「私ではなんともできません。これはもうルルの問題です。私の問題じゃありません。」
セツ姫は冷たく言った。
「そんなっ……。」
ルルはなんだかショックを受けた。ルルは今初めて会ったが裏切られた気持ちになった。
だが不思議とセツ姫を恨む方向へは行かなかった。
ルルにはセツ姫の心がわかったような気がした。
「おい、セツ、そりゃあ自分勝手すぎるぞ。お前が招いた事ならお前もルルを助けようとするべきだぜ。ルルは完全な被害者だ。ルルはお前の道具じゃない。」
逢夜はセツ姫を軽く睨んだ。
セツ姫は逢夜達に背を向けると社の方へ歩いて行った。
「おい!セツ!」
「……逢夜様、ルルを助けるのはあなたです。あなたが優しく、強くルルを守ってあげてください……。私にしてくれなかった事を彼女に沢山してあげてください……。見捨てたらルルは消えます。ルルが消えても私は知りません……。」
「……。」
セツ姫はふてくされたように言い放つとこちらを振り返らずに歩みを進める。
セツ姫はルルに追体験をさせようとしているようだった。
「逢夜様……。」
セツ姫は社の扉から中に入ると振り返った。
「愛しています……今もずっと……。」
セツ姫はまた切なげに笑うと扉を静かに閉めた。




